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魔法ハッカー  作者: 木野二九
成りすまされた衝撃_Spoofing attack
13/34

最も美しいプログラム

ミキさんが。

「じゃ、またなー! 楽しかったぞ」

と、帰ってしまうと…… 当たり前だけどルビーさんと2人きりになった。


確かに声をかけたのは僕だけど、意図しない方向に爆進してる気がしてならない。


「えーっと、ルビーさんこれから宜しく」


コクコクと頷く彼女に、内心冷汗ダラダラだ。

革のベストを押し上げる胸と、ホットパンツから延びる太ももにどうしても目が行ってしまう。


勝手に脳内カメラがカシャリとシャッターを切る。

――うーん、いよいよ危険度が増して来た。


まず、ローラさんになんて説明しよう。いやその前に、どうしてこうなったか冷静に考え直す必要があるだろう。


問題が発生したときは、初めに戻って間違いの元を探す。

プログラムのチェックの基本だ。


――でもどこが始まりなんだろう?


「どうかした?」


心配そうに覗き込むルビーさんの瞳を、再確認する。

さっき見たハスラーな印象は全く感じられない。気のせいだったかな?


まあ、でも…… 一応確認しとくか。


「さっきの石、ルビーさんの魔力を借りて書き直したんだけど。

あの呪文って見覚えある?」


「呪文? そんなものは見えなかった」


やっぱり、普通は見えないのか……

「言葉や文字ってさ、人と森人と竜人とで同じなの」


「それは同じ。だから、しゃべれてる」


無表情でとつとつと話すけど、会話自体は嫌いじゃなさそうだし。

宿までの道は長いから、少し付き合ってもらおう。


「僕はまだここに来て間もないから、分かんないことが多くって。

いろいろ聞いても良い?」

「いい」


「コンピュータって聞いたことある?」

「ない」


「ソレを操作する命令と、魔力を操作する命令が似てるんだ」

「そう」


「でね、さっき石に書いてあった呪文が、僕の知ってるヤツがよく使ってた命令と同じ内容だったんだ」

「そう」


「それでさ、ふと思ったんだけど。ひょっとして『痩せガエル』って呼ばれる魔法使いとか、いる?」

「いる」


「それ、どんなヤツ?」

「レコンキャスタ。 ――彼らは痩せたカエルの絵を徽章にしてる」


うーん、そー来るかー。

そしてもう1回、ルビーさんの瞳を確認する。


……うーん、そー来るかー。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



借りた部屋の前に着くと、僕は大きく深呼吸した。

「さっき話したけどローラさんは良い人だから、きっと上手く行くと思うんだ」


僕の言葉にルビーさんがコクコクト頷く。

「ちょっと待ってて、先ずは事情を説明するから」



ノックするとローラさんの返事が聞こえたから、そっと扉を開ける。


「ただいま。あのさ、ちょっと紹介したい人がいるんだけど」

ローラさんは僕を見ると、その大きなツリ目をパチリと瞬かせた。


「そう、誰?」


今日の買い物でそろえた装備なんだろうか。

ビキニアーマーって言うのかな?


大きな胸が金属製の鎧におおわれてる姿は…… キャップ萌え?

インパクトがあって、なんだか『美』を感じる。


「今日森であった人なんだけど、事情があって……

――これから一緒に生活しようと思ってる。

もちろん具体的にどうするかは、ローラさんの意見を聞いてからだけど」


僕の言葉に、少し戸惑ってから。


「あ、あたしには決定権なんか無いわよ。

そう言うのはあんたが決めて、命令すればいいから」


「前にも話したけど、ローラさんを奴隷として扱うつもりは無いです。

それよりも、今後どうしたら一番いいか…… いろいろ相談に乗ってほしくて。

まだ、この国の事も良く分かってないから」


ローラさんは、呆れたようにため息をついた。

「分かったわ、で、その紹介したい人って何処にいるの?」


「部屋の外で待っててもらってる。

それから……」


ずっとモジモジしてたローラさんに、思い切って言ってみる。


「その新しい服? 鎧?

ローラさんにとても似合ってますよ、綺麗です」


2番目の父。 ――最初の養父だったシンイチが昔言ってた。

「素晴らしい、美しいと思ったら、声に出して伝えなさい。

特に女性にはね!」と。


最もそれをして、上手く行ったためしがないけど。

なんだか今回は、言った方が良い気がしたから。


「――あ、ありがとう」


ローラさんは消え入るような声でそう言うと、顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

やっぱり、言わない方が良かったんだろうか。


「オイラーの等式みたいって意味で……」


どうフォローしたら良いか分かんなくて、ついついそう言ってしまった。

でもこれは、本心だ。


「オイラー?」


「オイラーの等式。

僕がいたところで、最も美しいって言われた数式なんだ。

eiπ + 1 = 0

<自然対数 e 円周率 Π 虚数単位 i 数字の 1 (ないし -1)>


互いにあまり関係なさそうな概念が集まって、

『なんじゃこりゃ~?

こんな式、成り立つ訳ないだろう!』

って言う驚きと。


式の論理的根拠が理解できてくると、

『なんて精密で、意味があって、奥が深いんだろう』

て言う感動が同居するんだ」



ローラさんの頭の上に ?が、3つぐらい並んだ気がする。


「まあ、あんたが喜んでくれるんなら……

お礼って訳じゃないけど、こう言うカッコ好きそうだったし。

それにほら、あたしみたいなスピード重視の剣士には、急所だけガードできる軽装の方が有利だしね……」


そう早口でまくし立てた。


やっぱりチラ見はバレるんだな。以後気を付けよう!



そう言えば僕が小学生の頃、オイラーの等式に感動してたら。

シンイチが、

「じゃあ、最も美しいプログラムって何だと思う?」

って、聞いてきたっけ。


「なにそれ?」

僕の質問に。


「ハート!」

親指で自分の胸をつついて、笑った。


「シンイチはAIプログラムの研究をするより、哲学者か宗教家になればいい」

僕が笑うと。

シンイチも無精ひげをさすりながら、一緒に笑ってくれた。

――僕の数少ない、楽しい記憶のひとつだ。



ローラさんの胸元に目が行くのを堪えながら。


「ハートか……」

ひとり言がこぼれる。


その謎を解き明かすことは、僕には無理だろう。

縁が無いって言うか、まずそのプログラムに触れるチャンスが訪れない気がする。


そっぽを向いてしまったローラさんを見ながら、僕はそう確信した。



■■ ■■ ■■ ■■ ■■ ■■



ルビーさんを部屋に通して事情を説明する。

その後、2人は時折笑顔を交えながら話をしてた。


まあ、これなら心配ないかな。


問題は、ローラさんの新しい服はミニスカートのような鎧だから、都合美しい太ももが4つ並んでる事だ。


脳内データベースを検索しながら、ルビーさんの太ももの危険度について考察してみる。

――あの、艶も形もかなりヤバい。


「もういい時間だから、食堂に行こう」

お昼ご飯はミキさんに略奪されたから、けっこうお腹が空いてる。


僕は一度思考を切り替えてから、笑顔で2人に話しかけた。

何時までも太ももばかり見てたら、また前世みたいにキモイって言われそうだしね。



「じゃあ、16歳ならあたしと同じだね。

森から出るの初めてなんだ、これから宜しくね」


ローラさんはお酒を注文してたけど、今日は元気よく肉に食らい付いてた。


「よろしく。 ……ローラ様」


「ははっ! 様はいいよ、ローラって呼んで。あたしもルビーって呼ぶから」

「わかった」


「でも凄い魔力だね、近くにいると感じるモノがあるわ……

――森では上位の魔術師だったの?」


「魔人とのハーフだから、魔力があるだけ。

森では下働きだった」


ルビーさんも結構パクパクと食べる。これは、追加の注文が必要かな?


「いま森で治療を受けてるあの2人は、有名人なの?」


意外と2人で話すより、3人いた方が会話が弾む。

だから、ローラさんに聞きたかった事を質問してみた。


「繰姫パティも、剣王キースも『転生者』よ。

あいつらは、チートって呼ばれる規格外の能力を持ってて……

まあ、強いから有名よ」


「ねえ、転生者って嫌われてるの?」


「なんだろ? 生まれつきの強者だから、嫌われ者が多いかな?

知識も豊富だし、頭の回転が速いのも多いしね。

最近は転生者ばかり集まって、なんかしてるって噂もあるしさ」


「僕も転生者なんだけど」


「あー、確かにそれっぽい話? だけど…… 冗談でしょ。

何人か転生者にあったけど、オーラって言うか、魔力量って言うか。

そーゆーの。全然あんたから感じないもん」


ローラさんは、面白そうに笑った。


――それをどう評価したら良いか悩む。

まあここは前向きに「好意が持てる」と言ってくれたと、理解しておこう。


「ルビーが転生者なら、信じるけどね。森人と魔人のハーフかー。

今まで大変だったかもしれないけど、その生い立ちはこれから凄い武器になるよ!」


ルビーさんの笑顔が、ちょっとだけ歪んだ。


「転生者って、別の世界からの生まれ代わりなんでしょ。

って事は、その前生きてた時と、容姿とかも似るのかな?」


僕の質問に、ローラさんが少し考えて。


「そーね、あたしが知ってるヤツが『子供の頃は別人だったけど、大人になったら前世に似て来た』って、愚痴ってたのを聞いたことがある。

でも、人生を2度繰り返すって、どんな感じなんだろ」


ローラさんが、ぐいぐいとジョッキを空ける。

昨日とは違って楽しい感じの食事だったから、特に止めないで追加のオーダーを取った。

ルビーさんも何か食べたそうな感じだったし。


――確認のため、声をかける。


「ねえ、葵さんも何かたのむ?」

「うん」


コクリと頷いた後に……


――ウソがばれた子供みたいな顔をして、僕を見つめ返した。


うーん、そー来るかー。

この問題を解決するには『最も美しいプログラム』の謎を……



――僕は解かなくてはいけないのだろうか。

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