何かが見える
これは、俺が、大学の夏休みを利用して実家に帰省した時の話だ。
俺の実家は二階建ての普通の民家で、庭に小さな畑がある。うん、変わってない。
大きな荷物を持って玄関を入り、ギシギシと音を立てる廊下をゆくと、突き当たりの引き戸が現れる。開けると、そこは居間だ。畳が敷かれ、真ん中には角テーブルが置かれている。縁側では風鈴が揺れていた。
「あら、お帰り。電車早かったのね」
台所から居間に入ってきたのは母親だった。エプロン姿、半年前と何一つ変わってない実家の有り様に安堵する。
「ああ、ただいま」
「麦茶でも飲む?」
「よろしく」
台所へ戻って行く母親を見送り、テーブルの前に座った時である。
「ん……?」
視線を感じ、辺りを見回す。
……気のせいか?
と、天井近くに取り付けられているクーラーが目に入った。
「はい、お待たせ」
「なぁ、クーラーつけたのか?」
麦茶を持ってきた母親に問うと、苦笑いを浮かべた。
「お父さんが拾ってきたのよ。取りつけは業者さんにやってもらったんだけど、安くつけられたから」
「へぇ」
この家は風がよく通るので、必要ないと思うけどな。
「あんた、自分の部屋は掃除して使いなさいよ」
母親はそう言って再び台所へ。
少なくとも一週間は滞在する予定だから、念入りに掃除をしとくか。
麦茶を飲み干した俺はゆっくりと立ち上がった。
「……んー?」
クーラーと目線が同じなったことで違和感を覚えた。隙間の奥で何かが動いたのだ。
「なんだ?」
目を凝らし、覗き込む。クーラーの奥に見えたのは……、
「ひっっ」
潰れた女の顔だった。