勝ち逃げのまま終わらせる
*4Sが現在の体制になる少し前のお話
*全編ほぼ会話文
*とある事件の舞台裏
「あ?潜入!?」
「そっ」
「何で俺なんだよ」
「今動けるのアンタしかいないんだよ。他の連中は潜入できるような奴らじゃないし」
「どこに潜入するんだ」
「警視庁」
「ここじゃねぇかふざけてんのか!?」
「どうしてそう喧嘩腰かね?警視庁捜査一課の普通の刑事さんとして潜入して、とある殺人事件の犯人を捕まえてきてほしいんだよねぇ」
「殺人事件?何だ、また裏の連中が手ぇ出したのか」
「いいや、普通の殺人事件だよ」
「じゃあ俺ら必要ないじゃん」
「それがね、その犯人が、どうやらかなり『こっち側』に近い思考の持ち主らしくて、法律じゃ裁けなさそうだけど野放しにしとくと危ないっていうお上の判断なんだよ」
「だからって刑事に化ける必要はあるのか?」
「普通の殺人事件なんだから裏から手ぇ出したらルール違反でしょうが。それに、私たちは本来存在しない人間なんだから、何かに成りすまさないと表の人間には手を出せない」
「めんどくせぇなぁ…」
「つべこべ言わない。ホラ、データと資料はここにあるから、すぐ頭に入れて」
「へいへい」
「ちょうど向こうに欠員が出てたからアンタをねじ込むのは簡単だったよ」
「てめぇ自分の尻拭いだろそれ」
「まさか作戦中にここの刑事に見つかるなんて思ってもよらなかったからさぁ。でも身柄はもう確保できてるし、根回しも済んだ」
「早っ」
「私だって命は惜しいからね。だからこの件終わったら私消えるから。あとよろしく」
「はぁ!?」
「副官アンタなんだし、昇格してリーダーやれば?」
「ぜってぇやだよリーダーなんてめんどくせぇの! …そういやその新入りは今どこにいるんだ?」
「奥の部屋。そいつなかなか筋がいいんだよ。今まで普通の刑事だったのが嘘みたい。適応力抜群だね」
「じゃそいつリーダーにしちまえば? …じゃ」
「こちら、L。これより作戦を開始する」
「了解、レオン。いってらっしゃい」
*
「ふーん、花神楽市、ね…」
「しっかし変なとこだなぁ。何か尋常じゃねぇ空気してるな」
「普通の殺人事件っつってもな。なになに…被害者は、津幡亜紀、37歳……ひでぇ顔してんなぁ…これ元分かんねぇじゃねぇか。…ま、それが目的か。どれ、いっちょ聞き込みでもすっか。そう言われてるし」
「しかしめんどくせぇな。……あ、すいません。少しお話いいでしょうか。私、警視庁捜査一課の………」
「へぇ、花神楽高校、ね…面白そうなところじゃねぇの。資料にもあった通りだ。最後に会ってたのはそこの養護教諭…しんや?あ、ふかや、かこれ。『深夜 霧』」
「でも手順踏むっつってもよ、助っ人の新米刑事1人で事件解決しろって方が無理あるだろ。でも、犯人とトリックくらいは暴かないと犯人しょっぴけないかー。……あ、そうだ」
「さっきの話にあった、あいつら使えばいいんじゃねぇの?」
「我ながらナイスアイディアだな。とりあえずまずはあの養護教諭の話を聞きに行くか。あいつらにはそれから何か理由つけて接触しよ」
*
「あーおかしかったーアンタのあの話!」
「なぁ……これさすがに無理ねぇか?」
「大丈夫でしょ。向こうは所詮ガキだ」
「でもあいつらただのガキじゃねぇぞ。今は妨害してるからいいけど、警察手帳に盗聴器仕掛けてきやがった」
「へぇすごいね。今時高校生でもそんなもん手に入るんだ」
「ネットってすげぇよな」
「で?そっち何があったの?」
「全部聞いてたくせに聞くなよめんどくせぇ」
「どう思う?」
「どうもこうも、あのアマがクズ野郎共をこき使ってるってだけの話だろ。何でこんなまどろっこしい真似しなきゃいけねぇんだよ」
「まぁ、何事にも順序ってもんがあるしね。それにしてもあの三人、ちょっと面白そうだねぇ。見ててよ。…場合によっちゃ、こっちの敵になる可能性もあるからね」
「…分かってらぁ」
*
「あの子ら随分入れ込んでるね、あの事件に」
「興味関心だけで動いてるんだろ。好奇心が満たされればそれでいいんだよ」
「さて、そろそろ向こうの警察が情報を掴む頃かな」
「何事も、順序、か?」
「情報小出しにしてるから。そっちまで来たら流していいよ」
「分かった」
「五十嵐!」
「あ、はい!」
「いってらっしゃい、い・が・ら・し・さん♪」
「おちょくってんのかてめぇ」
*
「やっべぇ、今バレるかと思った」
「何あのアルビノくん。すっごい興味あるんだけど」
「てめぇ見てたのかよ」
「君のパソコンは基本的にこっちでも見られるからね」
「このクソアマ…」
「で?行くんでしょその深夜さんとかいう人のとこ」
「もちろん」
「あ、そろそろアレ出していいよ。資料に入ってたでしょ?現場写真」
「流出させて大丈夫なのかよ」
「後始末はこっちでするから」
「そうかよ。向こうが勝手に推理して解決してくれりゃ万々歳だからいいけどよ」
*
「タイミング良すぎだって、気付かねぇもんだなぁ」
「大概みんな単純にできてるもんよ」
「それによく見つかったもんだな、埋まってたんだろ?それが偶然地すべりで掘り返されちまったわけだ」
「あの雨と地すべりは、このままで終わってほしくない仏さんの執念だったのかもしれないねぇ」
「そんな迷信みてぇなモン信じるタチかよ」
「どうかねぇ、分かんないよ」
「でも、これで、俺の仕事はようやく大詰めだ」
「このことが分かれば向こうも真相に気付いてくれるだろうね」
「俺が言ったことも向こうは確実に聞いてる」
「聞かせるためにわざわざ言ってたんだもんねぇ…くくっ、アンタの熱血刑事の熱演っぷり、聞いてて面白いよ」
「てめぇ帰ったら一発殴らせろ」
「アンタに殴られたらあたしでも死んじゃうよ、勘弁して」
*
(あー…長かった)
こうして今、駅のホームで犯人と対峙しているわけだが、『五十嵐春馬』の真剣な表情とは裏腹に、彼は心底うんざりしていた。確かにこの犯人の思考は常人のものではない。周りも信じられないという嫌悪の表情を浮かべている。どうしてこんなのが表社会に堂々と居座っていたのか。裏の人間なら、こんな面倒な思いをせずに済んだのに。
「霧!!」
(あ)
犯人が自分を力ずくで押しのけてくる。女のいざというときの馬鹿力は侮れない。犯人が線路へ飛び降りていくのを視界の端に捉えると、すでに外していた盗聴器を、よろめく勢いで持ち主の方へと放り投げた。
全員の視線が犯人、すなわち下に釘付けになっていたのはある種の幸運と言えるだろう。彼は真上に飛んだ。垂直飛びの要領にしては常人を超えた高さで飛び上がり、ホームの屋根の端を掴んだ。懸垂と逆上がりを合わせたようなフォームで、足から屋根の上に上がる。体勢を整えるとすぐに屋根から屋根へと飛びその場を離れた。ここまで、物音ひとつ立てていなかった。
*
「…こちら、L」
「なんだ」
「!?…あれ、お前誰?あいつは?」
「あの女は姿を消した」
「えっ!?」
「私はあの女から、このチームの司令官を任された」
「お前…もしかしてあの、例の新人?」
「そうだ」
「は!?あのアマ、俺の言ったこと真に受けやがったな!!」
「お前が副指令だそうだな。よろしく頼む、レオン」
「あんた、いいのかよこんな得体の知れないとこで、何にも分かりゃしねぇのに司令官なんかホイホイ引き受けちまっても……って」
「お前今、俺の……俺Lとしか言ってねぇぞ」
「作戦前の、お前とあの女の会話を扉の前で聞いていた。…盗み聞きするつもりはなかったんだが」
「え?」
(奥の部屋にいるとは言ってたけど…気が付かなかった…気配一つしなかった…)
「…お前、なんていうんだ?」
「え?」
「付けてもらったんだろ?呼び名」
「あぁ……私は、『S』。『セイル』だ」
「S……」
(なるほどな。こりゃ、期待をかけられてんなぁ)
「よろしくな、セイル」
「で、何の用だ」
「あぁ、そうそう。…作戦完了。犯人の確保に成功した。撤収支援部隊を要請する。…これで分かるか?」
「あぁ。了解した」
SSSのBチームが暴食トリオの未来ifだとしたら、SチームはBチームができるよりずっと前に存在してたと思うのよね。で、あの昼ドラミステリーでの事件の前後でセイルがリーダーに就任してたらいいなぁと思ったのね。
というわけで昼ドラミステリーの舞台裏。
元々は、生徒たちだけじゃ情報面で難があると思ってオリジナルの刑事をあの話で登場させようと思ったのが発端。妙に協力的だったのもその後鮮やかに姿を消したのも、裏で手を引いていたからで、もっとメタなことを言うとその後の学パロの展開に影響を残さないために犯人とこの刑事は速やかに退場させる必要があったから。