こかげ④
~夢と現~
「・・・お姉ちゃんっ」
「つばき・・・!」
「やっと会えた~!
ほんとに、本物?!」
「・・・ほんもの。
久しぶり、元気そうだね」
「・・・もぉっ!
どこ行ってたの?!
みんなすっごい心配して・・・心配してぇぇぇ・・・」
「ああもう・・・ほんと、ゴメンね。
泣かないで、ね、つばき。
心配かけたよね、ゴメンね・・・?」
「うぅ・・・うん・・・よかったよぉ、無事で・・・っく」
「ゴメンね・・・ありがとう、つばき。
・・・会いたかったよ」
「わぉ・・・これ、エンゲージ?」
「・・・う、うん」
「すごーい!
大きーい!
きらきらしてるー!」
「うん、綺麗でしょ?」
「いいなぁ、こんなのくれる人と付き合ってるのかぁ~」
「・・・だから、結婚。
・・・してたんだってば・・・」
「・・・どこの国の人?英語喋れる?」
「英語は喋れません。
でも、緑色の瞳がとっても綺麗な人だよ」
「えぇ~、ほんとに~?」
「ほんとだってば・・・」
「でもお姉ちゃん、もう私ももう子どもじゃないんだからね。
伯父さんにも伯母さんにも黙っててあげるからさ、本当のこと話してよ」
「つばき・・・」
「だってそうでしょ?
異世界なんて、そんなのあるわけ、」
「やめて!
・・・否定しないで・・・!」
「お姉ちゃん・・・?!」
「・・・お願いだから・・・」
「・・・つばき?」
「・・・ん・・・」
「悲しい夢でも見ましたか・・・?」
「ん・・・」
「おはよう」
「・・・あっ・・・ぅ・・・!」
「どうしたんです、苦しいんですか?
・・・え?泣いてるんですか?
・・・え、ええ?!」
「・・・ジェイドさ・・・っ」
「ああ、ほら、擦ったら目が腫れちゃいますよ・・・?
どうしました、何ですか、世界の終わりでも見ましたか?」
「わ、わたし・・・お姉ちゃんに、」
「お姉ちゃん?」
「未菜お姉ちゃんに、」
「ミナ?
彼女の夢を見たんですか?」
「酷いこと言っちゃっ・・・!」
「ああもう、分かりましたから。
ね、泣かないで・・・」
「どうしよう、ジェイドさん、どうしよう・・・っ」
「うん、大丈夫ですよ。大丈夫です。
・・・すぐに会えるんだから、その時にちゃんと謝りましょう。ね?」
「・・・ほんとに、会える・・・?」
「会えますよ。
あともう少しです」
「ほんと・・・?」
「ええ、本当です。
だから、心配しなくていいですよ・・・私も一緒に謝りますから、ね?」
「ん・・・そぉ・・・?」
「ええ・・・って、つばき・・・?」
「・・・ん・・・じぇ、ど・・・ん・・・」
「・・・あー・・・寝ますか、また・・・」
「Zzz・・・」
「・・・もう・・・。
今度は私の夢、見て下さいね。
・・・あ、今のうちに匂いを・・・」
「・・・んん・・・んぅ・・・っ」
「・・・これでよし、と・・・。
おやすみ、つばき・・・」
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56話と57話の間の話でした。
ジェイドさん、つばきが眠っている間にこっそり匂い付けをしていたみたいです。
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~キッチンにて~
「お邪魔してもいいですか・・・?
あ、栗鼠さん」
「あ、お嬢様!
おはようございます、お体は大丈夫ですか?」
「えーっと・・・その、お嬢様っていうのはちょっと・・・」
「でも、わたしはお嬢様って呼ぶのが好きです」
「うーん、じゃあ、それでいいです」
「はい。
・・・それで、キッチンに何か御用ですか?
あ、お腹空きましたか?」
「ううん、違うんです。
ちょっと、お菓子を作らせてもらいたくって・・・」
「お菓子ですか」
「はい。前にも作ったんだけど、カップケーキを・・・」
「うーん、分かりました。
わたしもここで夕食の下準備があるので、場所を分けましょうか」
「あら、ルルゼさまも一緒だったんですね~」
「は、はい・・・」
「ほら、こっち。
ルルゼも一緒にカップケーキ作ろう!」
「でも私、」
「大丈夫!
私もナイフの類は怖くて触れないの。だから、そういうものは使わないからさ。
火傷だけ気をつければルルゼも出来るでしょ。
オーブンには触らないようにして・・・ね?
そしたらね~、えっと・・・」
「あ、あの、リアさ・・・」
「はいこれ、持ってて」
「え、あ、」
「で、分量量るんだけど・・・メモリは私が見るから、ルルゼはこれ、」
「え?」
「袋の中身、ナッツが入ってるの」
「はい」
「で、ちょっと手貸して・・・ここ、ここに少しずつナッツを落として?」
「・・・は、はいっ」
「・・・もっともっと」
「これくらい?」
「うん、あとちょっと」
「ん、と・・・どう?」
「・・・おっけ、ぴったり」
「じゃあ今度は、はいこれ」
「・・・これ?」
「えっと、泡だて器。
こうやって・・・ぐるぐる、ぐるぐる・・・お願いね?」
「うんっ」
「じゃあ私は、オーブンに余熱してこなくっちゃ」
「・・・わ、いい匂い・・・!」
「だよね~。
つまみ食いしたくなっちゃうよね。
ルルゼ、そこ動かないでね・・・よっ、と・・・」
「出来ました?」
「あ、栗鼠さん。
・・・うん、あと冷ましたらクリームと果物で飾ろうかなぁ・・・」
「・・・私、出来ることあるかしら・・・」
「ルルゼには、クリームの泡立てしてもらおうかな」
「はいっ」
「・・・栗鼠さんも、お願いしていいですか?」
「はい、もちろんです!」
「ありがとー。
じゃあ、果物のカットをお願いします。
・・・あ、私ナイフ見ちゃうと鳥肌が・・・ごめんなさい」
「大丈夫ですよ、シェイディアードさまから聞いてましたから。
お任せ下さい♪」
「お願いします!
それじゃ、ルルゼの泡立ては・・・っと・・・」
「そういえばさ、ルルゼは自分で髪結ってるの?」
「え?それは、まぁ・・・」
「そっか・・・」
「大丈夫ですよ、お嬢様!
男性に髪を結ってもらうのは、愛されてる証拠です!」
「・・・栗鼠さんそれ・・・」
「え、リアさん、誰に結ってもらってるの?」
「え、あの、」
「知りたいですか~?」
「ちょ、栗鼠さん?!」
「誰ですか、誰ですか?!」
「うふふー」
「いやー!」
「・・・楽しそうですねぇ・・・」
「今は入らない方が良さそうだね。
それよりジェイド、君、リアちゃんの髪結ってあげてたの」
「いやそれは、彼女があまりに不器用で・・・。
それに、髪を結うことに関しては、エルだって、」
「おいジェイド」
「なになになにー?!
男ばっかりでこんなとこで何してんの?
覗き?」
「こらロウファ。
・・・あなたこそ、ここで何してるんです。
いや、そもそも玄関通って来ました?」
「うん?
まあ、ほら、カタいこと言うなって~」
「不法侵入か。連行するか」
「ああもういいですから。
人の家で物騒な雰囲気を出さないで下さい。他所でお願いします」
「まー、あれだね。
リアちゃん達には、早く帰ったことは内緒にして、ここは素通りしよう・・・」
「えー、覗きは?」
「するか阿呆」
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59話のすぐ後の会話。
キッチンで、つばきとルルゼがカップケーキを作っています。
栗鼠さんは、夕食の下準備のためにキッチンにいて、少し手伝ってくれました。
そして、早く帰宅したジェイド、教授、シュウ、不法侵入らしきロウファが、キッチンの前を通りかかったようです。
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~畳について~
「あれ、ジェイドさん何か怒ってる・・・?」
「怒ってません」
「嘘つき。
ジェイドさん嫌なことあると、ちょっと目が細くなるもん」
「・・・え」
「私、何かした・・・?」
「ああ、いや、ええと・・・」
「なあに・・・?」
「大したことではないんですが・・・。
どうして、つばきはラグの上を転がるんです」
「・・・ダメ?」
「いや、ダメではないですけどね・・・」
「純粋な疑問?」
「・・・目のやり場に困るんです」
「え、見えてたの?!
だからたまに、服の裾引っ張ってたの?!」
「違いますっ。
もしそんなことになっていたら喜んで黙ってますよ」
「それもどうなの・・・。
・・・じゃあ目のやり場って、足?」
「そうです、足が出すぎなんです。
もうちょっと、なんとかなりませんか・・・」
「うーん、でも、ごろごろするのに慣れちゃって・・・。
気持ち良いんだもん。暖炉の前・・・」
「仕方ないですねぇ。
他の人の前でやっちゃ、絶対ダメですからね?」
「はぁーい」
「それにしても、あなたの国の人達は皆そうなんですか?」
「ん?」
「ごろごろする習慣でもあるんですか?」
「習慣、ていうか・・・畳があるからね」
「タタミ・・・」
「そう。畳っていうラグみたいなものがあるんだ。
私も、15くらいの時に移住したから最初は戸惑ったけどね。
いぐさ、って言ってね。私も、生えてるところを見たことはないんだけど」
「草から作られてるんですか」
「うーん、たぶん。
真新しいのだと、草のいい匂いがするんだよ~。
最初は鼻につく匂いだと思ってたんだけど、慣れると安心する匂いっていうか」
「・・・不思議な文化があるんですねぇ」
「そうだね、他の国の人から見たら、そうなのかも。
とにかく、畳の上でごろごろするのが大好きだったのね」
「なるほど。
・・・こちらの世界でも、作れるでしょうか」
「どうだろ、いぐさが見つからないかもね。
私、見たことないし・・・たぶんお姉ちゃんも見たことないんじゃないかな」
「タタミが、恋しいですか?」
「うーん・・・私は、暖炉が珍しくない場所にも住んでたことあるし・・・。
家の中の雰囲気も違和感感じなかったから、大丈夫だと思う。
・・・どっちかって言うと、お姉ちゃんの方が畳は恋しいんじゃないかな」
「・・・ということは」
「ん?」
「つばきは単純に、ごろごろするのが好き、ということなんですね」
「・・・うん」
「困ったな・・・私、膝から上に弱いんですよねぇ・・・」
「ん?何か言った?」
「いえいえ、何も」
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60話の合間に交わされた会話。
つばきは基本的に、ジェイドさんの前で自由奔放です。
そのジェイドさんはというと、どうやら膝上が大好物のようです。
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~図書館職員と私~
「こんにちは~」
「あ、いらっしゃい」
「ジェイドさんに頼まれて、資料を探しに来ました」
「うん、じゃあ一緒に探そうか」
「え?
大丈夫ですよ、持ち出し禁止の区画には、前にシュウさんと一緒に来たことあるし・・・」
「いいから。
お兄さんの親切は素直に受けておきなさい」
「ん、じゃあ、お言葉に甘えて・・・」
「それで、何の本を探しに来たんだろう?」
「え、えっと・・・」
「何、メモ?
・・・ふぅん、どれ・・・?」
「き、キッシェさん、ちか、」
「ん?」
「そんなに近くじゃ見えなくないですか?!」
「全然?よく見えるけど?」
「いやあの・・・もう、本探して下さい、本!」
「え~」
「えーって何?!
だから近い!!」
「・・・そんなに怒ることないでしょうよ・・・。
だってリアちゃん、いい匂いするんだもん」
「い、いいいい匂い・・・?!」
「やだもー、可愛いなぁ」
「か、かわいい?!」
「顔が真っ赤だよ?」
「それは、キッシェさんが近いから・・・!」
「おや、おかえりなさい」
「た、ただいま・・・」
「何かありました?
顔が・・・ん・・・?」
「なあに・・・?」
「つばき、ちょっとこっちに」
「え~・・・」
「いいから、こっち来なさい」
「・・・なあに・・・ぅわっ」
「・・・ふぅん・・・」
「ちょ、ジェイドさんっ。
もぉっ、コート脱げないっ!」
「・・・この匂い、誰です?」
「匂い?」
「ええ、誰でしょう」
「言ってる意味が、よくわかんないけど・・・」
「図書館で、誰かが近づいてきましたね?
・・・かなり近くに」
「あ」
「誰です、言いなさい」
「いや、あの、怒っても仕返ししない?」
「・・・しませんよ?」
「あ、嘘ついた」
「・・・しません」
「もう、何でもないんだってば。
・・・絶っ対何でもないんだから」
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61話の途中、つばきが回想している「キッシェさんが寄ってくる」の会話。
横槍を入れるのか、入れないのか。
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