渡り廊下③
~今年もお世話になりました 準備編~
「ミナ、何書いてるんだ?」
「・・・あ、うん、ちょっとね・・・」
「ちょっと・・・?」
「うん、ちょ・・・って、あぁっ!」
「隠すな。
見せてみろ」
「それは取る前に言おうよ!」
「・・・ディディアに?」
「・・・うん、年末のご挨拶のお菓子にね、メッセージカード付けようかと思って」
「また手のかかることを・・・」
「・・・ダメ?
もしかして皆さん、そういうの嫌がると思う?」
「いや、お前らしくていいんじゃないか。
・・・で、何て書いたんだ?」
~ディディアさんへ~
毎日の激務お疲れさまです。
今年は本当にお世話になりました。
きっと不慣れな私は、団長のお仕事を増やしていたことでしょうね。すみません。
来年は、白の女子でお食事会でもしたいですね。
いつも微笑みを絶やさない団長を、私も見習わなくてはと思っています。
来年も、よろしくお願いします。
~ミナ~
「・・・お食事会・・・」
「うん、たまには女性だけで楽しむのもいいかと思って。
ほら、子守の仕事って、あんまり白の人達と関わる機会がないから・・・」
「ああ、なるほどな・・・。
それで、他は誰に?」
「えっと・・・ヴィエッタさん、ジェイドさん、アン、ノルガ、あとはレイラさんとリオン君。
陛下とチェルニー様と・・・」
「・・・そんなにあるのか」
「うん。
もうほとんど書き終わったから、そろそろ寝ようかと思ってたとこなの」
「そうか。
・・・これは・・・ん?
・・・ジェイドか」
「・・・あっ・・・!」
「なんだ、見せられないようなことでも書いたか」
「や、あの、そんなことないけど・・・」
「・・・・・・」
「わ、あの、見ないで~!」
~ジェイドさんへ~
毎日お仕事、お疲れさまです。
初めて王宮にやって来た私に、温かく接して下さって、ありがとうございました。
あの日から、まだほんの数ヶ月しか経っていないなんて、不思議な気持ちです。
・・・頭痛が酷くて病院に連れていってもらった時など、ジェイドさんには本当に、お世話になりっぱなしで・・・。
感謝しています。言葉では言い表せないくらい。
あまり無理なさらないで、たまには息抜きをして下さいね。
・・・いつか倒れないか心配です。
~ミナ~
「・・・書き直し」
「えぇっ・・・?!
ど、どうして?!」
「・・・気に食わない。
書き直しだ、今すぐ。ここで」
「えぇぇ・・・。
あ、でも、シュウにも書いたんだよ?!
見る?見てみて!」
「・・・そうか。ありがとう。それは楽しみにとっておく。
とにかく、ジェイドのは書き直してくれ」
「・・・えぇぇ・・・」
「それとこれとは別だ」
「そんなぁ・・・もう夜中だよ・・・」
「俺も付き合うから、今ここで、ぱっと書け。
今年の礼なら、ひと言で十分だ」
「・・・も、眠い・・・」
「・・・頼むから、来年は、もう少し安心させてくれ」
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「渡り廊下」小話【今年もお世話になりました】で配る焼き菓子を準備する2人の会話。
ミナは年賀状のつもりで書いているようですが、そういった習慣のないシュウには、ラブレターまがいのメッセージに見えるようです。
他意がないのは分かっているのですが、どうにも。
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~結婚指輪を買いに~
『それでは、ごゆっくりご覧下さいね。
何かありましたら、いつでもお声がけ下さい』
「・・・どれがいいかなぁ・・・」
「どれでも、気に入ったものを選ぶといい」
「うん、それは嬉しいんだけどね・・・」
「どうした、何か気がかりでもあるのか?
金額のことは、それほど気にしなくても大丈夫だが」
「うん、それも嬉しいんだけど・・・」
「じゃあどうしたんだ?」
「・・・ずっと先のことを想像してたの」
「・・・先?」
「そう・・・。
今気に入ったとしても、これから何十年も身につけるでしょ?
手が皺くちゃになっても似合うような、シンプルなものがいいのかな、と思って・・・」
「・・・なるほど」
「うん、だって私達の手、皺くちゃになるんだよ?
そんな、魔王様みたいなゴツゴツした指輪じゃ、全然和まないと思う・・・」
「・・・今さらだがその、まおう、というのは一体何なんだ?」
「ええと、あの、その人については、また今度説明します・・・」
「ああ、まあいいが・・・」
「ところでシュウは、結婚したら、指輪を嵌めて過ごすの?」
「・・・何を言ってるんだ?
嵌めるから買うんじゃないのか?」
「いや、そうなんだけどね・・・?
私のいた世界では、結婚指輪をしない男性既婚者もいるから・・・」
「そうなのか?
・・・匂いもなく印もつけなかったら、番がいると、周囲が分からないだろ」
「えっと、そうなんだけど・・・。
どうだろう、私が見てきたことだけを思い浮かべて喋っちゃってるから・・・。
でも、うちのお父さんも指輪してなかったみたいだけど、ちゃんと愛妻家だからね」
「・・・理解に苦しむな、異世界・・・」
「まあ、あの、あんまり難しく考えないでね。
私はただ、男の人が指輪をしてる姿って、今まで身近で見たことがなかったから、
ちょっと気になって訊いてみただけだよ」
「そうか」
「うん、そうなの。
・・・たぶん仕事の邪魔になったり、今までに指輪を嵌める習慣がなかったり・・・。
そういう理由があるんだと思うけど・・・気にしないでね、私達は私達だし」
「俺は嵌める」
「うん、それは良かった。
私も嵌めて生活すると思う・・・子守の仕事にも影響ないだろうし」
「そうしてくれ。
おかしな奴が寄ってこなくて済む」
「・・・そこは、心配要らないと思うよ・・・。
シュウの匂いが定着してから、男の人に話しかけても妙によそよそしいもん・・・」
「それはそうだ。
蒼鬼のものだと分かって馴れ馴れしくする奴は、ごく少数だろうな」
「・・・ノルガとキッシェさんに仲良くしてもらおう・・・」
『ではこちらで・・・。
指輪の内側に文字を入れることも出来ますけれど、どうしましょうか?』
「入れよう」
「・・・もしかして、何か考えてきたの?」
「ああ」
「・・・シュウ、乗り気だったんだね・・・。
何て文字入れするの・・・?」
『では、こちらの紙に記入をお願いいたしますね』
「ああ。
・・・・・・・・・・・・」
「・・・ぐっ、ごほっ・・・」
「どうした」
「・・・けほけほっ・・・。
なにそれ・・・?!
も、顔、熱い・・・。
そんなこと彫るの・・・?」
「おかしいか?」
「いや、おかしくはないけど・・・」
「間違ってないと思うが」
「うん、間違ってもないと思うけどね・・・」
「・・・じゃあ何だ」
「だって、恥ずかしいよ・・・」
「・・・なら問題ないな」
「えぇ・・・」
「ミナは、何か入れたいものがあるのか?」
「入れたいっていうか、お互いの誕生日とか・・・結婚記念日を入れるんじゃないの?」
「却下だ」
「えぇぇ・・・」
「私、絶対指輪外さないと思う・・・」
「・・・どうした」
「だって外すたびに、シュウの書いたメッセージが見えちゃうじゃない」
「見ないのか?」
「・・・いい。嵌める前に一回だけ見たら十分」
「寝る時くらいは外した方がいいんじゃないか。
・・・シャワーを浴びる時とか・・・」
「・・いいのっ。
気が緩んだ時に見ちゃったら、知恵熱が出る」
「じゃあ毎晩耳元で囁いてやるか」
「・・・やめてよー」
「そうか、そんなに嬉しいか」
「もう、信じられない・・・っ」
「ん?
嫌いにでもなったか?」
「・・・なりました。たった今」
「残念だが、もう逃がすつもりはないぞ・・・?
番の印まで作ったんだしな」
「それはこっちの台詞です!」
「・・・ん?」
「・・・シュウだって、もう逃げられないんだからね・・・」
「ああ、望むところだな」
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祈りの夜の後、年が明けるまでの間にミナとシュウは2人で結婚指輪の注文に行ったようです。
指輪の内側に、どんなメッセージが彫られたのかは秘密です。
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