こかげ②
~チョコレートと私~
「ジェイドさん」
「・・・ん?」
「チョコレート食べたいです」
「・・・そんなにアレばかり食べてると、お肉が付きますよ。
・・・いや、肉はもう少し付いてもいいのか・・・」
「・・・?
大丈夫ですよ、筋トレしてるもん!」
「・・・きんとれ・・・?」
「筋力トレーニング、の略です。
ちゃんと腹筋とか背筋とか、鍛えてるんですから。
まだまだ基礎代謝はイケてますよ~」
「・・・そうですか・・・。
私はふにふにしてる方が、どちらかというと好きですよ?」
「・・・うん、と・・・この会話、噛み合ってます?」
「ええ、私はふにふにが好きです」
「ああ、まあいいのかな・・・えと・・・。
とにかく、チョコレートが食べたいです、私。
注射の恐怖に耐えた心を癒すために、絶対に必要です・・・」
「わかりました、じゃあ買いに寄りましょうね」
「やった♪」
「それで、今後の参考のためにお尋ねしますが・・・」
「はい」
「チョコレートがあると、嫌なことを我慢できるということですか?」
「・・・うーん・・・嫌なことと引き換えには出来ないですよ」
「ふむ・・・なら、どういう位置づけなのか教えて下さい」
「位置づけ・・・チョコにそんな、小難しい言葉・・・。
えーと・・・ご褒美です、ほんと、単純に。
頑張ったりとか、いいことあった時とか、悲しいことがあった時とか・・・」
「それはご褒美ではないような・・・」
「うーん・・・とにかく、何かの後に食べるのが好きです」
「なるほど」
「・・・今ので納得したんですか・・・?」
「ええ、なんとなく。
要は、アレがあるとつばきが喜ぶんですね」
「・・・ああ、まぁ、そうです」
「好きな銘柄とか、味とか、ありますか?」
「普通のよりも、ちょっと苦めのが好きです。濃厚なやつ。
あとは細かい好みはないですよ。
ジェイドさんがくれるなら、何でも美味しくいただきます」
「そ、そうですか。
なら、たくさん用意しておきますね・・・楽しみです」
「・・・あれ・・・?
なんとなく嫌な予感がするんですけど、私に何させる気なんですか、ジェイドさん・・・」
「・・・それは、まだ秘密ですよ。
早く秘密が解禁になるといいですねぇ」
「・・・そ、そぉですね・・・」
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本編39話、リュケル先生に採血された後のやり取り。
チョコレートが大好きなつばきのために、ジェイドさんはこのあと少しずついろんなチョコレートを集め始めます。
もちろん何か企んでいるのですが、つばきがそれを知る日は来るのでしょうか。
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~小鳥の餌付け~
「ジェイドさんジェイドさん」
「何です?」
「今朝、出かける前に庭に出たんですけど・・・」
「ああ、そういえば、パンくずを小鳥にあげてましたね。
・・・自分で用意したんですか?」
「あれね、熊さんにもらったんです」
「くまさん・・・」
「庭に出たら、熊みたいな大きな人がいたんです」
「・・・ああ、なるほど」
「本当は、私の落ちた場所を見に行ってみたんです。雪、融けてきたから・・・。
そしたら熊さんが居て、どうぞって・・・」
「そうでしたか。
彼とは、何か話しましたか?」
「ううん、何も・・・。
すっごく無口な人でした。でも、優しかったですよ?」
「・・・・・・そうですか」
「小鳥が私の手の上に乗るようにって、支えてくれました。
可愛かったなぁ・・・初めて餌付けしました」
「・・・・・・そうですか」
「明日も行ったらいるかなぁ、熊さん・・・」
「・・・・・・どうでしょうね」
「ジェイドさん・・・」
「どうしました?」
「今日は熊さんいなかったです・・・」
「ああ・・・それなら大丈夫ですよ。
・・・ほら」
「あ!パンくず!」
「彼から預かってきました。
熊さん、でしたっけ?
明日からは、一緒に餌付け、しましょうね」
「・・・ジェイドさんと?」
「いけませんか?」
「・・・なんか、イメージが・・・」
「出来ますよ、餌付け」
「えー、ほんとに・・・?」
「だって、もうしてますから。慣れたものですよ」
「え?」
「いえいえ、こちらの話です。
明日から、ちょっと早起きして庭に出ましょうね」
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本編47話に入る前のいつかの一場面。
つばきの出会った熊さんは、お屋敷のどこかで働いています。
そして餌付け・・・つばきは餌付けされてる側だと、自分で気づいていません。
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~親孝行?~
「わ、ジェイドさん、肩がっちがち・・・」
「毎日同じ姿勢をすることが多いですからねぇ。
つばきの手だと、愛情がこもっていて効きますね。
・・・あぁ、そこ、いいですねー・・・」
「ん・・・愛情、チョコくれたら多めに込めてあげるねー。
・・・っと、ここ?」
「しっかりしてますねぇ・・・。
ええ、そこ、もうちょっと強めにお願いします」
「もっと強く・・・こ、れくらい・・・?!」
「・・・ぁー・・・」
「ちょ、ジェイドさん、おじいちゃんみたい」
「・・・今だけね。
否定はしません・・・」
「毎日お仕事大変・・・?」
「大変じゃない仕事なんて、この世にはありませんよ」
「・・・そう、だよねぇ・・・。
じゃあ、私のは、仕事じゃない、ね・・・」
「どうでしょうねぇ、雑用に関しては最初の頃より手際も良くなってますし。
痒いところに手が届くまで、あともう少しっていうところですね。
・・・でも、あなたの仕事は、こうやって私を労ってくれたら十分ですよ?」
「また、そういう・・・。
甘やかし、厳禁、です」
「どうして・・・?」
「どうしてもっ。
私はもっと、出来るコになりたいんです」
「・・・何を、出来るように?」
「うーん、具体的に説明出来ないけど・・・。
要は、ジェイドさんに、ちゃんと必要とされたいってこと・・・かなぁ」
「・・・もう十分ですけど?」
「違うのー、そうじゃなくって。
ああもう、なんて言えば伝わるんだ・・・」
「まぁまぁ・・・。
これ以上を望んだら、つばきが疲れて倒れちゃわないか心配です。
それに、これ以上を望んだら、今のあなたにはちょっと過酷かも知れませんよ」
「・・・え、そんなに大変なの、本当の雑用係って・・・」
「いえ、雑用はもう十分です」
「・・・うん?
じゃあ、一体何の話をしてるのジェイドさん」
「ふふ、私は早く教えてあげたいんですけどねぇ」
「(ダメだ、全然言いたいことが汲み取れない・・・)
・・・とにかく。
甘やかし、厳禁、ですからね。
これじゃ、いつまでたっても雛鳥のままだもん」
「おや。
巣立ちをご希望ですか」
「もちろん!」
「・・・名残惜しいような、もったいないような気もしますけれど・・・」
「え?なあに?」
「いえいえ、なんでも。
よく考えたら、つばきは24になるんでしたね。
15も離れてますから、つい子ども扱いしてましたけれど・・・。
実は結構、大人なんですよねぇ」
「・・・やっと気づいてくれたのそれ・・・」
「いや、気づいてましたけど・・・あ、そうだ」
「ん?」
「肩を揉んでくれたお礼に、チョコレートあげましょうか。
苦味の強い、男性に好まれるようなものですけど」
「わぁ、ぜひ!」
「・・・やっぱり、飛べないようにするのはもう少しだけ待ちますか・・・。
・・・これは結構な苦行ですね・・・」
「私お茶淹れるね♪
普通に美味しく!」
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本編45話と46話の間の夜、つばきとジェイドさんの会話。
この2人の会話は、ジェイドさんがつばきに分からないように言葉を発するので、
よく擦れ違って、傍から見ているとちぐはぐな会話になっていることが多いようです。
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