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#うちの子がお月見した (ツイッターで呟いたものを書き直し・シュウ&ミナ








雲ひとつない秋の夜長。

この世界にススキはないけれど、月はある。


「見て、満月」

窓を開けた私の言葉に、ソファに腰掛けて何やら読み物をしているシュウは、ちらりと視線を上げた。

「ん……ああ」

昼間の暑さは風に溶けてしまったのだろうか。吹きこむ風は少し湿っているけれど、ずいぶん涼しい。季節は、ちゃんと前に進んでいるらしい。


まるくて甘そうな満月を見上げて夜の空気を吸い込んだ私は、さして興味がなさそうにしているシュウに目を遣った。

彼はまた、手にした書類に目を落としている。

「シュウは興味、ない……?」

「いや、そんなこともない」


もしかして邪魔だったかな……。

そう思いつつも控えめに尋ねてみれば、光の速さで否定される。

好き嫌いのハッキリした性格で、それを告げることに迷うことの方が少ない彼のことだ。きっと嘘ではないと思う。

だから私は、思い切って誘ってみることにした。

今夜みたいな満月は、そうそう見られるものじゃないし。温かいお茶を淹れて、窓辺にクッションを置いて。のんびりお月見をするくらいの休憩は、きっと許される。

……最近のシュウは、ちょっとばかり仕事中毒なのだ。


「……じゃあ一緒に見」

「ミナ」


断られるかも、と思いながら口にした言葉は、あっけなく遮られた。やっぱり、光の速さで。食いつくように。


シュウが、喉元で言葉を詰まらせた私を見て、口の端を持ち上げる。

……あ。なんだか嫌な予感。


「狼男って、知ってるか」


……知っていますとも。

咄嗟に頷きそうになったのを堪えた私は、自分を突き動かす何かに素直になってみることにした。

これはあれだ。被捕食者としての条件反射みたいなものだ。

私は大きく首を振った。


「し、知らな」

「知ってるな」


最後まで言わせてくれないシュウの瞳が、きらりと輝いた。気がした。

こういうことは、たまにある。

主に休みの前の日の夜、食事が終わった後だとか、そんな時だ。要は、あとは寝るだけ、という時である。

そういえば、彼の祖先は狼で。そのせいか、立派に肉食だ。


思考がひと巡りしたところで、私は我に返った。今、獲物としてロックオンされているのは他ならぬ私だということを思い出して。


シュウが、手にした書類をテーブルの上に放り出して立ち上がる。何も言わないあたり、頭の中でいろいろ考えているに決まっている。

その目は、じっと私を見据えていて。大股で、数歩。獲物に飛びかかるように、近付いてくる。

……たしかに、もうちょっと構って欲しいとは思ったけれども。これはちょっと違う。


「知ら、」


慌てて首を振り口走った私は、次の瞬間、シュウの腕に抱き上げられていた。

思い切り、目が回りそうな勢いで。


「きぁぁっ」

じたばた。

被捕食者の悪あがき。

咄嗟に両腕を回して、彼の首根っこにしがみ付いてしまうのは悪い癖。この癖のせいで、毎回の私の抵抗がなかったことにされている気が、しないでもない。


ぐっ、と膝の裏を支えるシュウの腕に力が入ったのが分かって、私は息を飲んだ。あんまり暴れると、彼が怪我をするかも知れない。

結局惚れたものが折れる。毎回こうだ。


そんなことを考えて小さく溜息をついた私に、彼が喉を鳴らした。それは事実上の勝利宣言のようなもので。


「悪いな。

 満月のせいだ」



耳元で囁く声が低くて、全身がぞくぞくする。

こうなってしまったら、もう止められないのは分かっていた。だけど、このまま流されっぱなしなのは癪だ。

そう思った私は、まったく悪びれた様子のないシュウに言ってやった。



「それなら我が家のお月見は、満月でなくて三日月の夜にします!」








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