渡り廊下⑩
※時系列曖昧な会話です。
~ミナとシュウのある日の出来事。・・・の翌朝~
「・・・痛い、痛いぃぃ・・・」
「ほら、泣くともっと痛くなるぞ」
「だって、こんなに痛いなんて知らなかったんだもん・・・」
「二日酔いの痛み、か?」
「うん・・・」
「まったく・・・一応俺は止めたんだが」
「分かってます!・・・いたたた・・・」
「とりあえず、薬を飲め」
「うん・・・」
「あの薬、瓶に入っていた分を飲み終えてからでないと、と効き目がないらしい」
「そうなの?」
「ああ。
だから、だろうな」
「なんだ・・・がっかり・・・」
「もう飲むのはやめておけ」
「うん・・・そうする」
「外であんな顔されたら、とてもじゃないが耐えられない」
「どんな顔してたの?」
「可愛い顔」
「・・・ま、真顔で言わないでくれるかな」
「仕方ないだろ、そう思ったものは。
それよりも、本当に覚えてないのか?」
「んー・・・途中からは覚えてる、かな」
「途中?」
「・・・うん、いいよね、それは。
とりあえず、シュウが暴走して、私は二日酔い。それでいいよね」
「どうした?」
「い・い・よ・ね?!」
「・・・あ、ああ・・・いいが・・・痛まないのか?」
「痛いよ、すっごく痛い!」
「・・・わかった、落ち着け」
「うー・・・」
「そういえばさ、シュウも何か買ってなかった?」
「ん?」
「あのお店で・・・私が呼んだ時、お店の人に何か言って・・・」
「あ、ああ・・・なんでもない」
「・・・嘘でしょ、今の」
「ん、あ、いや」
「何買ったの?
怒らないから言ってみて?」
「・・・強くなる、薬を・・・」
「もう強いよね、十分」
「そうじゃない」
「うーん?」
「あれだ。
・・・強壮剤、みたいなものか」
「今、かなりオブラートに包んだでしょ」
「いや、そんなことは・・・ほら、箱を見てみろ」
「・・・何買ってるの、シュウのばかっ」
「え?」
「箱の裏!
いかがわしい絵が載ってますけど!」
「・・・知らなかった」
「そういう薬なんでしょ、要は!」
「そうだ」
「開き直るなーっ」
「ミナ、もう一度訊くが。
・・・痛まないのか?」
「もちろん痛いです!
いろんな意味で、頭が割れそう!」
++++++++++++++++++++++++++++++
でろでろな夕暮れからの、翌朝のやり取り。
シュウ、精力剤を試したいお年頃。まだまだ心配ないくせに。興味津津。
++++++++++++++++++++++++++++++
~七夕ってなあに?~
「さーさーのーは、さーらさら~」
「何だ、その歌。
・・・初めて聴いたが」
「・・・あ。
私、今歌ってた?」
「ああ・・・お前の歌声、ちゃんと聴いたのは初めてだ」
「そ、そうかなぁ・・・結構、鼻唄とか・・・」
「それはそれで、これからも聴きたいが」
「う、うん・・・。
でもあの、真面目なカオで、あんまり直球投げないでくれるかな。はずかし・・・」
「真面目な顔は、生まれつきだ。
直球は・・・ここには球はないんだが・・・?」
「シュウって、スイッチ入ってなくても破壊力あるね」
「・・・破壊力はあるぞ。素手でもいける」
「うん、あの、たぶん私達会話が噛み合ってないよね」
「そうなのか?」
「そうだろうね」
「・・・まあ、いい。
ところでその、さっき歌っていたのは何の歌なんだ?」
「ああ、ええっと・・・あれ、何ていうんだっけ・・・?」
「ど忘れか」
「ううん、違うの・・・ええと、さっきのは七夕っていう・・・」
「タナバタ?」
「うん。
笹っていう・・・あ、ちょっと書くもの取って」
「ああ」
「・・・ありがと。
それで、こう、いう・・・笹っていう植物の枝に、こういう・・・。
こんな形に切った紙・・・短冊っていうんだけど、これに願いごとを書いて、飾るんだ」
「・・・なるほど」
「そうだなぁ・・・祈りの夜、に似てるかな」
「そうか、なんとなく想像が出来た」
「願いごとの種類は、それぞれかな。
試験に受かりますように、とか。
泳ぎが速くなりますように、とか。
・・・結婚出来ますように、とか?」
「割と、自分の力で何とかなりそうな願いが多いのか?」
「うーん・・・人それぞれ、としか言いようが・・・。
それに、なんだかんだで平和なところだったから」
「そうか」
「シュウなら、何を短冊に書く?
せっかくだから、この紙切って、紐通して飾ってみよっか」
「・・・それはいいが・・・」
「うん?」
「俺は特に、願うことなどないぞ」
「えー・・・。
自分のことじゃなくてもいいんだよ?」
「ああ、それなら・・・」
「・・・“2人で長生き出来ますように”・・・?
ずいぶん長期的な願いごとだね・・・」
「ミナは何て書いたんだ?
見せてみろ」
「・・・え、私のは、」
「ほら、見せてみろ」
「・・・あっ、ちょっ、シュウっ?!
もぉっ・・・か、え、し、てっ」
「無駄だ。
お前じゃ届かないだろ」
「やだやだやだ、読まないでーっ。
この、蒼鬼ーっ」
「そうだな、元、が付くがな。
・・・“なるべく長く、一緒に居られますように”・・・」
「・・・だから“願いごと”だって言ったでしょ・・・?」
「ミナ・・・」
「ん、大丈夫。
ちゃんと、分かってるよ・・・。
ほら、10の瞳を継いだら、何日か家を空けるような仕事もあるんだよね」
「ああ・・・それは、すまないが・・・」
「うん・・・ちょっと、心配なだけ」
「心配か・・・」
「・・・うん。
それに北の大国の大佐・・・あ、今は大使だっけ・・・。
ああいう人達とも関わる機会が増えるんだよね・・・?」
「そうだな。
俺が引っ張り出される公の場も、あるだろうな。
アッシュやジェイドの代わりなら、チェルニーが務めるだろうが・・・」
「うん」
「ともかく、心配しなくていい。
・・・って・・・何して・・・?」
「ねぇ・・・シュウ・・・もう1枚・・・あっ」
「こら、見なくていい」
「・・・そっか・・・そうですか・・・」
「まさか、見えたのか」
「んー・・・見えたっていうか、見えた文字から想像したっていうか・・・」
「・・・来い」
「や、ちょ、ひゃぁっ」
「この話、あまり口外するなよ」
「・・・ええと・・・」
「分かった。
何が欲しいか言ってみろ」
「そういうことなら、喜んで忘れます」
「現金な奴だな・・・。
それで、何が欲しいんだ?」
「えっと・・・ね・・・ごにょごにょ・・・」
「・・・そういうことなら、今から・・・」
「うん、そうしよ。
あ、あとね、新しいフライパン欲しいな」
「ああ、上等なやつを買いに行こう」
++++++++++++++++++++++++++++++
七夕についての会話でした。
シュウがもう1枚の短冊に書いた願いごとは、秘密です。
++++++++++++++++++++++++++++++




