渡り廊下⑨
~母と子は、以心伝心・・・かも知れない~
「ねぇシュウ、夕飯、何にしよう?」
「肉がいい。かたまりで、がっつりと」
「えぇぇ・・・。
肉は昨日食べたじゃないですか。
・・・と、赤ちゃんが仰ってます」
「それ、本当に子どもの声なのか?」
「あ、疑ってる?」
「当たり前だ」
「それなら、赤ちゃんからの伝言です。
外の木箱の中に、ジェイドさんから貰ってきたワインが入ってるでしょ!・・・だって」
「・・・何故それを」
「赤ちゃんはね、お母さんが寝てる間にふわーっとお腹から抜け出て、自由に動いてるの」
「嘘をつくな」
「嘘じゃないよ。
シュウが、自分の洋服ダンスに良く分からない謎の紐を隠してることだって・・・」
「・・・何故それを・・・」
「まだあるよ。
お風呂場の棚の奥の方に・・・」
「分かった、信じる。
信じるから、家探しのような真似はさせるな」
「・・・捨てる?」
「え?」
「ワインはいいよ。飲めば。
・・・でもね。
紐とか良く分からない入浴剤とか、何に使うのかは敢えて尋ねませんが、」
「分かった。捨てる。明日捨てる」
「よろしい」
「・・・なあ、」
「うん?」
「頼むから、大きいお腹で動き回らないでくれ」
「・・・赤ちゃんが勝手に、」
「とにかく、気をつけてくれ・・・」
「うーん・・・分かった、気をつけます」
「それにしても、どうして分かったんだ・・・?」
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ミナ、赤ちゃんの仕業に見せかけてガサ入れ。相変わらずちょっと打算的。
シュウも本当に・・・本当に・・・!
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~疑惑の紐~
「・・・で、このタンスに入ってた紐は何なの?」
「それは、アッシュが・・・」
「陛下?!
また陛下絡みなの?!」
「いや待て。違う。そうじゃない」
「・・・うん・・・とりあえず聞くけど・・・。
もしかして、お風呂にあった謎の入浴剤も?」
「アッシュだ」
「・・・分かった。何も言わない。
とりあえず聞く。
だから、きっちり説明してね」
「・・・紐は、もともと俺のだ。
蒼の騎士団では、それぞれが捕縛用の紐を携帯しているから」
「捕縛用・・・」
「そうだ。
覚えてるか?
・・・コインを首から下げていた頃・・・」
「あ。
もしかして、この紐だったの?」
「ああ。
・・・長さや太さが違うが、もとは同じものだ。
これから何があるか分からないから、とりあえず家に置いておけと言われた」
「・・・紐だけ?」
「いや、剣も身を守る防具も、置いてある」
「でも、寝室に剣なんかなかったけど・・・」
「騎士団に所属していた時のものは、本部に置いてある。
あんな大きさのものじゃ、家の中では邪魔だ。振り回せない。
王族所有の紋章を入れた、小さなものを贈られた」
「なるほど・・・そうだったんだ・・・」
「だからあれは、」
「え、でも、」
「・・・・・・」
「この細さと短さじゃ、捕縛には使えな・・・って・・・」
「もっと長くてしっかりしたものは、玄関に置いてある。
災害があった時にも、役に立つだろうからな」
「・・・じゃあこれは・・・タンスの中にあった紐の用途は?」
「・・・捕縛以外の使い方を、教わってきた」
「だ、誰に・・・?」
「アッシュだ。
ちなみに、こうやって・・・」
「・・・って、いい。
教えてくれなくていいです!」
「いいから、ほら手を出せ。
ああ、ベッドがあるから足でもいいが」
「・・・変態。
陛下もシュウも変態!
やだ、やだやだやだ!
こっち来ないで変態!」
「お前、何を想像してるんだ」
「何にも、何にも想像してない!
だからこっち来ないでってば!
シュウ、気持ち悪い!」
「夫に向かってそれはないだろう。
ほら、手でも足でもいいから出せ。お仕置きだ」
「こっち来ないでってば!
ニヤニヤしないでーっ!」
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入浴剤の謎は残りますが、とりあえずシュウは変態さんでした。
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~雨降って地固まる・・・かも知れない~
「やだ、来ないで来ないで来ないでーっ」
「酷いな、それでも妻か」
「夫が紐持って迫ってくる方がおかしいよね?!」
「・・・それは、」
「ほら、今ちょっと目が泳いだ!」
「そんなことは・・・おいミナ後ろ、」
「えっ?・・・あ、わぁっ」
「・・・っ・・・と・・・。
お前は本当に・・・」
「ち、違うでしょ。シュウがおかしなこと・・・!」
「・・・・・・それは、」
「シュウがいけないんだから。
赤ちゃんに何かあったら、どうするの?」
「ミナ、」
「もう知らないっ」
「いや待っ、」
「シュウのばかっ」
「・・・で、下りてこないけど・・・何してるんだろ、シュウ・・・。
ちょっと大げさに言いすぎたかなぁ・・・。
私も、騒ぎすぎたし。
妊婦の自覚も足りなかったんだろうし。
・・・シュウのことだから、本気じゃなかったんだろうし・・・。
見に行った方がいいかなぁ・・・」
「・・・・・・・・・・・。(怒らせてしまった)
・・・・・・・・・・・。(お腹の子も、危ない目に遭わせてしまった)
・・・・・・・・・・・。(馬鹿、か。確かに、馬鹿だな)
・・・・・・・・・・・。(参ったな・・・どう謝ればいいものか・・・)」
「・・・あの、シュウ・・・?」
「・・・」
「ごめんね、言いすぎました・・・」
「・・・」
「シュウ・・・?」
「いや、」
「・・・?」
「俺も、悪ふざけが過ぎた・・・悪かったな」
「ん、いいよ」
「体調は、」
「ん?」
「お腹の子は、大丈夫か」
「うん、シュウの子だからね。丈夫なの」
「そうか」
「うん。
・・・あ、あのね、シュウ・・・?」
「うん?」
「あの、その・・・ちょっとだけなら、いいよ」
「・・・何がだ?」
「だからその・・・ほら・・・紐・・・」
「紐・・・?」
「もう・・・っ、だから、ちょっとだけなら、使ってもいいよ、ってこと!」
「・・・いいのか?」
「う、嬉しそう、だね・・・」
「それは、まあ・・・興味はある」
「やっぱり、変態さんだったんだ・・・」
「いや、正直なだけだ」
「えぇぇ・・・」
「よし、じゃあ早速」
「ちょちょちょ、ちょっと・・・?!」
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プチ喧嘩、そして仲直り。
ミナが絆されて、最終的にはシュウの思い通りの結果に。
雨降って固まる方向性に、多少の問題有り。
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~お花見の打ち合わせ~
「と、いうことで、離宮でお花見をすることになりまして」
「おー・・・」
「・・・どうしたの、つばき・・・」
「ちょっと、最近悪阻がね・・・」
「そっか、そんな時期か。
・・・大丈夫?」
「うぅ・・・あんまり大丈夫じゃないよ~・・・胃がむかむかする・・・」
「でも、レモネードだけでも飲めて良かったじゃない」
「うん・・・熊さんが、冷蔵庫に常備してくれてるから、正直助かってる」
「熊さん・・・って、あの、お屋敷の料理担当の人?」
「そう。
・・・でも、熊さんが作ったもの口に入れてると、ジェイドさんが不機嫌になるのー・・・」
「ああ、それは、ちょっと分かるかも。
たぶん本能的なものだよ。
他の人を近づけたくなくて、過敏になってるんだと思うよ」
「そうなの・・・?
じゃあ、レモネードの作り方ジェイドさんに覚えてもらおうかな・・・」
「う、うん・・・ジェイドさんがキッチンに立ってる姿、微妙だなぁ・・・。
補佐官殿、キッチンに立つ・・・何かのお話のタイトルみたいだね・・・」
「それ、想像でしょ!
言っとくけど、ジェイドさんはエプロンだって似合うんだからね!」
「いや別に、エプロンは似合わなくていいんだけど・・・」
「違う違う、そうじゃなくて。
・・・お花見の話に戻そうね」
「あ、うん」
「で、お弁当の中身を考えてるんだけど」
「唐揚げ、じゃない?
お祖母ちゃんが、“落としたい男には唐揚げ。肉じゃがは古いと思う”って言ってたよ。
あでも、“唐揚げは若いの向け。35超えたら肉じゃがが恋しくなるだろうね”って」
「・・・それはさ、胃袋掴め的な格言だよね?
しかも、うちのお祖母ちゃんの個人的な意見・・・」
「でも、唐揚げは当たりだよね」
「うん、まあ、そうだけど・・・。
じゃあ、唐揚げと・・・出汁巻き卵と・・・アスパラのベーコン巻と・・・」
「私、久しぶりにお稲荷さん食べたいなぁ」
「食べたいねぇ」
「でもさ、お姉ちゃん。
・・・油揚げって、見かけないよね」
「・・・残念です。
お稲荷さんは諦めましょう」
「じゃあ、胡瓜の浅漬けとか。
ほら、お祭りの屋台であったでしょ」
「ああ・・・胡瓜に割り箸刺して、一本漬けにしてあるやつね」
「そうそう!
あんなに美味しいものがあるなんて、私日本に来て良かったな、って思ったよ」
「そっか、あっちではピクルスだもんね」
「あれはあれで、体に良いって分かるんだけど」
「じゃあ、懐かしい味も用意しますか」
「やった!」
「あ、でも・・・」
「ん?」
「そしたら、シュウのお酒も考えなくちゃ」
「でも昼間で、離宮とはいえ王宮の一角でするんでしょ?
・・・飲んでも大丈夫なの?」
「うーん・・・でも、陛下とジェイドさんは、許可をくれたみたいだし・・・。
度数低いので、我慢してもらうってことで・・・」
「・・・なんだかんだで、お姉ちゃんもシュウさんに甘いよねぇ・・・」
「ねえシュウ?」
「うん?」
「ワインの他に、好きなお酒、ある?」
「・・・エールは、酒を飲み始めた頃によく飲んでた」
「エールかぁ・・・じゃあ、エールにしよう」
「何がだ?」
「お花見の時の、お酒の話。
おつまみがね・・・」
「それよりミナ、出産の準備はいいのか?」
「うーん・・・たぶん、まだだよ。
先生も言ってたから・・・」
「予定日がはっきり分からないと、心配だ」
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着実に進行している、お花見企画。
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