こかげ⑨
~婚約指輪はオーダーメイドで~
「つばきー?」
「・・・うん?」
「ああ、ここに居たんですね」
「なあにー?」
「指輪のデザイン画が出来たので、見てもらえますか?」
「え、もう出来たの?」
「ええ。
急がせましたから」
「もしかして、職権乱用的な?」
「否定はしませんが、それだけじゃないですよ?」
「え~・・・大丈夫なの?」
「こちらの熱意が伝わった、と解釈していますけど」
「それは脅しとか、提案という名の命令だとか、そういう類の熱意じゃなくて・・・?」
「・・・否定はしません」
「ああもう・・・いいのかなぁ・・・。
とりあえず、見せてもらうね」
「どうぞ。
・・・良さそうなものばかりですよ~」
「・・・なんかさ、」
「はい」
「どれもこれも奇抜、だね」
「そうですか?
個性に溢れて、とてもいいと思いますが」
「この個性、もはや暴力でしょ。
こんなごっつい指輪は嫌だし、トゲトゲしたのも嫌。
石が大きすぎるのも嫌味だし、悪目立ちしちゃうよ」
「・・・じゃあ、どんなのがいいんですか?」
「うーん・・・もっと華奢なのがいいなぁ。
あんまりお金の匂いがしないのがいい」
「じゃあ、ちょっとここに書いてみて」
「あ、うん。
えーっとね・・・こう、いう、細身で・・・こう、石があって・・・。
石は、青いのがいいなぁ。
・・・じゃなかったら、赤かピンクの石」
「なるほどなるほど。
ぜひ青いのにしてもらいましょう」
「それで、両脇に小さい石が・・・。
こんな感じかな?」
「・・・それ、お店に持って行きますね」
「え、こんな素人の絵を?!
やめて恥ずかしいから!!」
「いいからいいから。
最初から本人にデッサンさせれば良かったですね。
こんなに絵が上手だなんて思いませんでした」
「だめだめ、持っていかないで!」
「何言ってるんです。
せっかくですから、気に行ったデザインのものを作りましょうね♪」
「・・・あ、結婚指輪も、つばきがデザインして下さいね」
「ええええ?!」
「私は、あなたの描いたものなら何でも喜んで身につけますから~」
「ちょっ・・・って、あ、もういない?!」
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ジェイドさん、つばきに渡す婚約指輪のデザインを頼んでいたようです。
思いのほか本人のデッサンが上手だったので、それを持ってオーダーすることにしました。
はてさて、どんな指輪が出来上がるのか。
というか、ジェイドさんはちゃんと働いているんでしょうか。
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~奥さまの秘密の会話~
「つばき、婚約指輪は決まったの?」
「今、オーダーした型が出来上がったとこ」
「オーダー・・・」
「ん?」
「いいですね、オーダー・・・響きがセレブ」
「・・・お姉ちゃん?」
「さすがジェイドさん・・・しっかり蓄えてましたか・・・」
「真っ先にお金のことが頭をちらつくなんて、さすが主婦・・・」
「もうすぐ家族も増えるからね。
ちゃんとしないと、と思ってさ」
「へぇ・・・。
そういえば、お姉ちゃんの婚約指輪、ダイヤモンドだから嵌められないんだよね。
・・・新しいの、買ってもらえば?」
「うん、そうなんだよね。
シュウも用意しようって言ってくれてるから、出産したらね、って話をしてて・・・」
「出産かぁ・・・。
なんか、別世界の話みたい」
「・・・うーん・・・でも、意外とすぐ妊娠したりして」
「えぇっ?!」
「動揺しすぎ。
・・・え、うそ、もしかして、もう?」
「いやいや、そんなはずは・・・」
「・・・まさかそういうこと一切してない、とか?」
「・・・え、ええと、あの、」
「ジェイドさん、つばきのこと大好きだし、大切過ぎて手が出せないのかな?」
「おねーちゃん・・・!」
「シュウにお願いして、不思議な精油、用意してあげようか?
使い方間違えると、大変なことになっちゃうけど・・・。
あー・・・でも、陛下とジェイドさんはどこで買ったんだろ・・・」
「・・・だ、大丈夫、心配しないで・・・」
「・・・そう?」
「て、ゆうか」
「ん?」
「その不思議な精油、お姉ちゃん使ったことあるんだ?」
「・・・う」
「・・・あ。
いや、どちらかというとシュウと私は被害者の方でね・・・?」
「ジェイドさんと陛下、お姉ちゃん達に何したの・・・?!」
「ああ、違うの違うの。
結局ものすごく盛り上がっちゃっただけで・・・って・・・!」
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つばきとミナの会話。
奥様方、昼間からあけすけ。
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~夫が父親になる時は~
「どうしたんです」
「・・・気持ち悪い」
「車酔いですか?」
「違う。
お前とリアがべたべたするのを見たら、気持ちが悪くて仕方ない」
「うわぁ・・・。
今まで散々、ミナと似たようなことしてたあなたに言われたくありませんねぇ」
「悪かったな」
「すみませんね、幸せで」
「いや、それはいいが・・・。
何だろうな、胸やけのようなこの気持ち悪さ・・・」
「ねぇエル」
「うん?」
「父親になるって、どんな気持ちです?」
「突然だな」
「ただ気になっただけですよ。
それで、どんな気持ちなんですか?」
「・・・さあな」
「教えて下さいよ。
私だって、」
「妊娠させたのか」
「・・・いえ、まだですけど・・・」
「そうか・・・何だ、違うのか」
「あのねぇ・・・。
あなた、つばきの何なんです」
「さぁ・・・兄?」
「なんだか今の反応、保護者みたいでしたよ」
「似たようなものだろ」
「そんなこと言っちゃいます?
はぁぁ・・・蒼鬼がねぇ・・・パパになって、お兄ちゃんになって」
「うるさい」
「それで、どんな気持ちなんですか?」
「・・・今はまだ、ミナのことだけ考えてるからな」
「それで大丈夫なんですか?」
「見えてるもののことを考えていた方が、上手くいくと思って。
・・・まぁ、たまに苦笑いされてしまうが・・・。
大体、俺が妊娠してるわけじゃないからな。
父親になるということが実感を伴うのは、もう少し先になるんじゃないか?」
「・・・なんだか、説得力ありますね」
「そうか・・・?
そんなことを聞いて、ジェイドは子どもが欲しいのか?」
「どうでしょうねぇ・・・」
「なんだそれは」
「だからどうして、あなたが凄むんですか」
「・・・無意識だ」
「はぁ・・・もう十分父親気分じゃないですか・・・。
私は分かりません。
自分が、子どもが欲しいのかどうかなんて」
「俺は、ララノ旅行の時に迷子の子どもを抱いてみたら、欲しくなったが・・・」
「まさか、犬猫感覚ですか」
「まさか」
「ですよね。
しかし想像がつかないんですよねぇ・・・未知の世界過ぎて、どうにも・・・」
「・・・話し合った方がいいんじゃないか?」
「そう、ですかねぇ・・・やっぱり・・・」
「また拗れても知らないぞ。
大体、妊娠しても初期のうちは男には分からないんだ」
「・・・拗れて家出したら、引きとめておいて下さいね」
「その時、うちに家出してくれたらな」
「・・・こ、怖いこと言いますね・・・」
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車内での、ジェイドとシュウの会話。
「こかげ1周年記念」3の直後あたり。
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