渡り廊下⑦
~蒼鬼の恋愛相談 その後~
「いやだから、ミナ、人の話を、」
「もうシュウったら・・・。
アンも、あんまりシュウで遊んじゃダメ。私の大事な旦那さまなの!
・・・お願いだから仲良くしようよ~」
「だからミナ、」
「ぷ、くく・・・」
「アン?」
「なんだ、気持ち悪いな」
「ははっ、ごめ・・・っ、あははっ・・・」
「もう、なあに?」
「あー・・・はぁー・・・、ごめんごめん。
蒼鬼、」
「なんだ」
「意地悪して、ごめんなさい。
それから、ありがと」
「・・・アン、シュウに意地悪してたの?」
「うん、ほんとはね・・・」
「ごめんね、シュウ」
「ん?」
「アンのこと。
私、てっきりまたシュウが言い負かしたのかと思ってた」
「ああ、そのことか。
気にしてないし、2人がうまくいくならそれでいい」
「うん、ありがと。
アンの話、聞いてくれてたんだね。
・・・はい、お茶どうぞ」
「ああ、ありがとう。
言えば淹れたのに・・・あまり無理して動くな」
「いーの。動かないと体が固まっちゃうよ。
それより・・・アン、何か言ってた?」
「踏ん切りがつかない、らしい」
「踏ん切り・・・」
「自分が一緒になっていいのか、自信がないんだろう」
「じゃあ別に、ノルガのことが結婚相手として見られないとか、そういう話じゃないんだよね」
「おそらくな。
ま、この分ならそう遠くない未来に、2人は夫婦になるんじゃないか」
「結婚式、するかなぁ?」
「するんじゃないか」
「・・・急に興味なさそうになったね・・・」
「基本的に、他人のことには興味はない」
「またそういうこと・・・」
「仕方ない。
俺の世界の中心はミナだ」
「や、あの、恥ずかしいからいいです・・・」
「嬉しくは?」
「う、うれしいですけど」
「そうか。
なら、一緒に泡風呂にでも入るか」
「え?!」
「なあ、今日の俺は称賛に価すると思うんだが」
「う、うん?」
「上手いことあの2人の橋渡しをしたと思う」
「えっと、うん、そうだね、ありがとね」
「だから、褒賞が欲しい」
「ええと、あの!
色気が駄々漏れだけどね、そういうコトは出来ないの分かってるよね?!」
「ああ、分かってる。
とても辛いが耐えてる。
・・・だから、譲歩案だ」
「ちょっとお腹が出てきてるけど・・・気持ち悪くない?」
「全く。
だんだん膨らんでくる様子だって、今しか見られない」
「えぇ・・・っと・・・」
「他に断る理由は?」
「う、ないです・・・」
「決まり、だな。
準備してくる」
「世界の中心かぁ・・・恥ずかしいなぁ・・・。
私の世界の中心は・・・、いたたた・・・。
もぉ、君も中心にいるってば・・・」
「おい、どうした?」
「あ、なんでもないよ。
ちょっとヤキモチやきさんがね」
「・・・?」
「うん、ほんと、何でもないの。
お風呂、行こ?」
「ああ、じゃあ・・・」
「ぅわっ・・・と・・・」
「やっぱり、2人分だと少し重く感じる」
「えー・・・2人目の体重なんて、あるようでないのと同じだよ?
・・・私が太ったんだよ・・・シュウがたくさん食べさせるから・・・!」
「そうじゃない。
重く感じるだけだ」
「・・・?」
「いやでも、充足感のある重みだな。
あと2人か3人分抱えるのもいいか・・・」
「・・・何の話?」
「なんでもない。
ほら、ちゃんと掴まってろ」
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渡り廊下⑥の「蒼鬼の恋愛相談」のその後の会話。
アンとノルガが帰って、2人はゆっくり泡のお風呂で話をするようです。
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~帰り道~
「まま、これ買ってー」
「だーめ。
今度のお誕生日にねー」
「じゃあ、ぱぱにお願いしよーっと!」
「だーめ。我慢しなさい」
「・・・ン、アン?
もしもーし、アンちゃーん?」
「・・・え、あ、」
「どしたの、ぼーっとしちゃって」
「ん、ううん!
ごめん、よそ見してた。
え、っと・・・何?」
「や、何でもないっちゃ、何でもないんだけどさ。
ただ、元気ないから声かけてみただけ」
「そっか、うん。
元気、なくはないよ」
「あー、まあね。なくはないよね」
「ん、そうだよ」
「そっか」
「・・・」
「・・・」
「あたし、さぁ・・・」
「んー?」
「家庭、っていうの、知らないんだよねぇ」
「うん」
「だから、自分が誰かと結婚して、家族を作るなんて想像出来なくてさ」
「うん」
「ほんの2,3年前までは、ララノのホテルのバルコニーでプロポーズが夢だったけど」
「・・・もう1回行こう、ララノ」
「・・・だね。
でも、無邪気に喜べなくなっちゃった。
少し大人になった、ってことなのかなぁ・・・。
ノルガの気持ち、嬉しいのに踏ん切りつかなくてさ」
「うん」
「なんかもう、どうしたらいいのか分からないんだけど」
「・・・そっか。
まあ、焦らなくてもいいじゃんね。まだ若いし」
「あたしも、そう思ってた」
「・・・思ってた?」
「ん、そう。思ってたんだけどね。
・・・ノルガ、あの人に怒られたの?」
「え?」
「なんか、訓練に集中してないから、いろいろ聞き出したって言ってたよ?」
「・・・あー・・・うん、そう。
なんだ、団長アンに喋っちゃったんだ。格好悪いな俺・・・」
「格好悪いけど、嫌いじゃない。
・・・うん、あたし、ノルガのこと好きなんだよ」
「ぅ、あ?
えぇっ・・・?!」
「集中出来なくて、怪我でもしたら嫌だ」
「ああ、そこ?
大丈夫だって。俺、これでも1等騎士よ?」
「そうじゃなくて!
ほんとに嫌なの!」
「・・・どしたのアンちゃん」
「あたし、ノルガと離れ離れになるなんて絶対嫌だ・・・。
蒼鬼が言ってた。
ある日突然失うことがあるかも知れない。誰にも分からないって。
だから、迷ってる場合じゃないんだ、って」
「・・・うん」
「あたし、ノルガが死んじゃうまで一緒にいたい」
「そりゃまた、突然だな・・・。
気持ちは嬉しいけど、なんで俺の方が先に死んじゃうことになってるの」
「えっと、ごめん」
「じゃあさ、」
「ん?」
「今日は、アンのお家にお泊りしてもいいよな?」
「え、えぇ・・・?!」
「あれ、俺が死ぬまで一緒にいてくれるんじゃなかったの?」
「四六時中は無理でしょーが!」
「えー、朝になったら、アンの髪、結いたいのになぁ・・・。
朝ごはんも作るし、」
「わかった、わかったから!」
「やっった!
念願のお泊り!
よっしゃ!」
「・・・違う、何かが違う・・・」
「あ、念のために確認しとくけど」
「え?」
「ただ泊まるだけ、なわけないよね?」
「・・・え?!」
「ないでしょ、今さら。
俺たち、結婚するんだもんねー?」
「いや、ちょ、待って・・・するけどさ・・・!」
「いやぁ、嬉しいなぁ!
生きててよかったー!」
「・・・そ、そこまで?」
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蒼鬼の恋愛相談、の後のアンとノルガの会話。
ここでもこっそりハッピーエンド。
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~大黒柱、帰宅~
「おかえりなさい!
・・・お疲れさま」
「ああ。
ミナも、お疲れさま。
留守の間、ありがとう」
「ううん、お母さまやアン達が来てくれたから」
「子ども達は?」
「今、お母さまが寝る前の絵本を読んでくれてるかな」
「じゃあ、顔を見るのは明日になるのか・・・」
「寂しい?」
「もちろん」
「私は?」
「・・・やっと会えたから、一緒に風呂に入るか。
子ども達も寝てることだし」
「うーん・・・そうだね。
いいよ、久々だし」
「あれ?」
「ん?」
「カバンが歪な形に・・・」
「ああ、土産が入ってる」
「・・・一応、聞いとくね。
何、買ってきたの・・・?」
「シエルには、本だ」
「珍しくまともな物だね。
ちょっと見てみてもいい?」
「ああ」
「・・・これ、何の本?」
「推理小説だ。
北の大国で、流行っているらしい」
「大人向けだよね。
・・・こんないかがわしい挿絵、絶対見せちゃダメ!没収!」
「・・・じゃあ俺が読む」
「もしかして、最初から自分で読もうと思ってた?」
「いや、あ、違う。
買ってから中身を見て、もしかしたらシエルには早いかも、とは思っていた」
「あー、うん。まあいいや。
・・・エシュには何を買ってきてくれたの?」
「ああ、服とペナント」
「ペナント・・・ひと昔前の、修学旅行生みたいだね・・・」
「・・・何を言ってるんだ?」
「ああ、ごめん。
とりあえず服を見せてみて」
「これだ」
「・・・これ、どうやって着るの?」
「分からん」
「分からないものを買ってきたのね・・・」
「民族衣装だ。古くて価値があるらしい。
・・・一説には、北の大国が辺りを統一する際に潰えた王朝の、王妃だか王女だか・・・。
ともかく、歴史的価値のあるものだそうだ」
「・・・そんな呪われてそうなもの買ってきたの・・・」
「そんなにがっかりされると、ちょっと悲しくなるな」
「あー、うん・・・ごめんね。
気持ちはすっごく嬉しいんだ。ものすごく。
ただちょっと・・・うん、いいや、気を取り直して・・・」
「ユーシュヒルトには、ぬいぐるみを買ってきた」
「あ、一番まともそうだね。
見せて見せて・・・」
「ああ」
「・・・このクマ、なんで釘刺さってるのかな」
「そういう、気持ち悪くて可愛いものが、流行だそうだ」
「北の大国で・・・?」
「ああ」
「誰に聞いたの?」
「・・・大使だ」
「大使・・・面白半分で、うちの子達を何だと思って・・・。
ああでも、あの人、思いつきで人の首絞めるような人だったんだった・・・」
「・・・なあ、この土産はどうしたらいい」
「次から、お土産はこちらで指定します!
もう食べ物にして!」
「何故」
「・・・いいから、お願い!
いっそのこと、交換条件で何でも言うこと1つ聞きますから」
「何でも・・・?
何でもいいのか・・・?!」
「う、嬉しそうだね?」
「・・・何でもか・・・」
「1つだからね、1つ。
それしたら、お土産の件は私に一任してね?!」
「ああ、分かった」
「何、何でにじり寄ってくるの・・・?!」
「ミナ」
「はい・・・?!」
「そろそろどうだ、4人目」
「さ、さすがにそれは!」
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「あとがきにかえて」あたり、お腹の中の子どもが誕生して数年後。
意味不明なお土産攻撃と、口を滑らせたミナに降りかかる災難。日常茶飯事な会話でした。
3人目は、ユーシュヒルトと言います。男の子でした。
日本語っぽい名前は、ミナの提案で敢えて避けていたようです。
3人共“シュバリエルガ”から少しずつ音を取って名づけられました。
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