こかげ⑦
~明るい夜道~
「歩くの、速くないか?」
「大丈夫よ。
・・・なんだか、視界がちょっと明るいの。普段の夜よりも」
「月明かりが・・・雲がないから、かな」
「・・・かも知れない。
気持ちが晴れてるからかも、だけど・・・」
「お疲れ」
「ん」
「オレ、何にも出来なかったなぁ」
「ロウファさまは、ずっと傍にいてくれたじゃない。
それに、私の見てる世界を認めてくれたもの」
「それだけじゃん」
「それだけで、じゅうぶん。
私、嬉しかったもの」
「・・・そっか」
「そうよ」
「私ね、」
「ん?」
「もっと、いろんなことをしてみたい」
「いろんなこと・・・。
危ないことはダメだからな」
「うん。
何か、人の役に立つことをしたいの。
私も、ロウファさまの見てる世界と繋がっていたい」
「・・・そっか」
「何が出来るのか分からないけど・・・少し考えてみようかな」
「ん。いいと思う。
ルル、なんか綺麗になった」
「・・・本当?」
「うん。好きだ」
「・・・私も。ロウファさまが好きよ」
「なんか・・・あいつらみたいだな」
「ふふ。
ちょっと、影響受けちゃったかも知れないね」
「ま、いっか・・・。
早く屋敷に移って、あれこれしたいなー」
「・・・もう。
雰囲気台無しだわ・・・」
「正直なの。
いいじゃん、正直」
「うん・・・私も早く一緒に住みたいな」
「今度、こないだのカップケーキ作ってよ」
「・・・はい♪」
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69話の直後の、ルルゼとロウファの会話。
病院まで2人は歩いて移動しています。
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~恋の話は夜明けまで~
「なんか、どんどん先越されちゃうなぁ・・・」
「ん?
どうしたのアン?」
「ミーナが結婚しちゃって、リアも番がいて・・・」
「あれ?
ノルガ、アンの彼氏でしょ?
えっと、つがい、じゃないの?」
「・・・そこ、そこなんだよねー・・・」
「さっきもリビングで、でろっでろにラブラブだったじゃん。
私のことが目に入らないくらい」
「私、てっきりもう2人は結婚秒読みなのかと思ってたよ?」
「・・・うーん・・・なんか、よくわかんないんだよー・・・」
「あ、分かった!」
「何、どうしたのお姉ちゃん」
「うん、あのさ。
いつだったかバレンタインだから、って焼き菓子作ったでしょ?
・・・あの時、ノルガから迫られてるって言ってたじゃない」
「それ、改めて言われると恥ずかしいなぁ・・・」
「アン、大丈夫。
聞いてる私も十分恥ずかしいよ」
「つばきは恥ずかしがり屋さんだもんねぇ。
・・・きっとノルガ、一度アンに拒否されてるから、強く出られないんじゃないかなぁ」
「いっそのこと襲っちゃいますか!」
「ミーナもリアも、何てこと言うの!
そんなん出来るわけないでしょ!」
「・・・あ、今ノックの音、したよね?
ちょっと待ってて。
・・・静かにしててね?」
「・・・う」
「こら、もう真夜中だ。
いい加減寝ろ」
「ごめんなさい。
ちょっと、久しぶりで楽しくて・・・煩かった?」
「・・・そうじゃない。
あまり夜更かしするな。体に障るだろ」
「はぁーい・・・。
ね、シュウ?」
「ん?」
「ノルガ、どうしてる?」
「飲んでる・・・どうかしたのか」
「ううん。
アンがね、ノルガとくっついてないと寂しいんだって」
「・・・伝えておくが・・・自己責任だと言っておけ」
「うん、分かった。
あ、ちょっと耳、貸して・・・」
「ん・・・?」
「・・・私達も、明日は、一緒に寝ようね?」
「・・・ああ」
「あと、」
「ん?」
「飲みすぎちゃ、ダメだからね」
「ああ、分かってる。
・・・おやすみ」
「ん、おやすみなさい」
「なに、蒼鬼、何だって?」
「んー・・・特に何も・・・あ、でも・・・」
「・・・お姉ちゃん、何か隠してるでしょ・・・」
「ちょっとね。
種、蒔いてみちゃった♪」
「・・・ミーナ、どうしてそんなに楽しそうなの・・・?」
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後日談2より。
女子が恋愛の話をし始めると、時間なんて関係ありません。
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~カップケーキの彼女~
「カップケーキかぁ・・・」
「ん? どうしたのリアちゃん」
「いえ・・・。
さっきのお客さんが、このお店に美味しいカップケーキがあるって聞いたって・・・」
「カップケーキ・・・?」
「はぁ・・・」
「私、カップケーキを店頭に出したこと、1回もなかったと思うんだけど」
「じゃあ、お客さんの勘違い、ですかね・・・?」
「うーん、たぶんそうだと思うんだけど。
じゃなかったら、他の店とごっちゃになってるとか」
「・・・えー・・・」
「うん、それはちょっとショックだなぁ・・・。
なんならカップケーキ、出してみよっか?」
「ほんとですか?」
「うん、今から試作してみよーっと♪」
「わ、おいしそ~」
「うん、匂いはすっごく甘くていいね」
「食べてもいいですか?」
「もうちょっと待ってね、この後クリームを乗せて、飾ってみるから」
「・・・どう?」
「これ、ほんのりレモンの香りがいい感じです!」
「これなら、暑い日に冷蔵庫で冷やしておいて食べてもいいよねぇ」
「私、このピンク色のクリームのが好きです」
「ああこれ、これはねぇ・・・。
食用の花を砂糖漬けにして、それをクリームに混ぜ込んでるの。
で、中のクリームは木苺ジャムで甘酸っぱくしてあるんだ」
「へぇぇ!
これ、商品にしましょうよ~」
「うーん、ちょっと考えてみよっか。
とりあえず、もうちょい練ってから試しにショーケースに並べてみよう」
「・・・残ったの、明日も食べていいですか?」
「うん、いいよ~。
レモンのも、冷蔵庫で冷やしたらどうなるか食べてみて」
「やった♪」
「ああでも、あんまり食べ過ぎないでね。
リアちゃんが売り子ちゃんになって、結構評判いいんだから」
「・・・評判?」
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後日談3より、カップケーキについて、つばきとミエルさんの会話。
エプロン姿のつばき、評判がよろしいようです。
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~恒例行事~
「・・・で、今回はなんだ」
「むー・・・この服着てたら怒られた」
「は・・・?」
「あれ、つばき来てたんだ?」
「あ、お姉ちゃん聞いてよ~。
ジェイドさんが、この服着るなって煩いんだよ~!」
「・・・で、リアがその荷物を持ってるってことは・・・」
「うん、家出。
おにーちゃん、おねーちゃん。
つばきを泊めて下さい」
「それは構わないが・・・」
「じゃあ、客間に風を通してこないとだね」
「あ、私ミエルさんのとこからケーキ持ってきたんだった」
「ありがとー」
「客間に風を通すのは俺がやるから、お前達はお茶の準備でもしていろ」
「ん、ありがとシュウ」
「お願いしまーす」
「ジェイドさんてさ、何というか、身なりに煩いんだよねぇ」
「うーん・・・つばきが可愛くて仕方ないんだよ、きっと。
あ、新しい茶葉買ってあるの。そこの棚の一番端っこ」
「はーい」
「ありがと。
・・・でさ、年も離れてるし、不安で口煩くしちゃうんじゃないかなぁ」
「不安?」
「うん。
つばきが可愛い格好しちゃうと、若い虫が寄ってくるんじゃないか・・・とか」
「え~・・・まさかまさか」
「ないない、と思うでしょ。
でもね、お姉ちゃんは知ってるんですよ~」
「え、何?」
「つばきの売り子さん姿、白の騎士団で話題になってるんだよ」
「は?」
「最近ヴィエッタさんが、白の本部で焼き菓子を配ることがあるんだけど・・・。
あれって、ミエルさんのお店のだよね?
貰った人がお礼のついでに、どこのですかって聞いて、お店に買いに行ったみたいなの」
「うん」
「それで、つばきのエプロン姿を見た人が、ぽろっとね。
“補佐官殿の逆鱗”が、焼き菓子店で売り子をしてた、って」
「・・・へー・・・」
「王宮って、噂の回りが速いのね。
特につばきは、騎士団に所属してたわけでもないじゃない?
ジェイドさんが私的に雇ってた雑用係を、ある日を境に見かけなくなって・・・。
でも補佐官殿には直接尋ねられないし、妹のヴィエッタさんは白薔薇で恐れ多くて
簡単に話しかけられない。だけど、どうしたんだろう、って興味はある。
・・・そこであの“逆鱗”が焼き菓子店で働いてるなんて聞いたら、さ」
「だから最近、お客さんが増えた気がしてたのか・・・」
「・・・だね。まあでも、問題はそこじゃなくって・・・。
エプロン姿の“逆鱗”が可愛いっていう話。
実際に見に行ったとか、そういうことじゃなくて・・・可愛いらしいよ、って噂」
「その噂、俺の耳にも入ってきてる」
「あ、おかえり。ありがとね」
「ああ。
・・・そっちの準備、代わるか?」
「ううん、大丈夫。
つばきが代わりに動いてくれてるから」
「そうか」
「お泊りさせてもらうからね、ちゃんと働くよ~。
・・・それよりシュウさん、耳に入ってきてるって、どういうこと?」
「“補佐官殿の逆鱗”が、エプロンつけて焼き菓子店で働いてる。
かなり可愛いらしいから、そのうち見に行ってみるか・・・といった感じのことだな。
見習いや下っ端の騎士達が、話の種にしてた」
「シュウのとこにも届いちゃったんだねぇ・・・」
「まあでも、仕方ないだろ。
あいつも腐っても補佐官だ。あれの傍にいれば、当然だな。
今まで女の気配すら漂わせなかったんだから、余計に周りが食いつく」
「・・・そっか」
「ああでも、ジェイドが悪いわけじゃないからな。
そのあたりのことは、察してやってくれ」
「うん、もちろん・・・ジェイドさんのことは、大好きなんだけどね・・・。
ヴィエッタさんが大量に買っていった焼き菓子達が、まさか配られてたなんて・・・」
「あー・・・ヴィエッタさん、つばきと仲良くなりたいみたいだよ?
宣伝も兼ねて、たくさん買ってるみたい。
・・・新しい焼き菓子が出るたびに、買っていくでしょ?」
「言われてみれば、そうかも・・・!」
「感情表現が下手だからな・・・兄妹揃って、面倒くさい」
「ジェイドさんは面倒くさくないもん」
「・・・でも、その服を着るなと言うんだろ?」
「うん・・・」
「それって、つばきが可愛い格好してると不安になるってことなんじゃないのかな?」
「安心させてやればいいんじゃないか」
「どうしたら安心してくれるのかな・・・好きって、何回も言えばいい?」
「それは、本人に直接聞いた方がいいだろうな。
当事者同士が会話をしなければ、歩み寄るのは難しいんじゃないか」
「・・・じゃあ例えばシュウさんだったら、どうしたら安心するの?」
「ミナをそういう目で見る奴を、蹴散らす」
「シュウって、たまに思考回路が物騒になるよね・・・」
「つばきー、ジェイドさんが迎えに来たよ~」
「すみませんね、ミナ」
「気にしないで下さい」
「それにしても、またしても家出されてしまうとは・・・」
「あの子、ジェイドさんには甘えられるんですね。
迎えに来てくれるって分かってるから、飛び出せるんですよ。
・・・両親に心配かけないように、とっても良い子で過ごしてきたから・・・。
落ち着くまでは感情に任せて飛び出しちゃうかもですけど、大目に見てやって下さい」
「ええ、もちろん。
・・・これでも、振り回されるのも悪くないと思っているんですよ」
「お前、変態か」
「失礼な。
男は少なからずそういう部分を持っているものですよ。
あなただって、」
「せめて否定してから言え。
俺をお前と一緒にするな気持ち悪い」
「・・・まあまあ2人共・・・あ!」
「どうした」
「シャワー使ってるんだった。
あの子、自分で髪が結えないんですよね・・・ちょっと待ってて下さいね、今、」
「ジェイドにあがってもらえ」
「エル、いいんですか?」
「お前、彼女の番だろ。
ああでも、髪を結ったら速やかに帰れ。
この家では、おかしなことはするなよ」
「おかしなこと?」
「心外ですねぇ・・・。
私だって、他人様の家ではさすがに遠慮しますよ。
するなら屋敷に戻ってから、がっつり」
「・・・2人共、最っ低。妊婦の前で何の話してるんですか・・・。
シュウ、赤ちゃんにそんな話聞かせてどういうつもり?」
「いや、ミナ、」
「今日はリビングのソファで寝てね」
「いや待て、」
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完結後、恒例行事になった家出の話。
ジェイドさん、つばきに振り回されても可愛くて仕方ないようです。
そしてシュウ、とばっちり。
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