こかげ⑥
~ただいまの後に~
「ごめんなさい・・・」
「まだ言いますか、それ」
「笑わないでよぉ・・・。
今のは、諦めてごめんなさい、なんだから」
「諦めたんですか?」
「ん・・・ちょっとだけ。
ジェイドさんのこと、巻き込んじゃいけないと思ったから」
「本当に・・・仕方のない子ですねぇ」
「あー、また。
子ども扱い、はんたーい」
「ええ、分かってますよ。
これが最後。もう、次はありません」
「・・・え?」
「子ども扱いは、もうしません。
私だってね、あんなこと言われてもう限界を超えそうなんです」
「・・・“離しちゃ、やだ”でしたっけ?」
「・・・っ!!!」
「言われなくたって離しませんよ~。
私から離れられないようにしてあげますね。楽しみです♪」
「まっ、やっぱり、」
「待ちません。もう限界です。壊れそうです」
「で、でもほら、手!
手、怪我しちゃったみたいだし!折れてるかも知れないし!」
「・・・そうでした・・・」
「あ、えっと、あの・・・」
「すみません、必死だったとはいえ・・・。
大事な番(になる予定)の体に傷を・・・反省してます・・・」
「つ、つがい?」
「・・・あー・・・それは、そのうち分かりますよ」
「あのね、ジェイドさん」
「ん?」
「私、嬉しかったよ」
「何がです?
・・・まさか、痛いのがですか?」
「あのねぇ・・・!
もう!ジェイドさん、きらーい」
「冗談ですよ冗談・・・」
「また、すぐ笑う・・・」
「いいでしょう?
私だって、嬉しくて仕方ないんです。
少しくらい浮かれたって、罰は当たらないと思いますよ?」
「・・・そ、かな。
うん・・・私も、嬉しいんだ。
ジェイドさんが必死になってくれて、嬉しかったの。ほんとに。
・・・ごめんなさい、不謹慎な子で」
「いいえ、いいんです・・・。
良かった、本当に」
「・・・お姉ちゃん、大丈夫かなぁ・・・」
「息はあったようですから、大丈夫でしょう。
リュケルが何とかしてくれますよ。
・・・もう、病院に着いた頃でしょうか・・・」
「そっか、そうだね。
・・・いたた・・・」
「何かで固定しておきましょうか。
父が戻るまで、まだ時間がありそうですから」
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「こかげ」69話の直後の、つばきとジェイドの会話。
シュウとミナが教授の運転で、団長とルルゼは徒歩で王立病院へ向かっています。
つばきとジェイドは、送り迎え役の教授が戻るのを、待っているところです。
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~お医者さまを呼ぶ前に~
「もうちょっとだけ、ここに居てくれますか」
「うーん・・・体、大丈夫?」
「ええ、全く何ともないですよ」
「・・・えい」
「つつつつつばき・・・っ!
・・・何するんですか?!」
「嘘つき」
「触ったら痛いに決まってるでしょう・・・!」
「・・・あ、そっか。
ごめんなさい。大丈夫・・・?!」
「大丈夫ですけど・・・まったくもう・・・」
「ごめんね、私・・・」
「・・・つばきは?」
「え?」
「手首の痛みは、少しはよくなりましたか?」
「・・・うん、何ともないよ」
「良かった。
・・・エルは、彼女のところに?」
「うん。
私ずっとここに居たから分からないけど・・・たぶん今も」
「まだ目覚めないんでしょうか・・・」
「どうかな・・・あとで見に行ってみるね」
「・・・え~」
「え?」
「ここに居て下さい」
「ジェイドさん?」
「私の傍に居て下さい」
「でも、お姉ちゃんが・・・」
「彼女にはエルがいますから。
ね、傍に居るって、決めたんでしょう?
私が選べば、ずっと傍にいてくれるんでしょう?」
「・・・お、覚えてましたか・・・」
「ジェイドさんが、甘えん坊さんだったなんて・・・」
「今は体が弱ってるから、精神的にも弱ってるんです」
「いやいや、本当に弱ってる人はそんな自己申告しないよね・・・」
「・・・居てくれるんですよね?
どこにも行かないですよね?」
「それは、もちろん・・・もう、決めましたから」
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「こかげ」72話の直後の会話。
お医者さまを呼びに行きたいつばきと、引き止めたいジェイドさん。ミナ<つばき。
つばき、嬉しいけど複雑。
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~病院の廊下にて~
「シュウさんの目、片方見えないんだって・・・」
「ええ、そうみたいですね」
「全然、動揺してないんだね・・・。
もしかして、分かってた?」
「なんとなく、ね。
・・・研究室で、つばきが訊いたでしょう?」
「私?」
「ええ。
目がどうかしたのか、って・・・覚えてます?」
「あ、うん・・・なんか、シュウさんが目の辺りを気にしてるみたいだったから」
「たぶん、あの時すでに違和感があったんじゃないでしょうか」
「・・・そ、っか・・・」
「きっと本人も、最悪の結果は想定していたと思いますよ」
「うん・・・」
「だからきっと、全く動じなかったんじゃないでしょうかね」
「ルルゼの所には、行ったんだよね?」
「彼女の話では、おそらくホタルが関係しているんじゃないか、と」
「うん、そっか・・・」
「楽しいこと、考えましょうか」
「楽しいこと?」
「ええ。
エルが、つばきにお泊りを提案してたでしょう?
・・・せっかくですから、4人で遠出でもしますか」
「お姉ちゃん、だいじょぶかな」
「この世界では、妊婦さんもそうでない女性も、さほど変わりなく生活してますよ」
「そう・・・?
じゃあ、今度お泊りする時に話してみようかなぁ。
・・・いつか、お姉ちゃんと2人でお泊りとか、楽しいだろうなぁ・・・」
「え、私は?」
「お留守番?
シュウさんと2人で、子どもの面倒みてて下さい。
出来るでしょ、一泊くらいなら」
「・・・嫌ですよ、連れていって下さい」
「えー。
女子だけだから楽しいことってあるじゃん」
「何言ってるんです、ダメですよ。
つばきは可愛いんですから、あっという間に浚われて・・・。
いやいや、絶対ダメです。そんなことになったら・・・ぶつぶつ・・・」
「・・・もしもーし、ジェイドさん?」
「ダメですね。
金輪際、家から出しません」
「・・・は?!」
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「こかげ」74話、ミナの病室からジェイドの病室に戻る間の会話。
廊下でこんな会話をして、看護士さんや患者さん達から白い目を向けられていることに、2人は気がつきません。
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~ジェイドさんは不良患者~
「・・・なんか、なんか体が痛い・・・!」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも・・・」
「ごめん、ちょっと・・・」
「ちょっと・・・?」
「嬉しさのあまり、自制出来ませんでした」
「・・・そ、」
「そ?」
「そういうことはさ、言わなくていいからね・・・!」
「ん?
つばき、顔が真っ赤ですよ」
「そういうことも言わなくていいですから!」
「・・・まったくもう、怒鳴っても可愛いなんて・・・」
「ああダメだ、ジェイドさんが壊れた・・・」
「失礼ですねぇ。
そんなこと言うのは、どの口ですか?」
「え?
あれ、ジェイドさん?
・・・腕、あれ??」
「こら、腕なんか見てないで。
こっちを、目を見て下さい、つばき・・・」
「やだ、ジェイドさん、血、包帯に滲んでるじゃない!
お医者さまに診て、ん、ぅ・・・っ」
「そんなに可愛いカオしちゃって。心配してくれてるんですね?
・・・ああもうやっぱりダメそうです。
いっそのこと、先に謝っておきますね。すみません」
「え、何、その手?!」
「抱き壊しちゃいます、たぶん」
「え、何を?!」
「これからしばらく間、手放せそうにありません。
とりあえず、明日までは無理です」
「え、ひゃぁっ。
ジェイドさ、む、ぅぅ、んんん~・・・!」
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「こかげ」74話の後の話。
ドアの向こうでは、王宮からの使者が顔を真っ赤にして佇んでいたとかいないとか。
ジェイドさん、これまでの反動でやりたい放題。




