こかげ①
~メイドさんはうわさ好き~
「どうしよう!」
「え、何?やらかした?」
「お、お嬢様が、髪下ろしてフラフラしてた!」
「えぇ?!」
「シェイディアード様が、担いで行かれたんだけど・・・!」
「えええ・・・?!」
「薄茶色で、天使の輪があって、綺麗な髪だったなぁ・・・さ、触りたい・・・」
「こらこらこら、おかしな方を思い出さないで!」
「・・・はっ。
お嬢様の荷物を持って、部屋の外で待機してないといけないんだった」
「え~・・・そんな、生々しそうな所に立ってないといけないの・・・?」
「うん、そういう言いつけだから。
ちなみに、くじ引きで負けたから私が行かなくちゃ」
「・・・じゃあ、せいぜい耳塞いで、頑張ってきな。
後でイロイロ教えてよね」
「・・・で、どうだったの?」
「うーん・・・なんか、」
「なんか・・・?」
「シェイディアード様が嬉しそうで、お嬢様は微妙なカオしてた・・・」
「・・・事後って感じだった?」
「うーん・・・わたし、そうゆうの分からない・・・」
「つっかえねー」
「そんなぁ~」
「どうなるんだろうねぇ、あの2人」
「さぁ・・・?
でも、わたし、シェイディアード様が楽しそうで嬉しいけど」
「そぉ?
私には子どもの世話焼いてるように見えるけどねぇ」
「そうかなぁ・・・?」
「まぁでも、私らのご主人様は働きすぎだよね。
お嬢様に癒してもらえたら、私達も憂いが減るってもんだわ」
「そだね」
「でさ、どっちに賭ける?」
「賭ける?」
「そ、くっつく方と、くっつかない方」
「・・・ラズ院長に言いつけるよー?」
「固いこと言わないでよ~。
・・・で、どっち?」
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「春を運ぶこかげの花」4話の最中、ジェイドさんのお屋敷にて。
お屋敷のメイドさん達は、しらゆり孤児院に縁のある子が多いらしい。
メイドさん達、噂大好き。
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~彼らの密談~
「そうだジェイド、」
「なんです?」
「ひとつ、教えておいた方がよさそうだ」
「・・・どうぞ?」
「いつだったか、お前、ミナに手を出しただろう」
「・・・え、えぇと、まぁ、その・・・」
「いや、それは別にいい」
「はぁ・・・そう、ですか・・・?」
「いや、あの時はさすがに気が触れそうになったが・・・」
「・・・私は、あの時は完全に気が触れてました。
でも、後悔はしてないですよ」
「・・・そうか」
「ええ」
「ああ、いや、その話がしたいんじゃないんだ」
「そうなんですか?」
「・・・あの後知ったことがあって・・・。
結論から言えば、渡り人が皆同じ世界からやって来ているとすれば、の話だが、
どうやら彼らは、俺たちの祖先が獣であることを知らないらしい」
「え?」
「俺も最初は信じられなかったが・・・」
「彼らは、そういう教育をされない世界から来た、ということですか?
文明がこちらよりも進んだ世界から来ているのに?」
「いや、そうじゃない。
彼らの世界には、獣から進化をとげたヒトは存在しないらしい」
「・・・えぇ?」
「ミナは、自分たちは猿から進化したヒトだと言っていた」
「・・・はぁ?」
「だから、俺も最初は信じられなかったと言ってるだろう。
真面目に聞け・・・」
「いやいや真面目に聞いてるから、びっくりしてるんですよ。
猿からねぇ・・・異世界って、不思議ですねぇ・・・」
「まあ、ミナからすれば、獣の本能が残る俺たちは・・・あれだ。
理解しがたい行動ばかりをしてたのかも知れない、と思うようになったな」
「・・・なるほど・・・」
「戸惑って、当然だな」
「そうですね・・・」
「それで、どうして私にそんな話を?」
「・・・リアには、話しておいた方がいいと思って。
ミナの時も思ったが・・・あまり、人を遠ざけることに慣れてないんじゃないか。
ほいほい男の側に寄ったりして、目を疑うことが何度もあった。
・・・リアも寄ってきた人間を友人か何かと勘違いして、自分の首を絞める気がする」
「ああ、そういうことですか・・・」
「なんだ、お前・・・、リアのこと、違うのか?」
「え?
・・・あ、ええ、いや、」
「どっちだ」
「・・・なんであなたにこんなこと話さなくちゃいけないんです・・・」
「・・・あの時、怒り狂った蒼鬼が王都を破壊してまわらなくて良かったな、補佐官。
ミナに全身全霊で感謝してくれ」
「だから、あれは・・・って、笑わないで下さいよ・・・」
「・・・悪い。
いいものを見たな・・・たまには話してみるもんだ」
「・・・金輪際お断りします」
「そうか」
「ええ」
「じゃあ、酒」
「・・・まだ飲むんですか・・・?」
「・・・あ、誰でしょう。
ちょっと待ってて下さいね」
「大丈夫か・・・?」
「舐めてます?
私だって、一応何かあっても自分の身くらいは守れますよ」
「分かってるが・・・。
ま、何かあったら呼べばいい」
「ええ。
じゃあ、ちょっと出てきます」
「ああ」
「・・・どうしたんです」
「あー・・・っと、変なタイミングで来ちゃったんだったら、帰ります」
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「春を運ぶこかげの花」24話
リアがジェイドさんの部屋のドアをノックする少し前の、彼らの会話。
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~甘い匂い~
「♪♪♪~」
「・・・・・・」
「♪~♪~」
「・・・・・・」
「つばき?」
「?!
・・・あー・・・びっくりした。
なんですかもー・・・」
「何してるんです?」
「何って、お菓子作ってるんですよ?」
「お菓子・・・。
あぁ、どうりで甘い匂いがするわけですねぇ」
「ごめんなさい、換気扇、つけるの忘れてた」
「いえいえ、もっと甘い匂いを毎日嗅いでますから」
「・・・?」
「おや?
シェフはどこに?」
「えっと、ちょっと買い物に行ってるらしいですよ。
夕飯の材料で、足りないものがあるみたい・・・」
「・・・なるほど。
それで、オーブンに入ってるのは何です?」
「カップケーキですよ。
このクリームは、焼きあがったら上に乗せるんです♪」
「ふぅん・・・。
よく作るんですか?」
「たまーに、ね。
差し入れする時なんかに、作ってましたねぇ」
「差し入れですか・・・。
相手は男性ですか、女性ですか?」
「・・・え、えぇと・・・」
「・・・つばき?」
「はい・・・?」
「今回は、誰のために作ってるんですか?」
「誰っていうか・・・」
「相手は男性ですか、女性ですか」
「えぇぇ?」
「どっちです?」
「どっちって・・・どっちもですけど・・・」
「・・・つばき?」
「ジェイドさん声低・・・や、あの、ちょ、近・・・ひえぇぇ」
「色気もなんにもない声ですねぇ・・・」
「なくていいです!
ちょっと離れてー!」
「誰にあげるんですか?」
「いやだから、誰とかじゃ・・・ちょっ・・・」
「・・・私にもあります?」
「そりゃあ、もちろん・・・でも、」
「でも?」
「今焼いてるのは配る用だし、久しぶりだから練習も兼ねててっ。
だから、ジェイドさんはこれの次にしようと思っ・・・」
「今回のも下さい」
「えぇぇ・・・上手に出来てたら」
「ください。ね?」
「・・・えー・・・じゃあ、」
「じゃあ?」
「このクリーム、泡立ててくれたら」
「もういいんじゃないですか?」
「ううん、もうちょい、ツノが立つくらいまで」
「・・・えー・・・」
「あぁっ!・・・つー・・・」
「何してるんです?!」
「ああ、大丈夫です。
ちょっと熱かっただけ・・・」
「全くもう・・・!!
ちゃんと冷やさないと」
「大丈夫大丈夫、ほら、焼けましたから。
・・・んー、いいにおーい♪」
「ほら、冷やしてからにしなさい」
「はぁーい・・・」
「よ・・・っと」
「わぁ、ジェイドさん上手!
美味しそう!」
「ふふん」
「・・・んんん・・・っと」
「・・・おー・・・」
「ふふん♪
意外と、こういうのは上手なんです」
「まだ食べちゃ駄目ですか?」
「そうですねぇ・・・じゃあ、ちゃんと食べれる味か、味見してもらおうかなぁ」
「・・・美味しいです」
「ほんと?!
よかったぁ・・・じゃ、早速配りに行ってきまむぎゅぅ・・・」
「だーめ」
「ジェイドさーん?!」
「せっかく美味しいものが目の前にあるんですから、ね?
お茶淹れてあげますから、もうちょっとだけ・・・」
「もう食べちゃダメですよ。
みんなに配る分がなくなっちゃう・・・」
「じゃあ、配る分以外ならいいです?」
「配る分以外・・・?」
「ええ、例えば、これとか・・・」
「・・・!!!!!
だっ・・・ダメです・・・!!」
「えええー、泡立て、頑張りましたよ・・・?」
「・・・いやあの、それは・・・ありがとございました・・・」
「どうしても、駄目・・・?」
「い、今はだめ・・・」
「いつになったらいいんです?」
「いつ・・・?!」
「だって、ずぅっと甘い匂いがしてるんですよ?」
「そうなの・・・?!」
「美味しそうな匂いです」
「ジェイドさん・・・!!」
「・・・わかりました、我慢します。
そのかわり、ちゃんととっておいて下さいね」
「・・・・・・(こくこく)」
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「春を運ぶこかげの花」29話の前あたり、ホルンから戻った後の休日の会話でした。
つばきは包丁が使えないので、お料理よりもお菓子作りを楽しむ子です。
2人の動作なんかは想像してお楽しみ下さい。
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~鉄子さん、雑用代理になる~
「雑用の彼女が、体調を崩した。
今日は執務室の警備は必要ないから、代わりに雑用を頼む」
「・・・私が、ですか」
「何か不満が?」
「いえ、雑用がおらずとも、執務が滞ることはないのでは?」
「・・・言い方を変える。
早めに屋敷に戻りたい。手を貸して欲しい」
「・・・かしこまりました」
「失礼いたします。
補佐官殿から、書類をお預かりしてまいりました」
「・・・あれ?
いつもの雑用ちゃん、お休みですか?」
「体調を崩したそうです」
「失礼いたします。
補佐官殿から、書類の訂正をしていただくよう、言い付かってまいりました」
「・・・え、いつものコは?」
「体調を崩して、本日は休養しておりますが」
「失礼いたします。
補佐官殿のサインが済んだ書類を、お持ちいたしました」
「いつもの彼女、お休み?」
「はい」
「ただいま戻りました」
「ああ、ありがとう。
もうすぐ次の書類があがるから、そこで勝手にお茶の用意でもして休んでいるといい。
ああ、私の分も頼む」
「・・・・・・かしこまりました」
「どうぞ・・・」
「ああ、すまない。
・・・もう少し待ってくれ」
「・・・はい」
「そうだ・・・、
彼女が休んでいることについて、何か反応はあったか?」
「・・・ええ、まあ。
書類を届けに行った先々で、彼女は休みなのか、と」
「なるほど。
・・・尋ねてきたのは?」
「誰か、という点をお尋ねですか」
「いや、性別と年齢くらいでいい」
「・・・男性が大多数でした。年齢は、およそ18から45。
女性からも質問されましたが・・・」
「・・・それで十分だ」
「かしこまりました」
「・・・それから・・・」
「はい」
「昨日、彼女が帰るところを見たか?」
「いえ・・・。
本部に召集されておりましたので」
「何かあったのか?」
「民間人から、不審者を目撃したと届出があったそうです」
「・・・では、この部屋の外にいたのは他の者か」
「はい、ほんの少しの間ですが。
指示により、交代で本部へ戻って、情報を共有することになっていました。
何か問題でも・・・?」
「いや、ない。
彼女が昨日から体調を崩していたのかも知れないなどと、仕方のないことを考えていただけだ」
「・・・・・。
・・・重篤な症状なのですか?」
「そうだな・・・少し熱が高いくらいか」
「・・・薬を飲んで安静にしていれば、3日もあれば十分回復するのではないかと」
「分かっている」
「・・・失礼いたしました」
「私は・・・」
「はい」
「このところの私は、どう見えるだろうか」
「・・・失礼ながら、仰る意味が理解出来ません」
「何か変わったと感じることは?」
「率直に申し上げても?」
「構わない」
「・・・お笑いになる姿を、見かける回数が増えたように思います」
「そうか」
「はい」
「・・・良い傾向なのでは、と」
「それを君に言われると、複雑な気持ちになる」
「失礼いたしました」
「カップケーキは、どうだった?」
「・・・ご存知でしたか」
「ああ、私も一緒に作ったから」
「・・・食べてしまいました」
「食べるために贈ったんだろうに・・・。
私はクリームを泡立てた」
「・・・補佐官殿、お菓子作りがご趣味なのですか」
「いや、彼女に付き合っただけだ」
「・・・はぁ・・・」
「失礼いたします。
補佐官殿より、書類を預かってまいりました」
「いつもの彼女、今日は体調不良で休んでるって本当か?」
「・・・はい」
「じゃあ、これ。
喉にいいっていう、飴。
彼女に会ったら渡してもらえるか?」
「・・・そういうことでしたら、補佐官殿を通された方がよろしいかと思いますが」
「ただいま戻りました」
「ご苦労・・・次の書類で今日は終わりにしておくから、少し待っていてくれるか。
ああ、お茶のおかわりを頼む」
「かしこまりました」
「・・・・・・」
「・・・さきほど、彼女へのお見舞いの品を断ってまいりました。
了解を得ず、勝手な判断をいたしましたが・・・」
「・・・いや、助かった。ありがとう」
「いえ。
・・・どうぞ」
「ああ、すまない」
「それから、」
「他にも何か?」
「いえ、外では何も・・・」
「・・・歯切れが悪いな」
「・・・私からのお見舞いの品は、彼女の元へ届きますか?」
「君が?・・・彼女にか?」
「・・・問題が生じるようなら、処分いたします」
「いや、そこまでしなくても・・・。
ただただ意外だ・・・」
「存じております」
「ああ、気分を害したなら謝る。すまないな。
それで、何を渡せばいい?」
「こちらを」
「・・・わかった。渡しておこう」
「お願いいたします。
それから、お大事に、と」
「ああ、伝える」
「ありがとうございます」
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「春を運ぶこかげの花」32話あたり、つばき(リア)が熱を出してお屋敷で寝ていた時の、ジェイドさんと鉄子さんの会話。
ジェイドさんは仕事上のお付き合いの人には、きつめの口調になることが多いようです。




