墓
野辺送りも終えた荒野に、男がただ一人、真新しい墳墓を光のない眼で眺めている。男の耳に届いてくるのは、物悲しげな風の音と、草のさやぐ声のみである。
空からはすっかり陽も落ち、ちかちかと星が瞬いていた。
「なぜ死んだ」
土の盛られただけの墓は、しんとそこに沈んでいる。
「おまき……なぜ俺より先にいってしまった」
男の言葉のはしばしに、おえつがにじみ出す。
ず、と鼻を鳴らすと男は地に手をついた。にぎられた草が くしゃりとうめきを上げる。
『あたしだって死にたくなかったさ。けれど死んでしまったんだ。仕方ない』
くもった声が、くらい地面から男へとつたわる。
びくり、と、男は体をこわばらせた。
「おまき……」
おびえるような、愛しむようななんとも奇妙な声が夜に吸い込まれる。辺りはシン、と静まったまま男をとり囲んでいる。