第8話 最後の夕餉は楽しく、苦い
舞台はまたオババの家へ
「と、言うわけで許可をもらって来たから今からお前さんはあたしの弟子だよ」
レイはキラキラと目を輝かせた。
……時々ほんとに子供っぽくなるんだよねぇ。
「これからよろしくお願いします!師匠」
「ああ、よろしく」
あたしは軽く息をついて、続ける。
「さてと。今日から弟子に取ったわけだが、あたしはお前さんのことをレイと呼ばせてもらうよ」
「はい!」
めちゃくちゃ良い返事じゃないか。あたしの弟子になるのがそんなに嬉しいのかねぇ?
「レイのお母さんと話をしてきたわけだけど、朝に来て昼間は店番の手伝い。夕方から本格的な修行に入るよ」
「はい!」
あの後もう少し細部を詰めたのだ。
「それから、飯の時間は家に帰んな。お母さんが用意してくれているはずだよ」
「あ……ご飯のこと、忘れていました……」
少し恥ずかしそうにするレイ。
ちなみに月謝はすでにレイの母と話を付けてある。
元々金に困っていたわけでもないので適当な額にして了承を取ってある。
「そういうわけで今日から店番だ。こき使ってやるからね」
「はい!師匠!」
こうして、あたしはレイの修行を始めたのさ。
――――物思いに耽っていた思考を現実に戻す。
……そうか。あれから10年かい。懐かしいねぇ。
「あん時あんたを弟子にしたのは間違っていなかった。思っていた通りの……いいや、それ以上の逸材に育ってくれたよ」
本当に恐ろしいくらいの才の塊だったよ。
「あんたを心配する必要なんてないとわかっているけど、それでも心配になるもんだ。必ず便りをよこすんだよ」
「はい、師匠」
「ちょっと待ってな」
そう言って外の倉庫へ向かい、レイのために用意してあった餞別を持ってくる。少し大きめの革のショルダーバッグとローブだ。
「バッグの中にはボタバッグ、ベルトとダガー、ポーション用の空き瓶が入ってる。ニニギ草は自分で採集してポーションにしな。食料の確保も大丈夫だね?」
レイが頷く。
ボタバッグは革製の水袋のことだ。ニニギ草は煮出してから魔力をなじませるとポーションになる。
「鍋は小ぶりな物がなかったからね……ちょうど行商人が来てるから聞いてみるといい。お金は……」
「お金は先ぶれの兵士さんにいただきました」
「へぇ!ちゃっかりしてるじゃないかい」
そう茶化すとレイは困ったような顔で
「それが……本当は馬車を用意してくださるとの話だったのですが、固辞したところ『馬車か旅費か』の二択を迫られまして……」
「そりゃあまぁ……」
そうだろうねぇ。
というかよく馬車じゃなくて旅をすることを許したもんさね。
まあでもそうか。下手に扱えば国家存亡の危機だもんねぇ。そりゃ丁重にもなるかね。
「本当に気を付けて行くんだよ。とはいえ今日いきなり発つわけじゃないんだろう?」
「はい。でも馬車を断った手前あまり遅れるのも失礼かもしれないので明日には発とうと思います」
そんなにすぐにかい。さみしいねぇ。
……そうか。あたしもこういうことでさみしいと感じるようになったんだねぇ。
「みんなに挨拶は済ませたのかい?」
尋ねるとレイは苦笑しながら
「さすがに師匠を差し置いて挨拶するような人物はいませんよ。皆にはこれから伝えに行きます」
まったく……また嬉しいことを言ってくれるね。
「じゃあ行っておいで。ああ、今日は泊っていくかい?」
こう聞いたらなんて答えたと思う?
「そうですね。しばらく師匠にお料理作れなくなりますし」
まったく!言ってなよ!




