第7話 子供はやりたいことをやる。大人は子供を守る。それで良いと私は思うんですよー
3人称視点です
ところ変わってここはレイの実家。
レイの母は食器洗いを魔道具に任せ、掃除をしようとしていたところだった。
ゴンゴンゴン
「はいはーい」
聞き慣れないノックの音に持っていたハタキを置いて玄関に向かう。
扉を開けると見知った顔が神妙な面持ちで立っていた。
「あらー珍しい。何かありましたか?あ、いけない私ったら。どうぞお入り下さい」
「お邪魔するよ……」
「こちらへどうぞー」
オババをレイの母は普段食事をするテーブルに招く。
余談ではあるが当たり前と言えば当たり前だが、この程度の規模の村では客間なんて物は村長の家くらいにしかない。宿屋は近年出来たが。
その村長宅にしたって別に豪奢な部屋があるわけではない。
ただし、この村はオババのお陰で魔道具が出回っているため、空調等はあるので客には喜ばれていた。
「今お茶を淹れるので少し待っていただけますかー?」
「ああいや、お構いなく」
返事を返したオババにレイの母はクスクスと笑う。
「気難しいあのオババもそんなこと言うんですね」
「あたしだってそうそう言う機会はないさ」
オババもニヤリと笑い、返す。
「でもこうやって訪ねてくださって嬉しく思っていますよ」
言いつつティーポット、カップ、茶菓子をお盆に乗っけて持ってくる。
因みにこのティーポットは魔道具で加熱と保温ができるポットで、加熱して今はお茶を抽出しているところだ。
「これからは来る機会が増えるかもしれないんだよ」
と言うわけで本題だよ、とオババは切り込む。
「ここのところレイの様子が変じゃなかったかい?」
レイの母は「見守ってくださっていたんですか?」と驚きつつ、
「そうなんですよねー。なんか別人にでもなっちゃったみたいで。子供の成長は早いって言いますけど本当に早いんですねー」
どこかほんわかした空気に「いや、違くて……」と心の中でツッコミを入れるオババ。
そのオババのカップにお茶が注がれる。
「兎も角そのレイが昨日うちに来てね、弟子にして下さいって言うんだよ」
レイの母は「そう言えばそんなことをあの子が言ってましたねー」とか呑気に言っている。
「本当は断ろうと思ったんだけどね。レイの様子がいつもとは違う気がしてね」
言いつつそっとカップに手を添える。
温かくて気持ちがいい。
「後は勘だね。勘で話を聞いた方が良い気がしたんだよ」
そこでずずっとお茶を啜り間を繋ぐ。
「そんなわけで魔法適正のテストをさせたわけだ。そしたらなんと英雄級……いや、それ以上の素質があったんだよ」
「まあ!」
(まあ!じゃねえよ。これは大事なんだよ)
なんなら呑気に茶を啜っていやがるレイの母。
(なんか疲れたね。許可取らなきゃだめかい?本当に)
「……と、そんなわけでレイに魔法の技術や知識を授けたい」
「良いですよー」
ずぞぞっと茶をしばきつつ許可を出す天然。
「いや、デメリットとか聞かないのかい?」
「なにかデメリットがあるんですかー?」
「損はさせないつもりではいるよ。ただ……」
「ただ?」
オババは言い淀む。
これを言えば断られるかもしれない。
だが言わないわけにはいかない。
言わないのは詐欺と変わらない行為にオババには思えた。
「もし国に知られれば間違いなくレイは連れていかれて利用される。今の国王は聡明で他国に隙を作ることはしない。強欲でもないから侵略も考えていないだろう。だが、抑止力は欲しがっているはずだ。そんな時にレイほどの才能を見つけてしまったら下手したら軍属。戦争に駆り出されるかもしれない。まだ稚い子が人を殺めるかもしれないんだ。それは幼いあの子が背負うにはあまりにも重い業じゃないかい?あたしは……」
「あのー」
と一気に捲し立てたオババの言葉をレイの母がやんわりと遮る。
「知られなければ良いのではないでしょうか?」
「……は?」
呆気に取られるオババ。
オババの「は?」を聞こえなかったのだと勘違いしたレイの母はもう一度言う。
「知られなければ良いのではないでしょうか?」
なんでこんなにほんわかしていられるのだろう?
事の重大さを理解できないのだろうか?
「そんなにすぐにバレるものなのですか?」
問われて顎に手を当て考える。
確かに派手なことをしまくらなければそうそう知られることもない。
ただの修行くらいであれば心配はいらないように思える。
英雄級を隠したとて罰せられるような法もこの国にはなかったはずだ。
レイが大きくなるまで守ってやれれば良いだけなのだ。
「確かに隠し通せるかもしれない。でもねぇ。万が一ってことも……」
「それにですねー」
レイの母がやんわりと続ける。
「村の皆さんに手伝ってもらえばいいと思うんですよねー」
「へ……?い、いや、村の皆がどう協力してくれるって言うんだい?」
レイの母はそうですねーと小首を傾げながら
「魔法で何ができるのかはわかりませんけど、少なくともオババはこの村に居てくれないと困る人でしょう?みんなオババに感謝してるんですよー。そんな風にレイがいた方がいいよねってなれば皆さん協力してくれるのではないでしょうかー?」
「……あたしのこと、そんな風に思ってくれてたんかい」
自分なんてただの歯車に過ぎないのだと思っていた。
大して人と関わらずにこの村に居続けていた。
そんなオババにレイの母はクスクス笑いながら
「そんなの当たり前じゃないですかー」
と言い、オババが手をつけないお茶請けをバリバリと食べ始めた。
オババは小さく「そうかい。ありがとうよ」と小さく呟くと、疑問を投げ掛ける。
「お前さんはなんでそんな風にレイの応援ができるんだい?」
「レイにはやりたいことがあって、しかもその才能があるんでしょう?それはとても幸せなことだと思うんです」
「それだけかい?」
「それにー、子供はやりたいことをやる。大人は子供を守る。それで良いと私は思うんですよー」
それを聞いてほんわかしてるけどやっぱり親なんだなとオババは思った。
そして少しだけ……ほんの少しだけ負けた気分になった。
(なんだろう?大物なのかね?この子は)
レイの母は嚙み砕いたお茶請けをお茶で流し込みながらひとりごちるかのように口を開いた。
「でも魔法使いになりたいって言ってたのは本気だったんですねー」
「お前さんには本気に見えなかったのかい?」
レイの母はそうですねーと言って、
「一度あしらってみて、その反応をみてみようかなーとは思ってたんですけど、直接オババの家に向かうとは思っていませんでしたねー」
(一応は考えてたってわけかい。)
「よし、じゃあレイを弟子に取りたいんだけどいいかい?」
「あの子のこと、よろしくお願いします」
頭を下げるレイの母に頷き、
「そういや、旦那さんに相談しなくて良かったのかい?」
と問うと
ニコリと笑顔が返ってくるだけだった。
我々はママを求めているんだッ!




