第50話 チグハグなバケモノ
「面を上げたまえ」
いつもの宰相のセリフを耳に、顔を上げる。
「さて、では再会致しましょう」
宰相は再会させようとしているけど、めちゃくちゃ居心地が悪い。
貴族達から刺すような視線を感じるし、何より、メリアが貴族達の反感を買った可能性がかなり高い。
その心配で胃がキリキリと痛む。
「その前に、私から一つ言いたいことがある」
王様が待ったをかけた。
「先ほど、そこな娘が無礼な言動をしたであろう」
そう言ってメリアを目で指す。
メリアが責められるのは違うと思う。
僕は思わず声を上げようとしたけど、それは当の王様の視線に遮られる。
「本来であれば、貴族への不敬。到底許されるものではない」
本来であれば?
僕の心に希望が宿る。
そう言えば、メリアが謝った時に、王様は「よい」って言ってたもんな。
「だが、此度の事は国の大事だ。其方たちの誇りよりも優先せねばならぬ」
言いつつ貴族達を眺める。
「よって、今回の件でこの者たちを糾弾すること、責を問うことは私が一切許さぬ。異論なきや?」
はぁぁぁぁぁ。
よかったぁ。
王様も敵に回ったらどうしようかと思った。
「あるものは今、この場で申し出よ」
静まり返る場。
「其方たちが国家の大義を、己の誇りよりも優先できる器であること、嬉しく思う」
てか、うすうす考えてたんだけどさ、この国の王様の権力、強くね?
こんなに貴族達をまとめて黙らせるとかできるもんなの?普通。
王様が宰相に目配せをする。
「では、再開いたします。まずは報告から。スルラ魔法師団長」
「ハッ!」
スルラかっけー!
「例の魔法ですが、とてつもない規模の魔法でした。ラーンクの軍が秘密裏にミカミイ要塞に攻撃を加えようとしていましたが、件の魔法一つで敗走させました。こちらのメリアが目撃した証人です」
宰相がメリアに顔を向ける。
場がざわめく。
「ラーンク軍が!?国際法違反ではないか!」とか聞こえてきた。
伝令から聞いてるのは王様と宰相だけなのかな?
あ、でも一部の上級貴族は一緒に来てたはずだよな?
思ったより横のつながり、ないのかな?
「長弓兵メリア。真か?」
「はい。隊長のエセンシアでは見えない距離でしたが、幸いあたしには見える距離でしたので目視いたしました。敵の数はおおよそ1万程。間違いなく、彼の魔法一つで敗走させました」
ざわめきがどよめきに変わる。
「1万を魔法一つでだと?」という声が聞こえた。
なんだろう?
俺つえーできそうな流れなのに全然嬉しくないのはなんなんだろう?
「静まれ」
シーン。
僕もやってみたいな。静まれっ!
てか、毎回王様に静まれされないと騒いじゃう貴族達ってどうなの?大人でしょ?
「もう一つ。彼に魔法の原理を聞きましたが、我が軍に同じことができる人間はおりません。師団全員の力を合わせても、おそらく同じ事はできないでしょう」
周りを見るのが怖いんだけど、化け物を見るような目で見られてない?大丈夫?
妙に静かだし、尊敬される感じとは違う気がする。
「まさにそこな娘が「彼を失うことは国防上損失になる」と言っていた理由であるな」
よかった。
王様のおかげでメリアの立場はなんとかなりそう。
「敵軍に関してわかることは?」
宰相の問いに答えるのはスルラ。
「おそらく、ラーンクのセテラム攻めは我が国の軍を北に向かわせる陽動でしょう」
「解せませんな。セテラムからの救援要請は切羽詰まったものでした」
「どう言うことか説明せよ。ツキーズ」
王様の要請に宰相は一礼して説明を始めた。
「ラーンク軍の数に違和感を覚えたのです。帝国への守り、更にミカミイ要塞に1万もの大軍を用意した上で、更にセテラムにも相応の兵数を用意できるとは思えませぬ。今回の救援要請は、小競り合い程度のものではありませんでしたので」
僕はラーンク軍の規模とか知らないから詳しいことはわからないけど、それでも落とせる手段があったってことか。
僕と芽結がたぶん同時期にこの世界に来ていたことを考えると、他の国でもありうるかもしれない。
現代知識で新兵器!とか、可能性がない訳じゃないだろうし。
と、その時、一人の兵士が転がり込んできた。




