第48話 あ、鼻水つくんで近寄らないでください
ゴンッ!
鈍い音が内側から聞こえる。
同時にこめかみに鈍い痛み。
「貴様!王女殿下から離れんか!」
「鈴!」
あーそっか。槍の石突で突かれたのかぁ。
「殿下、お下がりください」
「やめて!鈴は私の大事な人なの!」
「殿下は錯乱なされている。お鎮め申し上げろ!」
あー。今回は大丈夫だと思ったけど、前回よりヤバイ粗相をしちゃったなぁ。
ゆっくりに感じられる時間の中、そんな呑気な感想が出る。
パァン!!
音の方を見ると、メリアが両手を合わせていた。
あぁ、幸運の黒猫亭で見た、あの拍子か。
「失礼しました。ですが、皆さん一度落ち着かれては?」
いつの間にか時間間隔は戻っていた。
周囲の喧噪も止んでいる。
メリアは僕と芽結を引きはがしていた兵士たちを指さし、
「あなたたちは姫様のご様子をよくご覧になられては?姫様のおっしゃってた言葉をちゃんと聞きましたか?」
今度は貴族達の方を向いて、
「今回のお披露目でレイさんの大魔法を見ましたが、彼を失うのは国防上大きな損失になると思います。それだけの戦力なのは、あたしだけじゃなく、スルラ師団長も証言してくださります。そうですよね?師団長」
「肯定します」
「王家の方に不敬だという気持ちはわかりますが、最早彼はそれを言ってよい相手ではありません。彼にその気がないだけで、力でこの国を危機に陥れうる存在です」
そして王様に向き直り、
「不敬な言動、申し訳ございませんでした。必要とあらば、この首一つで」
「よい。いや、よくこの場を収めてくれた」
そう言ったメリアの言葉を王様が遮る。
僕の目からは再び涙があふれてしまった。
王様が許してくれたからお咎めがなかったけど、メリアは僕を守るためにかなりのリスクを背負ってくれた。
メリアがどんな意図で僕をかばってくれたのかはわからないけど、相当危険な橋を渡ったはずだ。
それを思うと涙があふれて止まらなかった。
「メ゛リア゛ァ。あ゛りがどう゛」
「あ、鼻水つくんで近寄らないでください」
メリアさん相変わらず辛辣ぅ。
僕はずぞぞっと鼻水をすすった。
貴族たちは嫌そうな顔。
いや、飲み込んだわけじゃないよ?
日本人にしかわからないかもしれないけど、鼻の奥で溜めるのよ。
本当だよ?
横を向くとメリアとスルラも嫌そうな顔。
くそう。
しかし、乱れ切ってしまったこの場はどうするんだろう?
仕切り直し、できるの?
と、宰相が王様に目配せ。
王様が頷く。
「このまま再開するのは難しい状況と判断致します。半刻ほど休憩を取り、それから再開と致しましょう」
ということで一旦お開きとなった。
王家の方々がまず退出する。
芽結は戻る際に僕の横に来て、
「あとで、お話の機会を作るから」
そう言って退出していった。
その後は上級貴族達から順に退出。
最後に僕たちだ。
「なかなか危険な賭けに出ましたね。メリアさん」
スルラが言うと、
「いやー。いまだに心臓バクバクです」
緊張しているとは思えないほどあっけらかんとメリアは返した。
「僕のせいで立場を悪くさせちゃったかもしれません。申し訳ございません」
僕は90度に腰を折った。
「どっちかというと姫様が突進した感じですけどねー。姫様の腰に手を回したのは完全にダメでしたけど」
本当にごめんなさい。
そう謝罪をしながら、僕らは謁見室を後にした。




