第45話 そういうことではないのですよ
「なるほど、大体の話は理解できました。しかし博識ですね。その知識は一体どこで……」
魔法師団長のスルラに質問攻めにされて、なんとか納得してもらえるまで説明できた。
この人、納得いくまでとことん聞いてくるから、説明の途中に説明をしなければならなくて大変だった。
この人にパソコンを与えたら、きっとブラウザのタブが凄いことになって、どこまでも深いネットの世界までサーフィンし続けることだろう。
そのスルラは、今は眼鏡を拭いている。
スルラの外見は、師団用の制服(黒基調に金の刺繍)に、片マント。これが魔法師団の正装なんだそう。
髪は薄青色で内巻きのショートボブ。
今は外しているが、眼鏡をかけていて、耳には金蛇のイヤリングをしている。
ひとしきり眼鏡を拭き終わると、
「嵐を起こすあの魔法、すごいですが、単独であの魔法を使える者は、少なくともうちの師団にはいませんね」
仮に多重発動ができなくても、単独で使う必要はないと思います。
それを伝えると、スルラはふるふると首を振り、指を一本立てる。
「そもそも、熱の魔法を使える者がそう多くいません」
そして二本目の指を立てて、
「それに、ほとんどの者があれを維持するので魔力のほとんどを使ってしまうでしょう」
そう考えると、やっぱり師匠は優秀な魔法使いだったんだなぁ。
少なくとも、熱の魔法はある程度維持できていたし。
「あんな魔法を編み出しただけでも偉業ですが、単独で行使できるのには呆れる他ありませんね。その膨大な魔力量は男性と言うだけでは説明がつきませんね」
散々メリアには言われてたけど、僕って常識を逸脱しちゃってるんだなぁ。
「あーそう言えばレイさんお手柄でしたね」
急なメリアの言に疑問符を浮かべる僕に、
「いやー結構な数のラーンク軍がいたんですけど、見事に敗走していましたよ」
らーんくぐん?ランク群?
え?ラーンク軍!?
「は?え?え?はぁ?」
え?てことは僕、人を殺めたってこと?
でも本当にショックなのはそのことに罪悪感を感じていないことだ。
僕は人の心を失ってしまったのだろうか……。
「あ、でも、レイさんが叱責されることはありませんよ。相手は宣戦布告なしで奇襲しようとしてたわけですし」
そういうことではないのですよ。メリアさん……。
「おや、敵軍がいたのですか?気づきませんでした」
「あたしの視力だと見えるけど、って距離でしたから。エセンシア隊長でも見えていませんでしたからねー」
ああ、そうか。自分の預かり知らぬところで殺めたからか。
そうだとしてもショックだなぁ。
あ、いや、待てよ。何も人が死んだとは限らないじゃないか。
そうそう雷が当たるわけでもなし。
「あー。よかったー」
「何が!?」
何がってそりゃ、
「僕が人を殺めたとは限らないってこと!」
ですよ。当然。
「あー。それは大変よろしかったですねー」
なんだろう?このメリアの言い方。
でもメリアに確認のために聞くのも怖い。
そう思っていたら、スルラが眼鏡をクイッと上げて、
「それはどうでしょう?川より西は何もない平原ですし、そもそも、なんらかの被害が出なければ、撤退しないで体勢を立て直して攻めてくるのではないでしょうか?」
と分析してきた。
そんなこと、聞きたくなかった。
「それは言っちゃだめですよー。スルラ様。はっきりさせないことで、彼は心の平穏を保とうとしてたんですから。」
「あら、それはごめんなさい」
スルラはきっと真面目なんだろうね。しくしく。
「大丈夫ですよ、レイさん。私も、このメリアも、人を殺めた事はあります」
そういうことではないのですよ。スルラ様……。
「それに今回は、本来いるはずのない所に軍隊がいただけですし、レイさんが気に病む必要はありませんよ」
「そうそう、気にしなーい気にしなーい」
まったく気にしないのもどうかと思うけど、二人のおかげで僕の心は少しだけ軽くなったのだった。




