第41話 護衛対象が謁見中に -side Melia-
水牛を捌こうと思ったら、レイさんが凄い形相でお腹は薄切りでとか、肉串じゃなくて石焼でとか言ってきた。
あまりにも必死だから思わず苦笑をしてしまった。
いざ実食。
ふぁあぁぁぁぁぁ。
あー、あたし、今日のために生きてきたわ。
気づくと、肉厚のかたまり肉はきれいさっぱりなくなっていた。
次はレイさんの薄切り肉の食べ方を真似て食べてみる。
ふぉぉぁぁぁぁぁ。
嫌なこともいっぱいあるけど、生きてこれてよかったー。
こちらも気が付いたらなくなっていた。
レイさん、隠れて取ってない?
さて、食べ終わったし、魔獣がやたらいるし、ちょっと旅を急ぎたい。
そんなわけで少し急ぎ足で次の村に向かった。
次の村では注意喚起と伝令を出した。
翌日は馬を借りてレイさんを後ろに乗せ、馬を走らせる。
川を渡ったところで小休止。
馬を休ませつつ、干し肉を齧る。
うーん。おいしい。
魔獣の干し肉が手に入ったのは幸運だったなー。
王都に着く前にレイさんからあたしの分、ちゃんと受け取っておかないと。
姫様肝いりの小麦畑まで来た時に、説明をしていたらレイさんが騒ぎ出した。
馬に伝播するからやめてほしいんだけど。
なに?この人姫様狙ってるの?
その時、風が吹いた瞬間、うるさかった声が急に静かになった。
――ああ。
「綺麗ですよね。この光景。ちょうどいい時期に来られて幸運でしたね」
あたしはそう声をかけたけど、レイさんは反応しなかった。
いや、感動で反応できなかったって感じかな?これは。
まぁ、この光景は至宝だよね。
幸運の黒猫亭ではまたまたまたまた姫様のことを確認された。
本当に姫様狙いなの?無理に決まってるじゃん。
って思ってたら、
「ばたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
ちょっ!
「ユニヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァス!!!」
ああ、もう!
急に変人になるのはなんの意味があるの?
その後、店主と妙に息の合った小芝居をしているレイさんを、あたしは冷めた目で見つめていた。
この旅の間、常々思うことだけど、レイさんはやたら自己評価が低い気がする。
もうちょっと自分の立場とか自覚してもいいと思うんだけどなぁ。
軍本部に戻ってきたのでとりあえず訓練場に行ってみる。
あ、もちろん干し肉は回収済み♡
扉を開けると――
「うげ。隊長」
なんでそんなところに待ち構えてるかのように立ってるんです?
「そちらが例の?」
肯定する。
あ、そうだ。
あたしは隊長に近づき、
「ビッシポン領の山に魔獣が複数沸いています。こちらは一応周囲に伝令を出して注意喚起してあります。それと、レイさんがやたらと『まよねーず』と、『ぱそこん』の2つの単語を姫様に伝えてくれとしつこく言ってくるんですよね。なんか、あまりにも必死で」
「ふぅん」
隊長はチラッとレイさんを一瞥して、
「わかった。上への報告と合わせて必ず伝えよう」
いやー、あたしの仕事もこれでおわりかー。
と思ったけど、隊長の言葉にあたしの気持ちはころりと変わった。
「あたし、もうちょっと護衛したいなー。というか、レイさんの身辺警護が必要だと思うんですよね!ね?」
だってさあ、あの宿、泊れるんでしょ?
何としても、レイさんを色仕掛けしてでも勝ち取らねば!
しかし、割とあっさりと認められた。わーい。
うわー!
こんなところに宿泊できるなんて!
ここは国内で最もお高いお宿。
いやー。今回は本当に役得ですねぇ。えへへへへへ。
りんごの飲み物を頼んで飲んでいたら、レイさんがまさかの「飲んでみます?」。
というわけで彼が飲んでいた謎の飲み物を少しもらう。
あー。これ、あたしのだわ。
結局、レイさんにはあたしが飲んでいた方をあげた。
6日後、ようやくレイさんの謁見準備が整ったので、見送る。
「じゃあ、あたしは軍本部に戻るので。また!」
さて、軍本部に戻ると、隊長が待っていた。
「ふたつの件、どちらも上に報告しておいた。団長らはいないから、宰相にだが、あの方なら正しく判断していただけるだろう」
あら、団長不在なんだ。
「で、この前本部に来た時から、人が少ないことに気が付いたか?」
もちろん気が付いていた。
「ガガダの討伐ですか?」
ちょうど小さな騒動にも遭遇したし。
しかし隊長は首を振る。
「いいや、セテラムが攻められている」
セテラムが?
セテラムは北のナウォック小国群のうちの一国だ。
我が国とは同盟を結んでいる。
「ラーンクですか……」
「ああ」
最近は静かなものだったのに。
「彼が悪いわけではないが、彼の到着がもう少し前倒しになっていれば、防げたのやもしれん」
これでも結構急いだんだけどなぁ。
まぁ干し肉とか呑気に作ったりもしてたけど。
「とはいえ、誰も彼を責めることは許されないし、そもそも予定より早く着いたくらいだしな」
あ、もしかして。
「宿で待たされたのって、貴族の都合だけじゃないとか?」
「気づいたか」
あーやっぱりそうか。
ちょうど軍を編成しているところにあたしたちが帰還。
あたしの上司の隊長だけはあたしの到着を待たなければならないからいたんだな。
で、編成した部隊がナウォックに移動。
それらの事後処理等が終わったあたりで呼び出しがかかったのか。
「この後は、魔法の実演をする、レイさんの護衛ですよね?」
「ああ。謁見もそんなにはかからないだろうし、そろそろ行けるか?」
6日もゆっくり休んだし、余裕余裕。
「隊長は?」
「俺は一度西のミカミイ要塞に向かうように言われていてな。一応異変がないか確認しておけとのことだ」
それはそうだよね。
「わかりました。じゃあ、あたしは行ってきますね」
「おう。ちゃんとやってこいよ」
言われるまでもない。
これでもあたし、レイさんのこと、結構気に入ってるんだ。




