第40話 メリアは僕を指さして笑っていました
ガタゴトと、車輪が地面を叩く音がする。
それなのに、
「この馬車、全然揺れないですね。どうなっているんです?」
「うーん。あたしもよくわからないんですよねー」
なんでもまた、「姫様の発案」だそう。
現代知識無双しすぎじゃね?
てか、遠心分離機の構造知ってたり、馬車の衝撃吸収に詳しかったり、十中八九男性なんだろうな。
女性でそういうのに詳しい変わり者……まあ、たまにいるけど。
でも、そうなると王女様、TSかぁ。
TSって精神壊れたり、しないのかな?
…………この話題はあまり深掘りしないようにしよう。
R-18タグついても困るし。
あ、言い忘れてたけど、今一緒にいるのはメリアだ。
またまた僕の護衛なんだそうで。
別れ際にメリアが「また!」って言ってたのはこれだったんだね。
ちなみにこの馬車、王国内でも数台しかない貴重なものらしく、それを聞かされた僕はまたまた粗相をした。
ステップを踏み外して顔面から転倒。鼻を強打した。
それを見て、メリアは僕を指さして笑っていました。貴族の皆様の前で。
くそう。
でもおかげで貴族方は僕に同情的な目を向けていた……気がする。
変に「平民の分際で」みたいに敵になるよりいいよね?きっと。
今僕らが向かっているのは川だ。
魔法の実演を頼まれて、僕が要求したのは湿気だ。
湿地か湖、もしくは広めの川幅の川。このどれかの条件があればやれると。
そうして示された場所は、レハチワとラーンクの国境になっている川だった。
そんなわけで僕たちは西に向かって走っている。
他には一部の上級貴族と、魔法師団の団長さん、給仕などの支援要員が同行している。
上級貴族でも乗れない馬車に乗るのはとても乗り心地は良いけど、とても居心地が悪かった。
到着は3日後らしい。
メリアが一緒で、正直助かった。
メリアはこんな性格だけど、こんな性格だからこそ、距離感に迷わずに接することができたともいえる気がするんだよね。
こんな馬車に乗せられて、知らない人たちばかりの中で、知らない人と密室とか、本当に胃が痛くなりそう。
そう思って3日目。
それまでは順調だったところだけど、動きがあった。
馬車のドアが叩かれ、馬上の兵士が飛び乗ってきた。
あらかじめ後ろの馬車には伝えてあったのか、後ろの馬車は横に避けていたので、置き去りにされた馬は軽く流してゆっくり歩きに変わるのが遠くに見えた。
入ってきた兵士はメリアに耳打ち。
メリアが真剣な顔になり、兵士と交代するように出て行った。
ちなみにメリアはその足で走り出した。
例のめちゃくちゃな風魔法の使い方だ。
本当に馬車より余裕で速いのね……。
ドン引きですよ。メリアさん。
「あと少しで着きますが、一時メリアさんと交代です。短い時間ですがよろしくお願い致します」
すごく丁寧にあいさつをしてくれた。
僕も挨拶を返したんだけど、なんか兜を脱いだこの人の顔、見た事ある気がする。
――あっ!
「タキンチに来た先ぶれの兵士さん!」
「おお、覚えていてくださりましたか」
うわー!再開できるとは思わなかった。
ずっと聞きたいことがあったんだ。
「あの時は、馬車移動を頑なに断ってしまって申し訳ございませんでした。何かお叱りを受けたりはしませんでしたか?」
僕のせいでこの人が鞭打ちにあっていたりしたら申し訳なさすぎる。
「あぁ、何にもありませんでしたよ。多少は想定内だったんでしょうね」
とのことで胸をなでおろした。
「村に行く前にかなり多めのお金を渡されて向かったんですよね。それを旅費としてレイさんに渡したんですけど、最初から見越してのことだったんじゃないですかねー?」
あ、そういえば。
「あまったお金ってどうすればいいのでしょう?」
そう、結構まだ残ってるんだ。
バタバタしていたり、テンパってたりしててすっかり失念してたけど。
「あーそれはレイさんに『預けた』お金ではなく、『渡した』お金なので、自由にして大丈夫だと思いますよ。どうしても不安なら、上官に確認しておきましょうか?」
との提案をしてもらえたので是非とお願いしておいた。
それにしても、この兵士さんが悪いことになっていなくて、本当によかったあ。




