第39話 迫る暗雲
ラーンク国でもレハチワ国に接している領地、ハナアカ領のアルチュー平原がある。
その日、ハナアカ領のアルチュー平原には大軍が出揃っていた。
ラーンク国の貴族の私兵である。
私兵とは言え、普段は防衛のため、貴族に貸与されているだけであるため、正しい帰属は国である。
それゆえ、数もただの私兵よりも遥かに多いのだ。
「レハチワ軍の大半が北へ向かったのが確認されました。作戦は成功です」
部下の言葉をハナアカ卿が訂正する。
「ミカミイ要塞を落とすまでは成功ではない。油断はするな」
「ハッ!」
しかし、ともハナアカは考える。
(ここまでやればもはや勝ったようなもの。油断はせんが、負ける気もせんな)
「全軍、大河手前まで進軍。敵に見つからない距離にて陣を張り、待機」
「「「「全軍大河手前まで進軍」」」」
ハナアカの命を軍団長が復唱。
更にそれを各隊長が復唱。……といった具合に全軍に伝えていく。
この規模の兵数だと、このようにしないと指示が行き届かないのだ。
また、戦場では細かい指示を全軍に出し続けるのは不可能だ。
なので、戦が始まる前より幾度もシミュレートして、指示が届かなくともある程度動けるように訓練してある。
後は大河手前まで移動。
ミカコルス卿の工作隊が上流を塞き止め、水量を調整。
水深が浅くなったところを軍の2/3が進軍開始。
ある程度進んだところで残りが大橋を渡り、足並みを揃え、総攻撃をかける。
これが作戦だ。
夕方には目的地に到着した。
十分な距離はあるが、敵に位置ばれしないように、焚き火はできるだけ焚かず、ランタンでしのぐ。
数日はこの状態が続く。
ハナアカの指揮する軍が目的地に到着。
そこから上流に伝令を放つ。
伝令を受けて工作隊が塞き止め。
そこから水量が減るまで少し時間がかかるのだ。
「レハチワから来た旅人や商人は誰一人として帰すなよ」
奇襲の情報が流れたら作戦が破綻するかもしれない。
当然、帰すようなことはしない。
(宣戦布告なしの奇襲も、薬物による国落としも、国際的には禁じられているのはわかっている。だが、それでも――)
国際的な非難を浴びようとも、彼らは勝ちたかった。
ラーンクは大国であるが、国の半分は砂漠だった。
国内の地下にある魔物の領域。現代日本人の感覚で言うところのダンジョンが多数存在していたため、冒険者と商人は多く招くことができた。
だが、それだけでは足らない。
水も、水が必要な作物も、商人が持ってくるものだけ。
そんな彼らにはレハチワの肥沃な土地は喉から手が出るほど欲しかった。
また、ラーンクより更に西にある、最近皇帝が代替わりした帝国から身を守るためにも、後顧の憂いは断っておきたい。
彼らが国際的な非難を浴びようとも、レハチワを攻めるのは必然とも言えた。
(これで、少しは我らの国も豊かになればよいのだが……)
ハナアカ他、3名の辺境貴族達は皆、いがみ合っていても国を憂いていた。
ある意味、腐敗していない貴族と言えたかもしれない。
しかし、彼らにとっては正義でも、レハチワからすれば悪である。
その報い……と、言って良いのか。
それを受ける時は刻一刻と迫っていた。
ハナアカ領などの地名やハナアカ卿などお忘れの方は、
14話「勝利を陛下に」
を読み返すとあーこんな人いたなーと思い出せるかもしれません。
タイトルは、ちょっと違うかもしれませんがトリプルミーニングです。




