第33話 操れない雷
「なんで雷の発生はさせられるけど操れないかというと、作れるのは雷ではなく、雷雲だからです」
こちらの世界の人に何かを説明するというのは、存外難しかったりする。
日本では常識で通ってる程度のことでも、こちらでは常識じゃないってことはいくらでもあるからだ。
あちらの世界の常識が頭にあると、ついそれを言ってしまいがちだけど、それだと通じないんだ。
「そしてご存じの通り、雷雲から雷が落ちる時は、まっすぐに落ちません」
雷は電気抵抗の少ない所を探しながら落ちるから、ジグザグになるんだ。
「川もまっすぐに流れないじゃないですか?あれと同じで、雷も進みやすい所を探しながら落ちるんですよ」
電気はよく水で例えられるしね。
「だから曲がりくねって落ちてきますし、それゆえに思った通りには操れないのですよ」
「ふーん。でも、雷って上から下に落ちるだけじゃないですか?ってことはその方向には規則性があるんじゃないですか?」
鋭いな。
「確かに方向には規則性がありますよ。ただし、下から上に昇る雷も、横に走る雷も、実は存在するんですよね」
下から昇る雷は冬の日本海なんかでよく見られるらしいね。
日本海の暖流で暖められた海上の空気が、シベリア寒気とぶつかって上昇気流になり、雲ができる。
雲は季節風に流されるけど、上空にいくほど季節風が強くなるから、坂道状に積乱雲ができる。
雲の上部には正電荷、下部には電子が溜まる。
正電荷は動かないから、地表から電子を強力に引っ張ると、それが雷になる。
っていうのが昇る雷の正体だ。
まぁ、僕も動画投稿サイトで見ただけで、実物を見たことはないんだけどさ。
原理に関しては、気象の話が好きだから調べたことがあるんだ。
メリアにこんな話をしてもどうしようもないから言わないけどさ。
「方向を操ることはできないんですか?」
メリアがそう聞いてくるが、雷の速度のものを操るとか無理ゲー。
なんらかの形で誘導はできるかもしれないけど、戦術的とか戦略的に使うのは無理なんじゃないかなー?
それをメリアに伝える。
「つまり、他国への牽制にはなるけど、実用的じゃないってことですか?」
「そうなりますね」
メリアは「ふーん」と呟いてからニヤリと笑い、
「でも、伝説の魔法を使える人間がいるってだけで牽制としては十分ですね。実用性は大した問題にはなりませんよ」
そんな単純にいくものかなぁ?
「ちなみに、直接雷を発生させられないのは何でですか?」
あーそれかー。
「厳密には不可能なわけじゃないと思うんですよ。ただ、実際に使うとなると自爆技になりそうなんですよねー」
「ジバクワザ?」
「要するに、自分に攻撃するかもしれない魔法になっちゃうってことです」
それと、魔力的な問題、制御の問題も実はある。
雷に匹敵するエネルギーの電子を集めるだけでも魔力消費がやばそうなうえに、原子より更に小さい電子を操ろうってのがちょっと想像もできない。
たぶん、電子を集めている最中に、順次地面に放電してしまうと思う。
仮に集められても同じく地面に放電しちゃうんじゃないかなー?
地面より術者の方が近ければ、最悪は術者に放電されることも考えられるし、術者と魔法を作用させる場所の距離が離れれば離れるほど制御が難しくなるから、遠くで集めるとかも難しいだろうし、やっぱり現実的じゃないな。
この辺の現代知識の話はメリアにわかるように説明するのには、僕の能力が足らないからしないけども。
「だから、試してみるわけにもいかないんですよねー」
僕は魔法が好きだから、この辺りのことも後々解明したいよねー。
そうこうしていると、夕方前には王都に着いた。
僕は早々に宿に向かって休む……のかと思ったら、一度メリアと一緒に軍に顔を出すんだそうな。
なんかすっごい緊張する。
先ぶれの兵士さんとメリアはいい人だったけど、軍隊ってどんな感じなんだろう。
怖いなぁ。帰っちゃだめかなぁ?
僕のそんな内心とは裏腹に、馬は軍の本部に着いてしまった。




