第30話 黒猫亭での夕食
その日の夕飯。
馬を降りる際にメリアが言っていたことを問い詰めた。
「王女様の護衛してるって言ってましたよね?」
「まぁ、あたし、優秀ですし」
存じ上げております。ええ。身に染みて。
「じゃあ、直接言伝てもらえたりできないんですか?」
僕が言うと、メリアはうんざりした顔をした。
「まーたその話ですか?無理ですよ。あたしは近衛ではありませんし、護衛を増やしたいタイミングでしか呼ばれませんし」
ずっと気にはなっていたんだ。
メリアがずっと『姫様』って言ってることを。
多少距離が近くないと使わない呼び方なんじゃないかと思ったんだけど、僕が期待しすぎだったのかな。
「まず間違いなく隊長に伝えるのでそれで納得してください」
くそう。
そう言われれば引き下がるしかない。
「まぁ、隊長からちゃんと姫様には伝わるとは思いますよ?」
え?そうなの?
「うちの隊長、有能なので。小さな情報を見逃して大きな事態になることは避けると思います。でも保障はできないので期待はしすぎないでくださいねってことです」
あ、はい。すみませんでした。
「すみません。焦りすぎました。でも、王女様にとっても大事な話なので」
「犯罪者はみんなそう言うんですよねー」
犯罪者ちゃうし。
ここで今日の夕飯が運ばれてきた。
なんと、今日の主食はパンである。
芋のパンではなく、小麦のパンだ。
「あたしはこれ、好きなんですよねー。いつもの芋パンも美味しいですけど、これはふわふわでいい香りがして」
そう言い、メリアはパンをちぎって口に放り込む。
これは……ロールパン?
僕も一口食べる。
こ、こっ、これはっ!
「ばたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
メリアは慌てて周りを確認する。
「ちょっ、ちょっと!急に叫ばないでくださいよ!」
しかし僕は止まらない。
「ユニヴァァァァァァァァァァァァァァァァァァァス!!!」
「ああ、もう!」
パァン!
メリアが両手を強く叩いて音を出した。
僕も周りも静かになる。
これ、逆に注目集めてね?
酒盛りして騒いでた人たちは僕が叫んだくらいではそんなに注目してなかったよ?
と、そこで店主っぽい大柄の男が我々の席までやってきた。
嫌な予感。
「あのぅ。そういったことは当店では控えて頂けると……」
すごく丁寧に言ってくれてるけど、お前らええかげんにせえよと言うことだ。
「すみません、こちらの料理があまりにも美味しくて、叫ばずにはいられませんでした」
僕はわざと、少し大きな声で謝罪する。パンに一瞬目をやりつつも。
男もチラと僕の食べかけのパンに目をやり、
「左様ですか。こちら、王女殿下肝いりの計画による成果でしてな。そこまで感動されたのなら、殿下もさぞお喜びになることでしょうな」
声を大きくしてそう言った。
周りに『殿下肝いり』をアピールする目的だろう。
僕も誘導したけど、気づいてくれてよかった。
「いやー。味にうるさい人ならこの宿は外せないでしょうねー」
「「はっはっはっはー」」
息の合った小芝居を続ける僕らを、メリアは冷めた目で見ていた。




