第11話 はじめての恐怖
「離してください!!」
そんな声が聞こえてきた。店の空気が一瞬だけピンと張る。
何やら騒ぎが起きているようだ。
素早くさつまいもにマヨをつけつつやじ馬に向かう。
少女が輩達に絡まれているようだ。
150cm台半ばで柔らかな金髪ボブにオレンジのトップス。
……はて?
ガラの悪そうな輩も何か言っているけどだみ声過ぎて何を言ってるかさっぱり。
しかしやじ馬ばかりで助けようって人がいないのはなぜだろう?
僕もどうしようかなー?うーん……。
あれ?いつの間に彼女のすぐ後ろに移動したんだ?
というかいつの間にか彼女と輩の距離も離れてる。
あ、輩と目が合った。こえー!
とはいえ僕も師匠からお墨付きをもらった魔法使いだ。
輩4人くらいはなんてことない……ハズ。
でもとりあえず何かしらフォローしないと。
「約束の席に全然来ないと思ったらこんなところで何してるんだい?メアリー」
僕の呼びかけに少女がその金髪をふわりと揺らしながら振り向く。そして……
「あーーーーーーーーーーっ!あなた銀髪の!」
あっ!やべっ!
「……の方ならあちらに向かいましたよ」
伝家の宝刀をすらり。
「何度も同じ手にかかるかぁ!」
ちっ。かかればいいのに。
あ、なんか輩の方々が面食らってる。
……と思ったらなぜかこちらへ鋭い視線。解せぬ。
「あたし、隣村まで行っちゃったんですよ?ひどいと思いませんか?」
悪いとは思うけど面倒に巻き込まれたくないしなぁ。なぜか今回は首を突っ込んじゃったけど。
少女ははぁとため息をついて。
「まぁ、もういいです。あたしは王国長弓隊所属のメリアと言います。王命により護衛に参上致しました」
え?なにそれ聞いてないんですけど?
とか思ってたら輩達が笑い出した。
「ハーッハッハ!何かと思えば嬢ちゃん間抜けな間抜けな王国の兵士さんかよ!こりゃあ傑作だぜ」
え?何がおもろいん?
「俺たちゃこの辺を仕切ってる≪賢盗王≫ガガダ山賊団だ」
ガガダ!
忘れもしない。父さんと母さんの仇の山賊団だ!
「あんたらが仕事をしないおかげで俺たちゃやり放題だ。助かってるよ。ありがとうってな。ハーッハッハ!」
メリアがぎゅっとこぶしを握る。
「おっと!変な気を起こすなよ?街中だぜ?犠牲者出していいのかよ?」
こいつら……!
そう思った瞬間、話してた賊がこちらに視線を向ける。
その目を見た瞬間、恐怖で肌が泡立った。
僕は怒りも忘れて恐怖で動けなくなっていた。
「例えば……そいつだ。護衛するとか言ってたよな?4対1でやれんのか?あ?」
賊がシミターをすらりと抜き放ち、僕に向ける。
まっすぐ立ってるはずなのに地面がなくなったかのように世界がふわふわぐらぐらしている。
怖い。怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい!
「大丈夫。ゆっくり深呼吸をして。大丈夫だから」
メリアに言われて深呼吸をしようとしてみるけど吸うのが上手くできない。
それでも「ゆっくり、ゆっくり」と念じながら呼吸を繰り返す。
その間に山賊たちに動きがあった。
「おい。頭には町中で騒ぎを起こすなって言われてるだろ。大事になる前にズラかろうぜ」
「まぁ、こいつら王国兵が俺らをどうこうできるとは思えねえけどな。んじゃけぇるか」
そうして山賊たちは帰っていった。
僕の呼吸もようやく落ち着き、冷静さを取り戻せていた。……まだ恐怖は残っているが。
僕は悔しくて、テーブル上のランタンの炎を睨みつけていた。
メリアはこちらを向き、
「巻き込んでしまってすみません。怖い思いをされましたよね」
そう言って背中を撫でてくれた。
怖かった。本当に怖かった。けど
「大丈夫……ではないですけど、あなたが悪いわけではないので謝らないでください」
人に殺意を向けられるなんて経験、こっちでも前世でもしなかったから未だに心臓がバクバク言ってる。
恐怖と悔しさですごく興奮している。
でも、彼女に非などあるわけもない。悪いのはあいつらだ。
それでもなんでだろうとは思ってしまう。
「なぜ、国は彼らを野放しにしているんですか?」
気づけば疑問が口から出ていた。
そうだ。野放しにしていなければ父さんと母さんもまだ生きていたかもしれないのに。
わかってる。悪いのはあいつらであって国が悪いわけじゃない。
でも国がもっとちゃんとしてくれていたらと思わずにはいられなかった。
「奴らの頭目、ガガダは自ら『賢盗王』などと名乗るくらいには狡猾な男です。我々が手を出せないようにうまく立ち回っているのです」
そう言ってメリアはこぶしをキュッと握る。
その様子を見ただけでも彼女たちも悔しいのだと感じた。
「2つの山に合計3つの拠点があると言われていて、3つの拠点を不定期に移動している……と言われています。以前、討伐隊が動いた時も、たどり着いた時にはもう空でした。山の斜面に見張りをばら撒いていて、こちらが動くとすぐ察知されて、別の拠点に消えてしまう。追いかけても、常に半歩遅れるんです」
それだと確かにいたちごっこになってしまうかもしれない。
「そして討伐隊を動かすのって……想像以上にお金がかかるんです。相手は数百の山賊団。こちらはそれ以上を用意しなければなりません。しかも山道ですので移動だけでも時間がかかる。そうすると更にお金と食料が必要になります。それがわかっているから拠点を移動して我々を翻弄するんです」
メリアに席を勧められて座る。
振動でランタンの炎が揺れる。
「それに……」
と歯切れ悪く言うとこちらに顔を寄せて小声で
「あまり軍を大きく動かすと西の大国に攻め入られる隙になるかもしれないんです。その可能性があるだけで、貴族たちは強く反対しました。王が討伐隊の案を出した時も、相当揉めたと聞いています。」
そこまで言うと顔を離し、
「そういうわけで国民の皆様には申し訳ないのですがなかなか討伐には至れていないということです」
はぁとため息をつきついた。
僕も心の中で大きく息を吐き、
「すみません。八つ当たりのようなことを言ってしまって。謝罪いたします」
「いえ、お気になさらず。我々がふがいないのも事実なので」
「いえ、そんなことは……」
僕にはあいまいな返事しかできなかった。
僕は身内を殺されてるけど、その原因を国に問うつもりはもうないし、かといって国の対応に怒りを覚える人の気持ちもわかる。
人は怒りの矛先を姿かたちが見えないものにはぶつけにくいのだ。
やはり悪いのはあいつらだ。
僕は静かに奴らの恐怖に打ち勝つのだと心に誓った。
「と・こ・ろ・で、空気が重くなりそうなので話題を変えますが!」
「あ、はっ、はい!」
メリアが話題を変える。
強引だけど僕もなんて言っていいかわからなかったから助かった。
「こういうことがあるかもしれないのでやっぱり護衛させてください。お願いします」
そう言って頭を下げてきた。
当然僕に否やはない。
「そのお申し出、ありがたく」
僕がそう言うとメリアはニッコリ笑って続けた。
「では今日からよろしくお願いします!そうと決まればお部屋は隣に変えてもらいましょう。店主に交渉してきますね。あ、お部屋はどちらです?」
別に部屋は隣にしなくてもよくない?よくないか。
襲撃とかあったら守ってもらえるのかな?
情けないけどさっきの感じだと僕なんか足手まといにしかならない気がする。
「えーと、階段を上ったら左に曲がって、まっすぐ一番奥まで行った右手が僕の部屋です」
「あ、じゃあ隣ですね!」
そう言って彼女は再び椅子に腰かける。
そこで気が付く。
「そういえば自己紹介もお礼もまだでした。すみません。僕はタキンチ村のレイ。先ほどは助けていただいてありがとうございました」
そう言うと彼女は破顔して、
「どういたしまして!あたしが巻き込んじゃった気もしますけどねー」
そう言った。
その、こぼれるような笑顔を見て緊張が解けたのか、僕はあることを思い出したのだった。




