第10話 ラト村は静かにざわめいて
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今僕が向かっているのはラト村。
スリリース領の西に位置するビッシポン領内にある村で、タキンチからは王都への街道を進んで3つ目の村だ。
旅自体が初めてだから、立ち寄った村以外はほぼ初見。聞くところによると、この村は果実の酒が名物らしい。
……まぁ僕はまだ飲めないんだけどさ。
他にはそんなに珍しいものもないらしいけど、他に何か楽しめるものがあるといいんだけど……。
旅の楽しみといえば食べ物――元日本人としてはそこが外せない。
幼馴染の芽結とのデートも、まずランチを決めてから遊ぶ場所を探す、なんて流れだったし。
……って、また思い出したら暗くなっちゃった。
芽結とは、前世で“死に別れた”。
記憶が戻った時、親にもう会えないことよりもよっぽど堪えた。
こっちの両親のこともちゃんと好きだったから幾分薄れたのかも。
ああ!また暗くなっちゃった!
とりあえず深呼吸深呼吸。すーーーはーーー。
えーとたしか……あぁ!そうそう!食べ物ね。食べ物。
そういえばこちらの世界はやっぱりと言うかなんと言うか、食べ物がそんなに美味しくないんだよね。
海外に行ったことはなかったけど、日本のご飯がどれだけ美味しかったを、この世界に来てから嫌と言うほど思い知らされた。
野菜の味、お肉の味だけでも全然違うんだよ。
耐えられなくなった僕が前世の知識を使って調味料をいくつか再現したのは言うまでもない。
調味料で味を誤魔化すというかなんというか。
でも当然と言えば当然だけど日本で売っていた市販の調味料には及びもしなかった。
本当に農家さんや企業の努力ってすごいんだなってめっちゃ思ったね。
そんなわけで食の楽しみがないとなるとどうしたもんかな……と考えていたわけですよ。
で、こんなこと思っている間にラト村に着いてしまった。
まずは宿屋探し……なんだけど、あれ?どこ?
中央通りを一周しても全然見つからない。
結局30分ほど彷徨って奥のほうでようやく発見。
いや、こんな奥ぅーーの方にあるなんてわからんわ!
サ亭。……なにその名前。
中に入ってチェックインする。
ファンタジーでよく見る一階が食堂で二階に部屋があるタイプだ。
まだ明るいが夕方だからかもう飲んでいる人たちがいる。
部屋の鍵を受け取り二階に上がる。
階段を上ったら左に曲がり、まっすぐ一番奥まで。
その右手が僕の部屋だ。
歩いて思ったけど、この規模の村にしては割と部屋数が多いし、そもそも建物が新しい。
何か理由があるのかな?
散策に向かう前に宿屋のおやじさんに聞いてみようかな?ついでに観光できそうな場所も。
部屋に入ると正面には所謂ロンデル窓と呼ばれるタイプの窓。
その下にはサイドテーブルがあり、隣にベッド。反対側には服かけがある。
とてもシンプルで……うん、特徴のな……洗練された部屋だ。
とりあえずローブは脱いで服かけに渡す。
よしじゃあ親父さんに声をかけて散策に出かけよう!
というわけでヘイ親父!観光できそうなところ教えてくんない?
あ、実際は礼を失した聞き方はしてないよ?
ちゃんと銅貨も数枚渡してるしね。
で、親父さんに話を聞いて分かったことをまとめると、
数年前より行商人がこの村を通過するようになった(時期や方角的にタキンチの行商人が増えたのと関係していそうだ)。
行商人の数はそれほど多かったわけでもなかったが、滞在していた一人の行商人がこの村のいちごのリキュールに目を付けた。
王都で『初心者や女性でも飲みやすい甘いお酒』として人気が出る。
お酒目当てで行商人が集まるようになる。
そしてそれに対応するために元々なかった宿屋を作ろうってなったけど、中央通り付近に空いている土地などあるわけもなく、仕方なく空いているここに宿屋を作ることになったそうな。
ちなみにもう一つ、こことは対角線上に宿屋があるとのこと。
なるほどなるほどと頷いて、お礼を言って散策に出る。
宿屋を探して中央通りを歩いていた時に、確かに露店多いよなーとは思ってたんだよね。
じゃあ端から見て行こうかな。
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とはいえ、そんなに珍しいものはなかった。
多少買い物はしたけど。
買ったものは以下。
献上用のお酒1本。なぞのドライフルーツ。タキンチで絵を描いてきてと言っていた子用に絵ハガキのようなものがあったのでそれも。
あまり多いとかさばるからこれが限界かな?
王都には配送のサービスがあるらしいので、残りのお土産とかは王都で買おうと思う。
部屋に荷物を置いて鍵をかけ、一階に降りる。
さあ!ディナーターーイム!
今日のディナーはなんじゃろな?
この世界ではおなじみのジャガイモのパンに、塩スープ、それにふかし芋。
以上である。さみしい。てかほぼ芋じゃねーか!
こっちでも地球と同じ食材や料理もあるけど、こっちにしか無いもの、あっちにしかないもの微妙に違っているもの等色々ある。
こっちでは小麦のパンは見たことがない。ていうか小麦は主流じゃない。
なので芋のパンが当たり前なのだ。
せめてなー。バターがあればなー。
バターと芋の相性は抜群!
じゃがいもだけじゃなく、さつまいもとの相性も凄く良い。
アツアツの焼き芋にバターを乗っけて食べてみな。飛ぶぞ。
いつかバターを再現して焼き芋バター食べたい。
……まぁ焼き芋もこの世界にはないんだけどさ。
くっくっく……。
しかし僕には秘蔵品があるのだよ。
じゃじゃーーん!まよねーずー!
油と卵の品質が日本より低いからか日本のほど香り豊かで口当たりなめらかなしつこくなりすぎないマヨは再現できなかったけど、マヨはマヨである。
じゃがいも?さつまいも?どっちもかかってこいや!マヨならいける!マヨなら余裕!
そんなわけで店員さんにヘイプリーズ!
あ、実際には礼を失した(略)
小皿を貸してもらい、ビンからマヨを取り出す。
いやー別に元々マヨラーってわけでもなかったんだけどなー。
環境次第で好き嫌いって変わるのかな?はふはふ。
そんなことを考えながらふかし芋を頬張っている時だった。もぐもぐ。
「離してください!!」
そんな声が聞こえてきた。
なんだろう?なんかあの声……。
それはそうと騒ぎが起きてるようだ。
そんなことを僕は暢気に考えていた。
この時やじ馬をしなければ、味わわなくてよい恐怖を味わうこともなかったとも知らずに。




