第2話 隔絶
正八胞体を讃える儀礼が終わった後に、立ち上げた魔力場を使って次の朗唱に入ります。
立ち上げた魔力場とは?
そもそもこの方程式朗唱は集団儀式魔法の側面が強く、それゆえに連携しないと朗唱はあまりうまくいきません。
失敗するってわけではありませんよ?でもなんか不完全燃焼というか……
ともかく、それを乗り越えて、結束を強めるという意義があるのですが、副作用として個人同士の魔力波形が共鳴・接続されるんです。
結果、魔術の効果が増幅される。これを活かさない手はありません。
なので、このまま次の術式行使へ移る、というわけです。
シルさんの指揮ならば次は換気を行うはずです。準備を進めておきます。
スクロールを持ってきて、壇上に展開。
「それでは、澱んだ気を浄化しましょうか。窓を開放してください」
換気。最近エスピテメ・クラスに堕とした概念で、どうも、普段周りにある空気にも良・不良があるらしく、
空気が澱むことにより、密閉空間で命を落とす事例があるようです。
法術師の目撃者曰く
◇◇
CO2 → O2 + C
◇◇
という記号?模様?を見たらしいのですが、まだ解析中ですね。
じゃあエスピテメ・クラスになっていないのでは?と思いますが、
不明なのはこの記号の意味だけだ、という人とならばまだリーディング・クラスだろうという人で議論が続いている分野です。
あ、理解クラスについて説明しますね。
エスピテメ・クラス:道理・作用機序の理解が済んでいるもの
マナリング・クラス:魔法による再現ができているもの
リーディング・クラス:使うべき場面や使った結果の理解が済んできているもの
ディバイン・クラス:目撃のみされていて全く解明されていないもの
まあ、目撃されてすらいないものは無いものと同じだという感じでこれ以上は設定されていませんね。
「風よ、清浄な空よ、澱んだ風を退け、この場を清廉に還せ。(仮)
はい、皆さんも続けて」
換気の風が吹き抜けるたびに、教会の壁面の数式がわずかに震えた。
「清浄な空気の中に、理性は宿る」──誰かがそう呟いた気がした。
私はその言葉を記録に残す。今日もまた、理解は少しだけ進んだ。
▶そういえば法術師の視点で書いてみるか
登場人物:
CVIY
基底世界に法術を目撃されたことで公安委員会に捕捉、訴訟された法術師
CCP
公安委員会 検察側
(CVIY 拡張脳)
弁護側
黒瀬 遥人
第3広域空間群管理者
中立 裁判官
白洲 響也
視点役
第2広域空間群管理者
傍聴人
その他管理者勢
追記:この視点での登場人物は全員法術師=転生者。
◇◇
日時・場所検閲済み。
一人の法術師の法術漏洩に対する裁判が始まった。
状況。準空間管理者教育中のCVIYが大気圏離脱前に酸素生成ループ術式を基底世界人に目撃された。
業務上必須。焦点は周辺確認不足。ついでに化学式の記録を許していることも争点である。
◇◇
CO2 → O2 + C
◇◇
術式は普遍的な分子構造変換、分子オーダーベクトル干渉。
二酸化炭素の抽出・酸素及び炭素への分解。
ペナルティの有無は五分五分とみる。
法術漏洩は日常でありふれているが、問題は漏洩したジャンル。
気密制御術式の漏洩は初であり、初動には慎重を期したい状況。
それゆえに傍聴人に管理者が勢ぞろいだ。
俺を含めて。
◇◇
黒瀬:
「裁判を開廷する」
CCP:
「とは言っても、この期に及んで記憶処理とかの対応に上位管理者たちが動いていないことからも趨勢は決したも同然ですかね」
CVIY
「……」
黒瀬:
「まあ、そうだなあ。今更どうにもできん」
CCP:
「というより、あえて知識を授ける方針ですか?」
黒瀬:
「ん?、あー?そうかもな」
白瀬:
「発言していいか?」
黒瀬:
「ああ、いいぞ」
白瀬:
「まあ、現状の俺らの方針は"自然な進歩を促進する"だ。
問題はこの状況がそれにそぐわうか」
CCP:
「そうです。
結果だけを見られるならまだいいです。
問題は化学式、ないし我々の言語・文字を記録されたことです」
黒瀬:
「まあ、我々がいま議論しているのは、意図の問題だ。
術式が行使された理由が“呼吸”であれば、罪の構成要件は満たさない。
だが──知識の贈与は別だ。」
CCP:
「まさにそこです。
基底世界における“理性の芽”は、未だ閉じたままである。
そこへ神秘の式を与える行為は、発芽を強制するようなものだ。
自然な進歩ではなく、“外部刺激”による進化誘導です。」
(静寂)
CVIY:
「質問してもいいですか。」
黒瀬:
「許可する。」
CVIY:
「“発芽”を阻むのは、土か、種か。
我々が撒いたのは式ではなく、概念の影にすぎません。
彼らがそれを芽と思うなら──それは彼らの自由意志です。」
(会場にわずかなざわめき。だが誰も声を出さない。)
拡張脳:
「補足します。
本件はCVIYの意識内における自律判断の結果であり、
周辺観測者への干渉は生理的必然とみなせます。
つまり、“事故”です。
人が息を吐いたことを罪とするのか、という問題です。」
白洲(心の声):
──事故。だがその呼吸は、空気を作る呼吸だった。
CCP:
「……そうして、神秘を事故と呼ぶ。
だからこそ、私たちは監視をやめられないんです。」
黒瀬:
「言葉遊びはやめよう。
だが確かに、“息”と“創造”を同義に扱うのは、我々だけだ。」
(黒瀬は小さく息をつく。)
黒瀬:
「判決。
本件を“非懲罰的過失”とする。
教育的指導および監視期間の延長。
再発防止のため、準空間管理課程の再履修を命ずる。」
CCP:
「異議なし。」
CVIY:
「了解しました。」
黒瀬:
「では閉廷する。
……白洲、記録を取っておけ。」
白洲:
「ああ。」
(立ち上がる。無音の法廷。
天井を走る空間接続線がひとつ、静かに消灯した。)




