第1話 朗唱
「我ら神秘を解し明るめ、先進技術へと還す者」
壇上で、初老の男性──否、この地域のADRI執行官(Exe)──が声を張り上げる。
続いてこの空間、集積教会に集う地域住民が一糸乱れずキーフレーズを言祝ぐ。
一人当たりの声量はそこまでなくとも、声を揃えればまあまあの声量だ。
傍らにいる一人の少女が耐えきれないというように表情を歪める。
◇◇
私は、ADRI構成員、観測官(Obs)、シリア・ドリーレイスです。
先週、記録官(Arc)から昇格したので今日の方程式朗唱から管理委員会として活動します。
このまま解析官(Ana)、執行官(Exe)まで出世したいと思っています。
この管理役はその第一歩ですね。
「では、いつも通りに序曲から斉唱ですね。
シリア君、楽譜の準備を」
そう考えていると、執行官・シルさんから声をかけられました。
法術を解析し、エスピテメ・クラスに堕とした──その原理、道理まで理解したものを慣習的にそう呼びます──術式たちを内包した楽譜を用意します。
◇◇
using sys
void main:
Vector4[] vertices4D; // 4次元座標
Vector3[] projected3D; // 射影後の座標
List<(int, int)> edges; // 頂点ペア
float t; // 時間蓄積
var[20] edges
Vertices4D(0).Pos 0,0,0
Vertices4D(1).Pos 0,0,1
・・・
◇◇
いつもの朗唱が始まる。教会内の空気が変わる。どこか整然としている肌でだけ感じるいつもの感覚。
(この序曲では我々のシンボル、正八胞体を作っておるのですよ)
観測官になるのだからと昇格する前にシルさんに解説してもらった。その構文の意味はほとんどわかっていない。
今まではただみんなと同じように朗唱して、結束を感じていればよかったけれど、これからはそうも言えない。
(これから法術師の魔術──神秘に触れる機会が増えるでしょう。それを目で見て解析して、我らの本懐、社会技術への還元に貢献する必要があります)
(今朗唱している術式もそのようにして産み出されたものなのですよ)
(法術師の魔術を模倣し、理解し、改良……いや、改悪ですかね?をして……)
(エスピテメ・クラスに堕としこんだ)
(不完全な理解にとどまる我らを、法術師たちはどう思っているのでしょうね。
勝手に魔術を模倣しているくせに、再現しきれていない、不完全な我らを)
(いつか、法術師たちと対等に議論したい、魔術を構築してみたいものです)
いつか来るその光景のために知識を集約する。そのために行動している。私はそれに誇りを持っている。否定はさせない。
「我ら神秘を解し明るめ、先進技術へと還す者」
「神の奇蹟を暴く」
ADRIの最終目的、それを改めて意識にしまい込む。
◇◇
loop i=0 to 15
Projection Vertices(i).Pos method Is Light_Sphire
Next i
Calcuration All i
◇◇
教会内にいくつかの……まあ16個、とは知っているけれど、光球が現れる。
熱を持たず星のように瞬いて、朗唱は次の段階へ進む。
◇◇
loop (a,b) in Edges
Projection Vertices(a), Vertices(b) .Pos method Is Light_Line
Next i
Calcuration All i
◇◇
さっきの光が線でつながって、動き出す。
光球がつながり、八つの面が浮かび上がる。
それは私たちが崇める「理性の結晶」、正八胞体。
光の多面体がゆっくりと回転し、教会の壁面に映った影が静かに歪む。
その影こそ、神秘を暴くための祈りの形。
「Update:
t += Time.deltaTime * 0.5f
main
End Update
ResumePlay
……讃えよ、我らの世界に堕とした我らの象徴、正八胞体を!」
▶補足
構文ぽいのについて
C#っぽい異世界の魔術スクリプトを意識した仮の構文です
method Isで術式・魔法の名前を指定したり
Calcurationで明示的なコード処理の再生(ステップイン?)
とか変なの入れてるし
多分ここで執行官がデバッグしてる。
Q・一回スクリプトを作れば保存して呼び出しできるだろ TesseractRenderer()とかにして
A・儀礼的にわざわざ一回一回スクリプトを構築するのが方程式朗唱の意義です




