第60話 すすり泣く声
「それじゃ、また何かあったらよろしくお願いします」
「おう! またいいのが出来たら頼むよ嬢ちゃん!」
「では失礼します……」
お辞儀をし、俺たちは工場を後にした。
「なんだよ、話しただけじゃねぇか……」
工場を離れた後、つい俺はそう呟いた。
「バーカ、こういうコミュニケーションが大事なんだよ、向こうがこっちに好感を持ってくれればまた商品を買ってくれるし、こっちもいい商品が買える、それが営業なんだよ」
「そりゃ分かるけどよ……」
これを数十回続けるのか……結構キツイな。
「……っとすまん、電話だ……あーちょっと長くなりそうだな、すまんが先に行ってくれ、次行くのはスプレー缶の工場だ」
「あぁ、先行ってるよ」
「あぁ待て! 日傘をよこせ、お前が持っててもしょうがないだろう」
「あぁ、そうだな、ほい、そんじゃ」
「また向こうでな……はい、お電話ありがとうございます、zAI代表取締役の鏡です、いつもお世話になっております……」
社長さんは道路の端で電話を始め、俺は次の目的地のスプレー缶の工場へと歩き始めた。
にしてもこの辺の風景、凄い新鮮だな、同じような建物ばかりなのだが、それぞれ違うものを製造している。
機械のボルトやネジ、車の部品、そして俺がこれから向かうスプレー缶……
この辺の工場のおかげでこの国の経済は陰から支えられているのであろう、まぁ、長話は勘弁願いたいが……
「ごめんくださーい……」
・……声を掛けてみたが、人っ子一人出てこない……というか、この工場稼働してんのか?
「……あれ? 誰もいない? すみませーん!」
返事が一向に来ないので、俺は失礼ながら足を踏み入れた。
しかし、やはり工場は稼働している様子がない……もしかしてお休みか?
あるいは同じような見た目の工場だから間違えたとか?……ど、どうしよう? も、もしもそうなら、工場の人が来たら飛び入り営業ってことで……
「……ひっく……ひっく」
……ん? これは……誰か泣いてる?
そうだ、こういう時こそ……
「グローディ、なんかすすり泣く声が聞こえるんだけど、どの辺から聞こえるか分かる?」
『ただいま特定中です……声調は女性と推測、年齢は10代』
「10代?」
女性で10代……もしかして作業員の人か?
『方角は北北東、5メートル以内です』
「北北東……」
というと……こっちか?
言われた通りの方角に進んでいくと、確かにすすり泣く声が大きくなっていく。
あの機械の裏か?
もしも作業中だったらなんて言おうか……と、そんな事を考えながらのぞき込むと……
「……え?」
「ひっく……」
……そこには、ミオちゃんが体育座りで泣いていた。




