第57話 営業へ
朝食も食べ終わり、俺は部屋に戻ってスーツに着替えた。
なんでも、社長さんが「私の営業を見て勉強しろ」と言うもんで、出る羽目になってしまった。
最初こそ洞窟の浄化の仕事一本でやるもんだと思っていたが、「給料分の仕事はしろ」と言われてしまい、なくなく着替えたわけだ。
ちなみに時刻は朝10:00、あと数時間でお昼の時間だ。
社長さん曰く「お昼前のギリギリ忙しくない時間」「お昼後の数時間の落ち着いている時間」がチャンスなんだと。
「準備できたか?」
「あぁ」
社長さんも正装……とまでは言わないが、そこまでガジュアルではない服装に着替えていた。
「よし、それじゃ、最寄り駅まで歩くぞ」
「おいおい、車は?」
「言ったろ? この辺は地下鉄の方が便利だ、渋滞に巻き込まれてタイムロスするのはごめんだ」
「うーん…‥ならせめてバスとか……」
「馬鹿、駅まで徒歩10分だぞ? バス代に数百円も使えるかって、それにバスだって車の一種だし、渋滞や信号待ちを考慮しても歩くのとさして変わらん、あとここからバス停まで徒歩5分だし、そこからバス待ってたらそれこそタイムロスだ、ちょっとした運動だと思え、少しは運動しろ、小僧」
「……わかったよ」
社長さんの圧に負け、俺は渋々受け入れた。
革靴に足を入れ、社長さんも可愛らしいローファーに足を入れ、日傘を持った。
「おいトム」
「今度はなんだよ…‥」
「ん」
社長さんは、己の武器とも言える日傘を差し出した。
「なんだよ、俺にこれを使って戦えと? あんたここが洞窟とでも思ってんのか? しっかしろ、ここはあんたのご立派過ぎる家だぞ」
「バーカ、日傘を差せって意味だよ、私は見ての通り色白で日光が天敵なんだよ……お前のほうが背が高いだろ? 話すとき日傘が壁になったら邪魔だろうが」
しょうがねぇな、確かに社長さんが日光で体調不良を起こしたら大変だし、やってやるか。
「……はいはい、じゃあ日傘くれよ」
「はいは一回!」
「……はい!!」
全く、こいつは俺の母ちゃんか。
「じゃあジャスミン、トムと出てくるから留守番頼んだぞ、泥棒が入ってきたらお前の拳でぶちのめしてやれ、生死は問わん」
「かしこまりました」
いや、かしこまるな、流石に死はやめてやれ。
「じゃ、行くぞトム」
「はいよ」
日傘を開花させ、社長さんに影を作りながら歩き始めた……




