第56話 信用とカルダモンコーヒー
「ただな、いくら金を持ってても、人の思いってのは買えないものだ」
「そうか? 俺だったら、無条件で1億円くれるって言われたら、死んでもそいつについて行くぞ」
「あのな、いくら無条件だからって簡単にそいつを信じるってのか?」
「まぁ、それは状況によるな」
向こうが明らかにヤクザとかトクリュウみたいな奴だったら流石に受け取れないかも。
「その無条件ってのが表面上で、あとから契約がコロコロ変わるなんてザラだ、今回の場合、ミシェールはこっち側を信用してなかった……金で信用は買えない、買えるとしたら……それは向こうの一時の気持ちだけだ」
「……なるほど、信用か」
前の会社でも部長に言われてたな、「レーションが一部腐っていた、銃弾数十発の中で一発だけ空っぽだった、それだけで信用が落ちて買ってくれなくなる」……昨今でも「回転寿司でキハダマグロがメバチマグロとして売られていた」「不動産仲介業者が消臭サービスを怠って何もしていなかった」「自動車で部品の一部が欠陥していた」それだけで「あんなところの商品なんて買いたくない」という考えを抱く人は大勢いる。
そう考えると、いくら金でメディアを買収したり、商品の価格を安くしたところで、誰も買いたくは無いだろう。
「ま、私が投資した資格がミシェールの役に立ってくれるのであれば、私はそれでいい……今のところはな」
社長さんの表情はよく見ると、少々納得していないようだった、しかし、なんとか納得しようと自分を言い聞かせている……のかもしれない。
社長さん、見た目の割に結構大人だな、俺も見習わないとな……
「お待たせしました、常盤様、コーヒーでございます」
「あぁ、ありがとうございます」
ジャスミンさんがコーヒーを持ってきてくれた。
ブラックかぁ……砂糖と牛乳入れてくれって言えばよかったな……正直ブラックコーヒーは苦手なんだが……作って来てくれたんだし、いただくか。
さぁて味は……
「……んん!?」
なんだこれ……めっちゃくっちゃ苦い!?
普通のブラックでもこんな苦くないぞ!?
思わずむせてしまった……
「ケホケホ……なんだこれ……」
情けなく、俺は涙目になる……ふとジャスミンさんを見ると、まるでしてやったかのように嘲笑っていた。
「どうです? 私特性のカルダモンコーヒーの味は? 目が覚めたでしょう?」
そりゃこんなめちゃくちゃ苦いコーヒー飲んだら目が覚めるわ! なんだよこれ!
「なんだトム、その姿! 滑稽だな!」
社長さんも指を差して俺を嘲笑い始めた……
「起きた瞬間から元気がないと思いまして、カルダモンのスパイスで元気になればな、と」
「あはは、そりゃいいな! どうだトム? 元気になれたか?」
「それとも、常盤様の子どものような舌ではお口に合わなかったですかね? ふふふ……」
こ、こいつら……コケにしやがって……
子ども舌だと? 俺はもう20もとっくに過ぎてんだ、これぐらい余裕……
「……にっが!!」




