第52話 引っ越しの準備
……それからまた数週間。
「……よし」
部屋の中はほぼもぬけの殻、最初にこの部屋に来た時とほぼ同じ風景だ。
まるでそこに何もなかったかのようで、声を発すれば反射して至る所に響き渡りそうだ。
「それにしても、ちょっと寂しい気持ちもあるな」
仕事も先輩に押し付け……ならぬ、引き継がせたし、もう思い残す事はない。
「やりたい事を見つけたので辞める」ということを部長に伝えると、部長は「ようやっと見つけたか」と言いたげな表情で「そうか」と一言言ってくれた。
「……で、社長さんはいつになったら来るのやら」
実は本来、引っ越しする必要はないんだが、社長さんが「住居手当出したくないから私の家に来い」とかなんとか言ってきやがって、引っ越しする羽目になってしまった、最初は遠慮したが「我が家を社宅扱いにした方が税金が浮くからそっちの方が助かる」とかなんとか言ってきて、そこまでケチるのかと感心してしまった。
ただ代わりに「引っ越しに掛かる費用はすべて出してやる」とか言ってくれたし、社長さんの家ってめちゃくちゃ広いから快適だし、ちょっと欲望を言ってしまうと女性だらけの家に住めるってのは悪くない……
とまぁ、そんなわけで、社長さんが「業者を呼ぶと金掛かるから私の車で運んでやる」とか言って、連絡をずっと待っているんだが……
……おや?
『グローディネットワークより電話です、鏡ルカ様からです』
「電話だ……やっとか」
グローディの携帯から着信が来た、社長さんやっとか。
「もしもし? 社長さんか?」
『あぁ、トム、すまん、渋滞してたもんで時間が掛かっちまった、今お前のマンションの前にいるぞ』
「前? どういう車だ? まさか前のピンク色のやつか?」
『あぁそれじゃない、そうだなぁ……車っていうよりトラックだな、外出てみろ』
「外?」
電話を繋げながら玄関を開け、下を見て見ると……
「トムー!! ここだー!!」
「げっ……あれか!?」
社長さんが電話を片手に窓を開けて手を振っている……しかもその乗っている車両がすごい目立つ。
社長さんの言う通りトラックなんだが、よく繁華街で見かける中毒性のある歌を流す広告トラックみたいな蛍光色のカラーリング、そしてコンテナにはデカデカと「株式会社zAI」と書かれていた。
おいおいおい! なんてトラックで来やがるんだあのバカ社長!! クソ目立つし周りの住民からも注目されるだろうが!!
……しゃあねぇ、あまり長居されるとそれはそれで目立つし、さっさと行こう……
トラックに近づくと、社長さんとジャスミンさんが降りて来た。
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