第4章:揺れる影と真実の糸
理科準備室に閉じ込められたまま、梨華と勇輝はひっそりと時を待っていた。外の雨は激しさを増し、時折窓に打ちつける音が静かな部屋に響く。
「勇輝……こんなに狭い場所に二人でいるの、なんだか変な感じね」
梨華は微笑みながらも、心の奥に漠然とした不安を抱えていた。秘密を抱える自分を、こんな風に近くで見られてしまうのは怖かった。
「梨華、俺はお前のこと、何も知らんけど……怖がらんといてや。俺が守るから」
勇輝の言葉には本物の優しさが滲んでいた。だが、彼もまた自分の弱さを隠していた。二人の間に流れる空気は、少しずつ距離を縮めていく。
その時、遠くから校舎の廊下を歩く足音が聞こえた。
「誰か来た……!」
梨華は息をひそめた。だが、扉の鍵は簡単に開くはずもなく、二人はただ祈るしかなかった。
足音は近づき、扉の前で止まった。やがて、ドアの鍵穴に向けて何かが差し込まれた音がした。
「開いた!」
勇輝が急いで扉を開けると、そこには五島真希が立っていた。
「ごめん、遅くなった!ずっと探してたのよ。みんなも心配してる」
「ありがとう、真希。助かったわ」
梨華は安堵の表情を浮かべ、三人は急いで教室へ戻った。
翌日、学校は事件の話題で持ちきりだった。警視庁の刑事、平次勘太警部らが校内に入り込み、調査を開始している。
梨華と勇輝は、事件の真相を知るために自ら動き始める決意を固めていた。梨華は恥ずかしい過去の秘密が心の片隅でうごめきながらも、勇輝との絆がそれを少しずつ溶かしていくのを感じていた。
「勇輝、私……昔、空手の大会で負けてから、ずっと心に引っかかってることがあるの」
梨華はためらいながらも、勇輝に打ち明け始めた。
「それは……?」
梨華は顔を赤らめ、深いため息をつく。
「大会の前夜に、私が密かに着ていた特別な道着……それは、みんなに見せられない恥ずかしい柄で……。誰にも言えなかったの」
勇輝は優しく梨華の手を握りしめた。
「そんなこと、俺は関係あらへん。お前のこと、そのまま好きや」
梨華の瞳に涙があふれ、二人はそっと抱き合った。
しかし、事件はそれだけでは終わらなかった。
平次警部は解剖医の小鳥祐介から新たな報告を受けていた。
「死因は窒息死だが、死体には不可解な痕跡が残っている。普通の殺人事件ではない可能性が高い」
「何か手がかりは?」
「被害者のポケットから、謎の手紙が出てきた。『薄紅の花が咲く夜に』とだけ書かれている」
平次は険しい表情で言った。
「これは、ただの殺人事件ではない。背後にもっと深い闇があると考えねばならん」
放課後、梨華と勇輝は校庭の薄紅色の桜の木の下で再び話し合った。
「『薄紅の花が咲く夜に』……これが事件の鍵かもしれない」
勇輝は拳を握り締めた。
「でも、何を意味してるのか……?」
「私の母も、昔この学園に関わっていた。もしかしたら、この謎も母と関係があるかもしれない」
梨華の言葉に勇輝は力強くうなずいた。
「二人で真実を掴もう。お前の秘密も、過去も、全部俺が背負う」
その誓いが、薄紅の花びらのように二人の心に静かに落ちていった。