第1章:転校生、春の嵐
千代田学園、二年C組。
新学期初日、教室の窓から差し込む春の日差しが、白井梨華の髪にやわらかい光を投げかけていた。始業のチャイムが鳴り終わる直前、担任の森田が転校生を伴って教室に現れた。
「今日からこのクラスに新しい仲間が加わります。真壁勇輝くん、大阪から転校してきました」
静まり返った教室に、少しだけ関西訛りのある声が響く。
「真壁勇輝です。よろしゅう頼みます」
その瞬間、教室にざわめきが走った。物珍しさからくる好奇心、遠くから来た転校生への軽い期待。だが、梨華の瞳だけは冷静だった。
──この人、どこか……変わってる。
理由はない。ただ、目が合った瞬間にそう感じた。
「真壁くんは後ろの席、白井の隣だな」
森田の声で、勇輝は小さくうなずき、梨華の隣に腰を下ろす。
「白井さん、よろしくな」
にこっと笑って差し出された手を、梨華はほんの一瞬ためらってから、軽く握り返した。
その日、午前中の授業は落ち着かないまま過ぎていった。
昼休み。
クラスメイトの朝倉みなと江戸ノ湖南が、勇輝に興味津々で話しかけていた。
「大阪ってホンマに粉もんばっか食べてるん?」
「それより、彼女とかいるの?」
「いてへんて。そないなもん、東京来たばっかやのに」
勇輝は笑いながら受け答えし、すぐにクラスに馴染んでいった。その自然さに、梨華は少しだけ驚いていた。
だが放課後、事件は突然起きた。
校舎裏手の用具倉庫。悲鳴が響き、教師たちが駆けつける中、第一発見者である女子生徒──朝倉みなが、顔を青ざめさせていた。
「せ、先生……し、死体が……あ、あの……!」
みなのスカートが濡れ、大きな染みが見えた。
恐怖で、彼女は──その場で失禁していた。
死体発見と人気No.1女子みながお漏らししたことで騒然となる学園。
そして、そこに居合わせた真壁勇輝と白井梨華。
ふたりの視線が、静かに交わった。
──これが、すべての始まりだった。