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エピローグ:薄紅にほどけた未来

夏が終わり、風の匂いがほんの少し秋を含んでいた。七月のあの日から、もうすぐひと月が経とうとしている。


東京の空は、どこまでも高く青い。


都内某所の一室。白川家の居間には、かすかな風鈴の音が鳴っていた。窓辺のカーテンが優しく揺れている。その音に紛れるように、梨華の指がノートパソコンのキーを打つ音が続く。


画面には、法務省からの文書と、民間記者とのメールが映っていた。


「お母さん……ちゃんと伝えたよ。あなたが命を懸けて残した真実、もう隠されてない。たくさんの人が知って、たくさんの人が救われた」


梨華は小さく微笑んだ。画面の端には、彼女の論文草案が表示されている。


『公益通報と未成年者の正義意識:白川椿の遺志を継いで』


未来への第一歩だった。


そのとき、玄関の扉が開き、元気な声が響いた。


「梨華、ただいまー!」


勇輝だった。


「おかえり」


彼女は振り向いて笑った。勇輝は小走りで部屋に入り、コンビニ袋を掲げた。


「アイス買ってきた。梨華はバニラだよな?」


「……うん。ありがと」


ふたりはソファに並んで腰かけ、何気ない日常の風景に包まれた。


あの夜、勇輝は梨華の前に立ち、撃たれながらも笑っていた。彼の傷は今も肩に残る。けれど、それを負った代わりに得たものは、何よりも確かな「生きる意味」だった。


「なあ、梨華」


アイスを一口食べた後、勇輝がぽつりと口を開いた。


「この先、何があってもさ、俺はお前の味方だからな。母親のことも、過去のことも、全部ふくめて、梨華だから……俺は愛してんだよ」


梨華の手が、アイスの棒を握ったまま止まった。


「私、あなたに言いたいことがあるの」


ゆっくりと立ち上がり、彼の前に立つ。


「改めて言うね。真壁勇輝──」


そして、彼女は涙をこぼしながら、まっすぐに彼の目を見た。


「白川梨華は、真壁勇輝を愛しています。世界中の誰よりも……」


勇輝の目が、驚きと感動に揺れた。


そして彼は立ち上がり、強く彼女を抱きしめた。


「俺が、梨華をずっと守る」


心臓の音が、互いの鼓動と重なり、優しく共鳴する。世界で一番静かで、世界で一番確かな約束だった。


ふたりは、そのまま長い時間、何も言わずに抱き合っていた。


*  *  *


文化祭の打ち上げでは、クラスの仲間たちがふたりを囲んで盛り上がっていた。


「ロミオとジュリエット、マジで最高やったで!」


「ていうか、あれ完全に本物のキスだったよな!? 羨ましい〜」


「はいはい、そこはスルーで!」


梨華は照れくさそうに笑い、勇輝が肩をすくめて応じた。


真希や佳奈、茉奈、川面陽太、安達ひなた、金太一、江戸ノ湖南、朝倉みな──皆が笑っていた。


暗い事件があったことは、決して忘れない。でも、それを乗り越えた日々が、今こうして「笑い合える未来」に繋がっている。


梨華はその中心にいて、隣にはいつも勇輝がいる。


未来はまだまだ不確かだ。だが、だからこそ──ふたりは手を取り合って歩いていく。


夜明けに咲いた薄紅の花は、今、穏やかな光の中で静かに揺れていた。


【薄紅にほどける謎──完】



【後書き:梨華と勇輝からのメッセージ】

梨華

みなさん、最後まで読んでくれてありがとう。私たちの物語、楽しんでもらえたかな?

私は完璧じゃないし、恥ずかしい過去もある。でもそれが私らしさで、勇輝と一緒に乗り越えてきた。

みんなも、自分の弱さを恐れずに、前を向いてほしい。そんな気持ちを込めて書きました。


勇輝

俺も、ずっと普通の高校生だったけど、梨華と出会って強くなれたと思う。

ミステリーもあったけど、やっぱり大切なのは「人を思いやる気持ち」だって実感したよ。

これからも、梨華を守りながら、みんなの物語もまだまだ続いていく。だから、どうかまた会おうな。


物語はここで終わるけど、僕たちの未来はまだ始まったばかり。

もしまた、あの薄紅色の季節に出会えたら──その時まで、どうか元気でいてほしい。


――『薄紅にほどける謎』、完。そして、またいつか。

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