プロローグ:桜、まだ蕾のままで
【【登場人物】
白井 梨華:2年C組。容姿端麗、成績優秀、空手黒帯。冷静沈着だが、誰にも言えない“恥ずかしい過去”と“ある秘密の格好”を抱えている。
真壁 勇輝:大阪からの転校生。運動神経抜群、学力と容姿は普通だが、天性のひらめきを持つ。優しく、ややスケベ。
平次 勘太警部:警視庁のベテラン刑事。事件の捜査を指揮する。
夏目 みゆき警部補:平次の部下で冷静な女性刑事。
天久 弥生警部:公安出身。過去の事件と関係。
小鳥 祐介:解剖医。梨華の亡き母と因縁あり。
五島 真希:梨華の親友。快活で噂好き。
南 佳奈・南 茉奈:双子の姉妹で梨華の友人。冷静と感情派の対比。
川面 陽太:同級生で梨華に片想いしている。
安達 ひなた、金太一、江戸ノ湖南:勇輝のクラスメイトで友人。
朝倉 みな:遺体を発見してしまう女子生徒。恐怖で失禁してしまう。
学校関係者や地域の住人、主人公の家族など多彩な脇役も登場。
令和六年、春。
東京・千代田区。まだ風に肌寒さを感じる四月初旬。
桜の蕾が膨らみ始めた通学路を、白井梨華は静かに歩いていた。
真新しい千代田学園の制服に袖を通す彼女の姿は、誰の目にも美しかった。整った顔立ちに気品のある立ち居振る舞い。彼女の周囲には、自然と距離が生まれる。まるで近づいてはいけない花のように。
「今年も、新入生が騒がしいわね……」
小さくつぶやいた声には、どこか達観した響きがあった。
二年生になったばかりの梨華は、すでに学園の“誰もが一目置く存在”だった。
しかし──彼女の胸には、誰にも明かせぬ重い秘密が眠っていた。
同じ頃、大阪から一人の少年が上京してきた。
真壁勇輝。スポーツ万能、成績は人並み、容姿も特筆すべきものはない。だが彼には、一度見たものを忘れない観察眼と、常識に縛られない独自のひらめきがあった。
「東京か……案外、寒いな」
大きな荷物を肩に、東京駅のホームで勇輝はつぶやいた。家族の事情で転校が決まり、見知らぬ街での新生活が始まる。その胸には、ほんの少しの不安と、得体の知れぬ期待が混じっていた。
──この春、ふたりの運命が交差する。
始まりは、ひとひらの桜の花が、まだ蕾のまま風に揺れる、そんな季節だった。