第6話『こんなときこそ恋バナ!』
新たな部屋に放り込まれた瞬間、目の前に光の文字が浮かび上がった。
『ボストレント討伐完了、次戦まで残り6:00』
6時間か……。前回の12時間から半分に減ってるじゃねえか。ケチな神様だな……。
「前回より時間が短い! 女子はとりあえず体力回復に努めてくれ。男子は作戦会議だ!」
ナルミがデカい声で指示を出す。もはやリーダーだな。
とりあえず今回の武器っと――あった!
俺が部屋の隅を確認すると、また武器と防具が並んでる。前回と大差ないラインナップだ。剣、盾、槍……お、今回はシルバーのボクシンググローブまであるぞ。しかも古代文字みたいな刺繍入り。いやいや、ファンタジー世界でボクシンググローブって何だよ! 次の部屋は巨大なリングってか!?
「なんで銀のボクシンググローブなんだ?」
ナルミが首をかしげて言う。俺も分からねえよ!
「さあな……でも、今までの流れからすると、次のボス戦の鍵を握るのは間違いないと思う」
「誰が持つかだな……」
「俺に持たせてくれないか?」
声をかけてきたのは、あの壁殴り男"ナオヤ"だった。
「小さい頃からボクシングやってたんだ。ここに来てからも、壁をサンドバッグ代わりに拳を鍛えてたんだ。グローブを使うなら、俺のボクシング技術活かせるかもしれない」
意外な才能持ち。俺、てっきり頭おかしくて殴ってたのかと思ってたわ……狂人じゃなくて良かったぜ。
「おっけーだ! ぶっちゃけ怪力Cの俺が持つ方がいいかと思ったが、技術が必要かもしれないからな。ナオヤに任せるぜ」
ナルミが快諾する。確かに、パンチ力だけじゃなくてテクニックもいるなら、ナオヤが適任か。
「次の敵がどんなのか分からねえけど、とりあえずナオヤに託すぜ」
「ありがとよ!」
ナオヤが早速グローブをはめてシャドーボクシングを始めた。動きがキレッキレだ。さすが経験者。
「なんか特殊な力ある感じするか?」
「今のとこは特に何もねえな。普通のグローブっぽい」
「何だそれ……謎すぎるだろ」
ナルミがふと俺の方を見てくる。
「そういやヒトシ、お前は何かスキルゲットできたのか?」
「ああ。"樹木コントロールB"ってやつだ。ただ、体に力入れても何も起きねえから、多分だけど木がある環境じゃないと意味ないのかも……」
「まぁでも、いずれ役立つ時が来るだろ!」
「だといいんだけどな」
俺は冷静に返したけど、内心ブチギレだ。なんでこんな使えねえスキルなんだよ! 怪力とか氷の息吹みたいにバーン!っと派手に使えるやつくれよ!
「とりあえず、次の敵が何かも分からねえ。今まで通り移動したら、みんなで盾構えて密集だ!」
ナルミがみんなに作戦を伝えた。シンプルイズベストだな。
「次は俺も連携に参加するぜ!」
「じゃあヒトシは後ろで構えてくれ! お前の観察眼あってこその今までのクリアだ。何か気づいたらすぐ言ってくれ!」
ナルミの言葉に、俺は内心ホッとした。戦闘の最前線より、後ろで観察の方が性に合ってるぜ。てか、ナルミってもう完全に指揮官じゃねえか。ただの脳筋方思ってたけど、なんだかんだ頼りになるな。
そして休憩してた女子たちと合流して、みんなでテーブルを囲んでフルーツを食った。リンゴとかバナナとか、普通に美味い。こんな状況でも食える幸せを噛み締める。
ミツキがボソッと呟いた。
「いつまで続くんだろうね……」
他の女子が「なんか少し吹っ切れてたけど、改めて考えるとなんなんだろうね」と返す。
男子の一人が「ほんとだよな……何人も死んじゃったし」と続ける。空気が一気にお通夜みたいになった。
「それでも、なんとかしてかなきゃしょうがねえ! そうだろ!」
ナルミがデカい声でみんなを鼓舞する。コイツのポジティブさ、この絶望だらけの環境で唯一の救いだよな。みんなの顔が少しずつ明るくなる。
「こんな状況だからこそさ、何か面白い話しようよ!」
女子の一人が提案する。いいね、そのノリ!
「じゃあよ。恋バナでもしよーぜ!」
男子の一人がニヤニヤしながら言う。いやいや、急に何だよ!
「流石に恋バナはねえだろ!」
ナオヤがツッコむと、みんなが笑い出した。空気が一気に和む。
「いいじゃん! あっ、でも死んじゃった中に好きな人がいたとかはナシでいこっ!」
女子の一人が付け足すと、みんなが苦笑い。ぶっちゃけ苦笑いするのも不謹慎だったが、確かにそれは地雷だわ。
「じゃあ、この中に好きな人がいるやつ、正直に手を挙げろ!」
男子の一人が煽る。俺はミツキが好きだけど、挙げられるわけねえ……。すると、男子二人と――ミツキが手を挙げた――ファッ!?
「えー! ミツキ、誰が好きなのー?」
女子がキャーキャー騒ぐ中、ミツキが顔を真っ赤にしてモジモジしてる。可愛すぎるだろ……いや、そんなことより、好きな人って誰だよ!?
俺は平静装いつつ、心臓がバクバク。頼む、俺って言ってくれ! いや、言えぇぇええ!!
「な……」
みんなが息を呑んで注目する。
「なっ、な……る……内緒……」
ミツキが顔を伏せた。
女子たちが「内緒かーい!」と笑う中、俺の頭の中はパニック状態になった。今、「なる」って聞こえたぞ!? ナルミか!? ナルミなのか!? クソォォォ!
次の戦闘まで残り1時間。みんな体を休め始める中、ナルミが声をかけてきた。
「もうすぐだな……」
さっきのミツキの件で、俺の中でナルミへのヘイトが溜まってた。
「あぁん!? うるせえ、あっち行けよ!」
「なっ、いきなり何だよ!」
「うるせーちくしょう!」
悔し涙が溢れてきた。そりゃみんなの頼れる筋肉指揮官だもんな、女子はそういう男に惚れるよな! 俺なんかただの平凡な観察員だもんな! 畜生!
苛立ちが収まらないまま時間が近づく。
「じゃあ、今回も移動したら一ヶ所に固まるぞ!」
ナルミの号令と共にカウントがゼロに。時空が歪み、俺たちは新しい部屋に放り出された。
周りには西洋風のお墓がゴロゴロ散らばってる。薄暗い雰囲気の中、部屋の奥にローブを纏った3メートルはある巨大ガイコツが立ってた。アンデッド? スケルトン? 魔法使い? 何だコイツ!?
「よーし、みんな集まれ!」
ナルミの声で、みんなが密集して盾を構える。俺は後ろに陣取り、そのさらに後ろにグローブ装備のナオヤが立つ。
考えられる最善のフォーメーションだ。
「前回みたいに、左右上下どこから来るか分からねえ! 常に注意しろよー!」
「「「おう!」」」
「…レエゥ…◇…ガィィ…#…ミヨァ…」
巨大ガイコツがゴニョゴニョ何か唱え始めた。魔法か!?
次の瞬間、周りのお墓からガイコツやアンデッドがゾロゾロ這い出てきた。数体どころじゃねえ、10体以上は余裕でいるぞ!
「なんだありゃー!!」
男子の一人が叫んだ。
やべえ……まさかの団体戦ってか!?
ナルミがキッと前を見据えた。
「くっ、どうする!?」
敵が一匹じゃねないのは予想外だった。それでも生き残るためにはなんとかしなきゃならない。覚悟を決めろ俺!
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