第5話『全力のギコギコ』
土と草に覆われた地面に放り出された瞬間、目の前にデカい木のモンスターがうねうね動いてるのが見えた。多分トレントってやつだ。見た目がキモいのは毎回のお約束かよ。
俺はノコギリを握り締め、再度気合いを入れた。
「みんな、盾構えて密集しろ! 前回みたいに突っ込むぞ!」
ナルミが大声で号令をかける。薄々気がついていたが、コイツ脳筋なのに指揮官の才能ありすぎだろ……。
ミツキが盾を持って密集に加わろうとした瞬間、俺は慌てて呼び止めた。
「ミツキ、作戦があるから、お前は俺のそばにいてくれ!」
ナルミがチラッとこっちを見て、ニヤリと笑った。
「ミツキ、ヒトシには何か企みがあるみたいだ」
「うん……分かった」
ミツキが小さく頷いて俺の横に並ぶ。よし、これで配置はバッチリだ。
ナルミ率いる盾の集団が、トレントに向かって突進していく。俺とミツキは少し後方でタイミングを計る――と、その瞬間。
ズガッ!
地面から木の根が飛び出し、ナルミたちを下から豪快にぶっ飛ばした。盾ごと宙を舞う姿がまるでボウリングのピンみたいだ。
さらに地面から何本もの木が触手みたいに伸びてきて、その内の三人をガッチリ捕まえた。「ぐふっ!」「ぐああ!」捕まった奴らが苦しそうに叫んでる。
「ちくしょう!」
ナルミが怪力Cのパワーで一本の木をこじ開け、一人を助け出す。さすが我らが筋肉番長! でも、残りの二人は――
ズブッ! グシャ!
木の先端が二人の口から入り、腹を突き破った。内臓が地面にドロリと落ち、一瞬で息絶えた二人を見て背筋が凍る。高校生ながらホルモンやあん肝などの珍味が好きな俺でも、流石に見るに耐えない……。だが、今は目を背けてる場合じゃない。
「ミツキ! 地面を凍らせろ!」
俺が叫ぶと、ミツキが慌てて手を伸ばした。
「やああ!」
シュバッ!
氷の息吹が地面を覆い、土と草が一瞬でカッチカチに凍った。よし、地中からの攻撃はこれで対処できただろ。
「ナイスアイデア!」
ナルミが爽やかな笑顔で叫んだが、正直よそ見しないでほしい。俺はそんなことを思いながらミツキの方を見ると、魔法の反動で顔色が真っ白になってフラついてる。非常にまずい。ミツキにはまだ役割がある。
「ミツキ、あともう少しだけ頑張ってくれ! お前ならいける!」
「う……うん、頑張る!」
「地面からの攻撃はこれで封じた。もう一度突撃するぞ。作戦はこうだ――」
ナルミがみんなに活を入れつつ、新たな作戦を伝えていた。よし、仕切り直しだ。
盾の集団が再びトレントに突っ込む。正面、頭上、左右から木の鞭がビュンビュン飛んでくるが、みんなで盾を固めてなんとかしのぐ。ナルミは剣を振り回して応戦してる。
その背後で、俺とミツキがジワジワ接近。トレントの目の前まで来た瞬間、奴がギシギシ動き出した。
「ミツキ、下半身を凍らせろ!」
「やああっ!」
ミツキが氷の息吹を放ち、トレントの下半身がガチガチに固まる。が、奴は木の鞭をムチみたいにしならせて、ナルミたちをまたしても吹っ飛ばした。
こいつら毎回鞭みたいな攻撃で飛ばされてる気がするな……。
その隙に俺はトレントの背後に回り込んでた。ノコギリの歯を奴の幹にガッツリ突き刺して――
「ナルミー!」
俺は喉から血が出そうな勢いで叫ぶ。遠くでナルミが「うおおおお!」と野獣みたいな咆哮を上げて駆け出す。トレントが木の鞭でナルミを狙うが、みんなが盾で必死にカバー。けど、次々と弾き飛ばされていく。
なんとかナルミが俺のとこにたどり着いた瞬間、俺は指示を伝えた。
「俺の手に手を重ねて、全力でギコギコしろ!」
「は!? 俺が直接やった方が早くねえか!?」
「バーカ、それだと報酬のスキルがお前に行っちまうだろ! 一人に集中させると、スキル持ちが死んだら一巻の終わりだ。役割分けて協力しないと、これから先キツくなるぞ!」
ナルミが一瞬ポカンとして、すぐニッコリ笑った。
「お前、頭いいな。了解した!」
ナルミが俺の手にゴツい手を重ね、二人でノコギリをギコギコやり始める。トレントが「ゴオオォオオォオオ!!」とデカい声で喚く。
その声に重なるかのように俺も叫ぶ。
「痛でえええぇえぇえぇええ!!」
怪力Cの効果でナルミの握力が半端ない。手が握り潰されそうだ。
「だっ、大丈夫かヒトシ!?」
「い"い"がら黙っで切れえぇええ!」
苦しんでいるトレントは、俺たちに木の鞭を振り下ろそうとするが、みんなが駆けつけて盾でガードしてくれた。だんだんと連携が取れてきている。
だが、あと少しで切れるって時――
ズシャッ!
トレントの鞭が盾の隙間を抜け、ナルミの胸部をブッ刺した。
「グハッ!」
「ナルミ、大丈夫か!?」
「平気だ……このまま行くぞ!」
胸部から血をダラダラ流しながら言うナルミ。お前はモンスターよりタフガイだぜ。
「「うおおおおおおおお!」」
俺とナルミが最後の力を振り絞ってノコギリを引く。幹がバキバキッと音を立てて、真っ二つに裂けた。
ドオオォン!
トレントの上部が地面に滑り落ちて動かなくなった。勝った……のか?
その瞬間、目の前に光の文字が浮かんだ。
『討伐報酬:樹木コントロールB』
やったぜ! 俺が討伐した扱いってことは、武器でトドメをさした場合は、その武器を直接持っていたやつが報酬を貰えるみたいだな。
「やったー!」
みんなが歓声を上げる。が、俺の目に入ったのは胸にデカい穴が空いたナルミ。血がドバドバ流れてて、みんなが「うわああ!」と泣き叫ぶ。
「俺は……ここまでだ。あとは頼むぜ、ヒトシ」
「ふっ、ふざけんな! 休憩ルームに入れば傷は治るだろ! 死ななきゃなんとかなる!」
俺が叫ぶと、みんなでナルミを抱えて扉の前にダッシュ。次の瞬間、ギイィィ……とデカい扉が開くと、新たな部屋に急いで入る――頼むナルミ、生きててくれ!
***
「いやー、マジで死ぬかと思ったぜ!」
ナルミが胸をさすりながらケラケラ笑ってる。傷がキレイに消えてる! 良かった、マジで良かったぜ……。
「生きてて良かったよぉ!」
みんなが涙目で喜ぶ中、俺はナルミにドヤ顔で手を差し出した。
バチン!
「痛ぁ!」
「ははっ! つい本気出ちまった!」
「加減しろよな脳筋野郎!」
みんながクスクス笑う。けど、また二人死んじまった。残り13人か。
一体いつまで続くんだ……
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