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第4話『カレーとノコギリ』

 



 扉をくぐった瞬間、目の前に広がったのはまたしてもゲームじみた部屋だった。高い天井、広々とした空間――前回よりもほんの少しだけど豪華になってね?


 そして前回と同じで空中に光の文字が浮かび上がった。『ボスアイスリザード討伐完了、次戦まで残り12:00』だってさ。12時間!? 前回の3時間に比べりゃ随分と太っ腹だな、オイ。


「よし、今回は時間たっぷりあるし、とりあえず各々休もうぜ」


 ナルミがそう言って、肩の力を抜くように大きく息を吐いた。さすが脳筋、切り替え早いな。オレなんかまだ、トカゲの白い息で吹っ飛んだ時の背中の痛みが残って……ん? ないぞ?


「ねえ、お風呂入りたいなぁ……」


 オレは痛みが消えてることに疑問を感じたが、女子のお風呂発言に思考を持ってかれた。

 そして他の女子が「ワタシも!」「賛成!」と一気に乗っかってくる。そりゃまあ、血と汗とトカゲの臭いにまみれた体には、お風呂は魅力的だよな。オレも後で入ろう……。


 女子たちがぞろぞろとシャワールームに消えていく中、オレたち男子は自然と集まって会議を始めた。


「そういやさ、前回の部屋でゲットした武器や防具、全部消えてるな」


 ナルミが首をかしげながら言う。確かに、オレの手元にも剣も盾も何もない。言われるまで気がつかなかったわ。


「んじゃあ、ナルミのあの"怪力C"ってのはどうなんだよ」


 オレが半信半疑で聞くと、ナルミはニヤリと笑ってテーブルの上のメロンを手に取った。そして――


 バキッ!


 一瞬でメロンがグシャッと握り潰された。汁が飛び散ってオレの顔にかかる。勿体ねぇ……。


「残ってるみたいだな」


 ナルミがドヤ顔で言う。いや、残ってるのは分かったけど、メロンで証明すんなよ! オレは顔にかかったメロン汁を舐めた。うめぇ。


 まぁ、これで一つ分かった。前回の部屋で手に入れた武器や防具は引き継げないけど、スキルは持ち越せるってことだ。討伐報酬のシステム、ちょっとずつ見えてきたな。


 その時、女子たちが風呂から上がってきた。湯気をまとったミツキがこっちに近づいてくるのを見て、オレは思わず彼女の胸元を凝視……じゃなくて腕に目をやった。やっぱり、あの赤い水晶の腕輪は消えてる。


「ミツキ、そういや腕輪なくなってるな」


「え? あ、ほんとだ! いつの間に……」


 ミツキが目を丸くする。


「なあ、ミツキ。トカゲ倒した時、スキルゲットみたいな表示出なかったか?」


「あ……そういえば、"討伐報酬:氷の息吹C"って出たよ」


「マジ!? じゃあ試しに、あの腕輪の時みたく壁に向かって手に力入れてみて!」


 ミツキが頷き、「やっ!」という掛け声と共に手を伸ばすと――シュバッ! トカゲの白い息そっくりな冷気が壁に直撃した。壁が一瞬で凍りついて、キラキラ光ってる。


「すげえええ!」


 周りのクラスメイトが一斉に歓声を上げる。オレも内心「おおお!」ってなったけど、恥ずかしいから平静を装った。


 なるほど、こうやってスキルを集めていくのか。ボスを倒すたびに誰かが報酬を得て、少しずつ強くなる仕組みだな。みんなにスキルを分散させるか、数人をガチガチに強化するべきか……実際そんな考えてる余裕ねえだろうけど、と内心でブツブツ考える。


「ヒトシ、見てみろ! また武器と防具があったぞ!」


 ナルミが興奮気味に言う。確かに、部屋の隅に新しい装備が並んでる。前回のよりちょっと頑丈そうで、頼りになりそうだ。その中に、一つだけ目立つアイテムがあった――禍々しい巨大なノコギリだ。ギザギザの刃が不気味に光ってる。


「前回は炎の腕輪の後に氷系のトカゲが出た。ってことは、このノコギリ、次のモンスターの攻略キーなんじゃねえか?」


 オレがそう呟くと、みんなが「おお!」って顔でこっちを見た。ノコギリってことは、ギコギコする系か。となると、パワー担当のナルミに持たせるのがベストか? でも、それだとスキルがナルミに集中しちまう。うーん、悩ましいぜ。


 そんなことを考えていると、女子たちの声が聞こえてきた。


「見てみてー! ジャガイモとかニンジンとか色々あるよー!」


「カレーのルーもある!」


 女子たちがキッチンに集まって、楽しげに料理を始めていた。


「ウチ、包丁使ったことないんだよね……包丁より先に剣を使うことになるなんてさ」


「ワタシ教えてあげるから、包丁持ってみて」


 こんな状況だからこそ、こういう微笑ましい光景は癒しだな。オレはボーッと見ながら、心が少し軽くなった気がした。


「じゃあ、ワタシが手を支えて動かしてあげるから、感覚覚えてね!」


「ありがとー!」


 その様子を見て、オレはハッと閃いた。――その手があったか!


「お風呂めっちゃ広いよ! 男子たちも入ってきなよ!」


 女子の一人にそう言われ、女子たちが楽しげに料理してる間に、オレたち男子も風呂に突撃することにした。血と汗とトカゲの臭いにまみれた体を洗えるなんて、こんな状況でもちょっとした贅沢だぜ。


 湯船に浸かりながら、ナルミがポツリと呟いた。


「そういや、オレたちの体の傷、消えてねえか?」


 言われてみればそうだ。なんでこんな重要なことに気がつかなかったんだオレ……。

 しかも、背中の痛みが消えてたことも忘れてたし。


「もしかしてさ、ボス倒してこの休憩ルームみたいなとこに入ると、体の傷が回復すんじゃねえの?」


 オレが得意げに言うと、ナルミが湯船の中で首をかしげた。


「でも、体力は戻ってねえよな」


 確かに。傷は消えたけど、全身に残るだるさはそのままだ。


「まぁ、傷が治るだけでもありがてえよ。神様もそこまで鬼じゃねえってことか……いや、鬼か」


 オレがブツブツ言ってると、ナルミが湯船から上がった。その勢いでオレの顔にお湯がかかる。どこまでも脳筋め……。


 オレたちが風呂から出ると、女子たちが作ってたカレーが完成していた。


 みんなでテーブルを囲んで食べ始める。ちゃんとした飯が食えるなんて感謝しかないけど、これを用意したのがオレたちをこんな目に遭わせた「神」だと思うと、ムカつきが込み上げてきた。カレーだけにクソくらえだぜ。


 食い終わると、これまでの疲れがドッと出てきたのか、みんなが眠そうな顔をし始めた。


「まだ9時間ちょっとある。体力回復のために寝ようぜ。念のため、男子たちで1時間交代で見張りをしよう」


 ナルミがそう提案すると、みんな頷いて各々寝床に潜り込んだ。オレはなんか寝付けなくて、最初の見張りをしてたナルミに声をかけた。


「なあナルミ。武器の中のノコギリ、オレに預けてくれねえか?」


「ん? 何か作戦でもあるのか?」


「まぁな。それと、戦闘中にオレが『ナルミ!』って叫んだら、すぐオレのとこに来てくれ」


「よくわかんねえけど了解した!」


 ナルミがノコギリを片手で持ってくると、オレに渡してきた。その重さに少しビビった。オレも怪力Cが欲しかったわ……。

 そしてオレたちはお互いの見張り交代の間、色々話すと、次の見張りが来てから一緒に寝た。


 そして9時間が経ったのか、最後の見張り番に起こされた。みんな次々と武器や防具を装備し始める。


「このノコギリ、オレに託してくれ」


 オレがそう言うと、クラスメイトの一人が「これまでの活躍考えても、ヒトシが持つのが妥当だろ。意義なし」とか言ってくれた。ちょっと照れるじゃねえか。


「ありがとな」


 カウントが残り10秒前になった。9、8、7……。みんなで息を呑むように見つめる。


 ――2、1、0!


 その瞬間、視界が歪んだ。前と同じ空間が引き裂かれる感覚の後、オレたちは新しい部屋に放り出された。今度は地面が土と草で覆われ、壁から木がニョキニョキはみ出してる。まるで森の中みたいだ。


 そして部屋の奥に、デカい木のモンスターが鎮座してた。目と口があって、うねうね動いてる。モンスターってのはどいつもこいつもキモいな。


「予想通り木のモンスター! トレントってとこか!? こちとら作戦考えてきたんだ。今回は誰一人死なずにぶちのめして……いや、ぶった斬ってやるぜ!」


 オレはノコギリを握り締め、気合を入れて叫んだ。さて、オレの閃きが正しかったかどうか、試してやるぜ!!




お読みいただきありがとうございます。

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また、誤字脱字や気になる点がありましたら、ご指摘いただけると嬉しいです。

引き続き、この物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。

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