第3話『そういうことは早く言え』
オレは盾を構え、勢いよく突っ込んだ。
――この戦い、オレが華麗に決める!
と思ったのも束の間。次の瞬間、トカゲの白い息がオレの盾に直撃し、オレは空を舞った。いや、舞うっていうか、完全に吹っ飛んだ。盾で防げたのはいいが、背中から床に思い切り叩きつけられる。
「ぐふっ……」
衝撃で息が止まる。いやいや、思ったよりダメージでかいんだけど!? 盾の意味、ほんとにあったかこれ!?
悶絶していると、ナルミの声が響いた。
「みんな! 盾があればあの息みたいなの防げるぞ! 吹っ飛ばされないように固まって、隙間から剣を出して突っ込むぞ!」
うおぉ、指示が的確すぎる! 一人で突っ込んだオレがバカみたいじゃねえか!
ナルミの指示で、クラスメイトたちは怯えてる感じはあるもののなんとか集まり、盾を構えたまま密集体形を作る。そしてその隙間から剣を突き出すと、ナルミの「行くぞぉぉおおお!」という掛け声と共に一斉に突撃。
赤信号、みんなで渡れば怖くない――そんな言葉が頭をよぎった。
「グワァァァァ!!」
剣がトカゲの分厚い皮膚に突き刺さり、やつは耳障りな悲鳴を上げる。そして暴れた。めっちゃ暴れた。
「うわあああああ!」
ブンッと尻尾を振り回すと、その一撃でナルミ達はまとめて吹っ飛ばされた。盾でガードできたものの、やっぱり痛いのか、みんな「ぐあぁ」とか「いだっ」とか呻いてる。
そんな中、トカゲはミツキの方へ向かって突進していった。
「きゃあぁあああ!」
「ミツキー!」
ナルミが叫びながら駆け出すが、間に合いそうにない。オレもこの距離じゃ間に合わない。
頭の中で、ミツキとの幸せな未来が砕ける音がした。
――グッバイ、ミツキ
その時――
ミツキが手を伸ばすと、なんとそこから炎が噴き出した。
「ふぁっ!?」
オレは素っ頓狂な声を上げた。おいおい、いつそんなスキルを!?
トカゲは驚いた様子で身を逸らし、後退する。オレはすかさずミツキの方を見ると、腕輪の赤い水晶が光っているのが見えた。
――まさか、あれ……
オレはなんとか立ち上がり、ミツキの所まで駆け寄った。
「ミツキ、さっきみたいにトカゲに向かって手を伸ばして、力を入れてみてくれ!」
「えっ、ええっ!? で、でも……」
「Don't think, feel! 考えるな、感じろ!」
ミツキが頷いてオレに言われた通りにすると、また炎が出た。
「わっ! この腕輪の力なのかな!?」
しかし、トカゲとの距離があり、ヒョイっと避けられてしまう。くそっ、ちゃんと狙わなきゃダメか。
しかも、腕輪の光が少し弱まっている。魔力みたいなものの限界があるみたいな感じか!?
感だけど、多分打てて後一発ってとこか……それなら確実に当てないとな……よし!
「みんなでなんとかトカゲの動きを止めてくれ!」
オレが叫ぶと、続けてナルミが「みんなさっきみたいに集まって突撃だぁあ!」と叫ぶ。そしてクラスメイトたちが再び密集すると、盾を構えながら突っ込んだ。が――
ブンッ!
「うわあああ!」
尻尾でまとめて吹っ飛ばされた。
――モンスターのくせに学習してんじゃねえ!!
だが、トカゲの方を見ると、ナルミがすでに背後に回り込んでいた。そして――
「うおおおおおぉぉぉ!」
トカゲの尻尾を脇腹で挟み、全力でホールドしていた。いやいや、脳筋すぎるだろ!?
「お前、どんな馬鹿力だよ!」
「いや、なんかボストロール倒したとき"討伐報酬:怪力C"って表示されたんだ!」
「はぁあ!? そういうのは早く言ってくんなぃいい!?」
「ごめん忘れてた!」
確かに、ボストロールにトドメを刺したのはナルミだった気がする。もしかしたら、ボスを倒した人が何かしらのスキルを獲得できる仕組みなのか……?
「いっ、今のうちに早く!」
ナルミの声にオレは「ハッ!」とした。今はそんなこと考えてる場合じゃない!
オレはミツキの方に振り返り、覚悟を決めた。
「ミツキ、盾を持ってオレの背中に乗ってくれ!」
「えええ!?」
「いいから早く!!」
ミツキはオレの言葉に従い、背中に飛び乗る。その瞬間、オレは全力でトカゲに向かって突っ込んだ。
「白い息、来るぞ!」
「う、うん!」
トカゲの口から白いブレスが放たれる。それをミツキが盾でガードし、オレはそのまま接近した。
「今だ、ミツキ!!」
「くたばれクソトカゲぇぇえ!!!」
「みっ、ミツキちゃんー!?」
ミツキがまさかの口調で叫びながら腕を伸ばすと、今までで最大の炎が噴射された。
「ギャァァアア!!」
炎が直撃したトカゲはキモい声を上げながら大きくのたうち回り、ナルミはその勢いで吹っ飛んでた。
「うわあああああ!」
あのくらいの吹っ飛び方なら、ナルミなら大丈夫だろう……。
トカゲはそのまま炎に包まれ、ついに――
ドオォォオン!
――大きな音を立てて倒れた。
「……や、やったのか?」
オレが息をのむ中、ミツキはその場にへたり込み、こっちを見て微笑んだ。オレはそれを見て、全力のキメ顔をした。正直突っ込んだとき、ちょっとチビってたけど……
そしてクラスメイトたちは生き残ったことに歓喜した。が――
「……一人、死んだんだぞ……」
クラスメイトの一人から、場の空気をぶち壊すKY発言が飛び出すと、みんなの表情が一気に沈んだ。
そんな中、ナルミが静かに言った。
「今は、生き残ったことを喜ぼう」
その言葉に、オレたちは少し元気を取り戻した。そして――
ギィィィ……
またどデカい扉が開かれた。
――いつまで続くんだちくしょう……
残り15人。戦いはまだ続く。
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