第2話『とりあえず休もうぜ』
扉をくぐった瞬間、目の前に広がったのは……まるでゲームの中の部屋みたいだった。部屋は広くて、家具が整然と並んでいるのもそうだが、なぜかちょっとリゾート感満載。まるで高級ホテルの一室みたいな感じだ。まぁ、さすがにリゾート気分なんて味わってる場合じゃないよな。それでも心の中で「ちょっと贅沢な気分」とつぶやいてしまった。
「ヒトシ、こっち来いよ! すげぇぞ!」
ナルミが興奮して手を振っていた。さっきまであんなにトロールと死闘を繰り広げていたのに、この余裕はどこから来るんだ? オレだって未だに心臓がバクバクしてるのに。やっぱ脳筋なのか?
仕方なく、指示された通りに近づくと、ナルミは嬉しそうに指をさしていた。
「お風呂とかトイレまであるじゃん! マジかよ!」
うん、確かに……。個室のシャワールームに、ちゃんと流れるトイレ。しかも清潔感がある。ゲームの中の世界みたいなのに、現実世界みたく細かい設備が揃ってるなんて、逆に怖くなってきた。でもまぁ、こういう設備があるってことは、少なくとも「生きることを前提とした作り」ではあるようだ。
その前に、オレたちが生き残らなきゃ意味がないけど。
部屋を一通り見回った後、オレたちは元の場所に戻った。すると、クラスメイトたちの様子が一変していた。錯乱している奴、泣き叫んでいる奴、呆然と座り込んでいる奴、怒り狂って壁を殴っている奴……そいつはよく分からんが。
まぁ、そりゃそうだよな、突然こんな異常事態に放り込まれたんだから。オレだって泣き叫べりゃどれだけ楽か……プライドが許さないだけで……。
「みんな落ち着け! パニックになっても何も解決しないだろ!」
ナルミが大声で叫んだ。普段はただの脳筋だけど、さすがにこんな状況じゃ声を張り上げざるを得ないんだろう。でも、誰かがリーダー的な役割を果たさないと、集団はすぐに崩壊してしまう。
「だけど、どうしたらいいの……」
震える声が聞こえた。ミツキだ。顔色が悪いけど相変わらず可愛い、好き……じゃなくて、オレだって心臓がドクドクしてるし、どうすればって、そんなのわかんない。
その時、突如として目の前の空間に光る文字が浮かび上がった。
『ボストロール討伐完了』
本当にゲームみたいな演出だな。
次に別の文字が現れた。今度はカウントダウンだ。3:00のカウントが0になったら、この部屋は消滅して、オレたちは次のボス部屋に転移する――そんな内容だった。
「3時間後にまた戦わなきゃなのかよ……勘弁してくれ」
オレは思わず口に出してしまった。もうこれ以上、化け物と戦うのは正直イヤだ。けど、そんなこと言ったってオレたちにはこの状況をどうしようもできない。
周囲が再びパニックになりそうなとき、オレは思わず言ってしまった。
「なあ……とりあえず休もうぜ」
周りを見ると、みんな疲れ果ててるのがわかる。そりゃそうだよな、さっきまで激しい戦闘をしてたんだし。
「ははっ。休憩って言っても、ここで何をすればいいんだ?」
ナルミが少し疲れた顔で言ったけど、無理にでも笑おうとしているのがわかる。
「食べ物があるだろ。せめて腹ごしらえだけでもして、気分転換しようぜ」
オレがそう言うと、みんなが少しずつ頷きながら食料を手に取るのを見て、少し安心した。食事って意外と心が落ち着けるんだな。お腹が満たされると、ちょっとだけ平常心を取り戻せた気がする。ほらっ、壁殴ってたアイツも……まだ殴ってるか。アイツは放っておこう。
食べ物を食べて少し落ち着いたのか、ミツキの震えも治ってた。それでも不安そうな顔をしているのが気になって、オレはかっこつけて笑顔を作ってみせた。
「大丈夫。休んでる間に何か策を考えよう」
「うん……ありがとう、ヒトシくん」
ミツキは少しだけ安心したような表情を見せた。少しでも役に立ったなら、オレも少しはマシな気分になれる。まぁ……あわよくば好きになってもらいたいけど。
そしてしばらくして、少し元気が出てきたところでナルミが言った。
「じゃあ、そろそろ行動再開か?」
オレはうなずきながら部屋を見渡すと、ふと視界の端に違和感を感じた。部屋の一角に新しい装備や防具が並んでいる。最初に見たものよりもずっと頑丈そうな、強そうな装備だ。興奮しながらそれを手に取った。
「みんな! これを装備しようぜ!」
「そうだな、これで少しは生き残れる確率が上がる」
オレとナルミがそう言うと、みんなもそうだと言わんばかりに、装備を取って身に着けた。その時、ふとミツキが腕輪を持っているのが見えた。
「それ、何か特別な効果があるのかな」
「分からないけど、なんか赤い水晶ついてるから、これも使えるかもしれないと思って……」
ミツキは不安げな顔をしていたが、それでも少しでも希望があるなら試してみるしかない。
そしてオレたちが準備を整えると、ついにその時はきた。カウントが0になり、視界が歪んだ。まるで空間ごと引き裂かれるような感覚。
***
次の瞬間、オレたちは新しい部屋に投げ出された。
そして目の前に現れたのは――これまたバカでかい、青黒いトカゲ。
いや、トカゲって言うにはデカすぎる。どう見ても全長10メートル以上は余裕である。そいつが不気味に白い息を吐きながら、オレたちを見ている。
「……嘘だろ、またこんなキモい化け物かよ」
その瞬間、白い息のようなものが飛んできた。
「なっ……!?」
オレの目の前で、クラスメイトの一人がその息のようなものに直撃すると、一瞬で氷漬けになった。そして――
ズシャアアアッ!!
氷漬けにされたそいつが、粉々に砕け散った。冗談じゃない、これ、本当にヤバくないか!?
「きゃぁあああ!!」
ミツキの叫ぶ声が聞こえた。その声でみんなパニクったのか、震えてるのが分かる。
「みんな落ち着け! 連携を取って倒すぞ!」
ナルミは周りを鼓舞するかのように叫んでいたが、脚はガタガタ震えていた。オレだってそうだ……それでも――オレは慌てて剣と盾を構えた。
みんなで協力して、何としてでも生き残るんだ……!
そして盾で身を守る姿勢を取って、そのままトカゲに突っ込んだ。
「うおおぉおおおぉおおおお!! 」
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