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9話 ユニークボス

横浜地下遺跡の最深部。巨大な扉の前に立つと、その重厚な装飾から強大な存在感を感じ取れた。


「どうせただのボスだろう。倒して報酬を手に入れるだけだ。」


そう自分に言い聞かせながら扉を開けた瞬間、空気が一変した。


「これは…なんだ?」


広大な空間の中心にそびえ立つのは、人型の上半身を持つ巨大な蜘蛛だった。闇のような黒い体表、無数の目がこちらを睨みつけている。


『アラクネクイーン・オブ・デプス レベル:20 (ユニークボス)』


その圧倒的な存在感は、これまでのモンスターとは一線を画していた。


「ユニークボスだって!?どうする…このままじゃやられるぞ。」

「健斗、逃げよう!」


葵の声が焦りを帯びる。確かに、目の前のアラクネクイーンはレベルも装甲も別格だ。だが、ここで逃げ出したら、これまで築いてきた経験が無駄になってしまう気がして、足が動かない。


「いや、やる!俺にはまだ…何かできるはずだ!」


覚悟を決めた俺は突進スキルで懐に飛び込む。だが、アラクネクイーンはその巨体に見合わない俊敏さで俺の攻撃をかわし、鋭い足を振り下ろしてきた。


「くそっ!」


なんとかかわしたものの、アラクネクイーンの毒糸が辺り一面に広がり、足場が制限されていく。動ける範囲がどんどん狭まる中、ついに俺は背後の壁際に追い詰められた。


「健斗!」


葵の叫びが聞こえたその瞬間、アラクネクイーンの足が俺を狙って振り下ろされる。俺はとっさにスキル「突進」を発動しようとしたが、タイミングがずれ、巨体に弾き飛ばされて壁に激突しかけた――その直前。


突進スキルが発動し、体が異常な挙動を見せた。


「すり抜け」バグが発動する。


俺は壁をすり抜け、暗い空間に飛び込んだ。


「…ここは?」


見知らぬ場所に飛び込んだ俺は、一息つきながら周囲を見渡した。だが、息を整える暇もなく、背後の壁越しにアラクネクイーンの足音が迫ってくるのを感じる。


「このままじゃまた追い詰められる…何か方法を…!」


その時、視界に赤い文字が浮かび上がった。


スキル「空中跳躍」発動条件を満たしました。


「空中跳躍…?試すしかない!」


俺は試しに地面を蹴ってジャンプした。そのまま再びジャンプを試みると、空中でもう一度跳躍が可能だった。


「えっ…何だこれ!? 無限ジャンプ?」


驚きながらも、この新たなスキルの感覚を掴む。これなら、地上の制限された足場に頼らずアラクネクイーンの上空を取ることができる。


「やるしかない…!」


俺はすり抜けた壁を再び超え、アラクネクイーンの元へと戻った。空中ジャンプでその巨体を翻弄し、攻撃を繰り返す。しかし、どれだけ攻撃しても、その硬い体表を貫くことができない。


「くそっ、無理か…!」


体力は限界に近づき、攻撃は空振りを続ける。万事休すかと思ったその瞬間――。


「おい、大丈夫か!」


空中に飛び込んできた鋭い剣閃が、アラクネクイーンを大きく怯ませた。


現れたのは、軽装ながら威圧感を放つ青年、天海直人。その動きは洗練され、モンスターを軽やかに翻弄していく。


「こいつはお前たちには荷が重い。少し休んでろ。」


天海の言葉に従い、俺と葵は安全な場所へ避難する。彼の動きは圧倒的で、ユニークボスの猛攻を的確にかわしながら、弱点を狙う攻撃を繰り出していく。


「すごい…。あれがAランク冒険者の力か。」

「健斗、大丈夫?」

「なんとか…。でも、俺たちとは格が違うな。」


天海の戦闘は圧巻だったが、彼も完全にアラクネクイーンを倒すことはできず、一時撤退を決断する。


ダンジョンの出口まで誘導してもらい、俺たちはなんとか地上に戻った。初めてユニークボスに遭遇し、そして命の危機を乗り越えた安堵感が全身に広がる。


「ありがとう、天海さん。本当に助かりました。」

「いや、礼には及ばない。お前たち、あんな危険な相手に挑むなんて無茶が過ぎるぞ。」


俺たちは彼の言葉を受け入れながらも、自分たちの力不足を痛感していた。


「それにしても、あの空中での動きは面白いな。普通のスキルじゃないだろ?」


天海は俺の動きを見て興味を示していたが、俺はとっさに誤魔化した。


「いや、なんか…とにかく必死で動いてただけです。」


「そうか。」


天海はそれ以上深く追及せず、「また会うことがあれば協力する」と言い残して立ち去った。

地上に戻った俺たちは、一息つく暇もなくこれからのことを話し合った。


「健斗、次はどうする?」

「もっと強くなる。あのアラクネクイーンを倒せるくらいに。」


俺は握りしめた拳を見つめながら誓う。この新たに発見した空中ジャンプのスキルも、きっと活かせる場面があるはずだ。そして、もっと経験を積み、自分だけの力を磨きたいと思った。


「でも、無理はしないでよね。」

「ああ、葵も一緒に成長しよう。」


こうして俺たちは、新たな力と目標を胸に、再び冒険を続ける決意を固めたのだった。

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