55話 空間を超える拳
侵略者の王が地球に逃げてから、俺たちは途方に暮れていた。このままでは王の侵略を許すことになる。だが、どうやって地球まで追いかける?
葵が苦しげに呟く。
「転移装置も壊れてるし、この世界から地球に行く方法なんて…」
俺は拳を握りしめ、力がまだ足りないと感じていた。この状況を打破するには、もっと――もっと力が必要だ。
俺たちは迷宮深層部で見つけた「力の実」を再び増やし始めた。無限増殖バグを利用し、何十、何百と実を作り出し、それを次々に食べる。
「まだだ…これじゃ足りない。」
食べ続けるたびに体が軽くなり、力が湧き上がる感覚が強まっていく。
葵が少し不安げに尋ねる。
「大丈夫?これ以上食べても、体に影響が出たりしない?」
「問題ない。むしろ、これで足りるかどうかだ。」
俺はさらに食べ続け、拳を握った瞬間、周囲の空間が揺らめくほどの力を感じた。
「これなら…いけるかもしれない。」
俺は侵略者の王が消えた転移装置の跡地に立ち、そこに残るわずかな歪みを感じ取る。
「この空間、まだ微かに繋がってる…なら!」
拳を振り上げ、全力でその歪みを殴りつける。
ドゴォォォン!!
拳が空間を捉えた瞬間、視界が一瞬で歪む。空間全体に大きな亀裂が走り、まるでガラスが砕けるような音が響いた。
葵が驚きの声を上げる。
「本当に空間が…歪んでる!」
さらに力を込め、連続で殴り続ける。拳が空間を貫き、その先に微かな光が見え始める。
「これが…地球への道だ!」
最後の一撃を叩き込むと、目の前に巨大な裂け目が現れた。その先には、青い空と白い雲――地球の風景が広がっている。
「やった…これで追いかけられる!」
葵が俺の肩を叩きながら笑みを浮かべる。
「すごいよ、これで地球を救うチャンスができた!」
俺たちは迷うことなく裂け目の中に飛び込む。新たな戦場で、侵略者の王との最終決戦が待っている。
「待っていろよ、今度こそ決着をつける!」
裂け目を通り抜け、俺たちは地球へと向かう。その先で待つのは、さらなる試練か、それとも勝利か――。
地球に戻ってきた俺たちが目にしたのは、かつての平穏な世界とはかけ離れた光景だった。都市の至るところにモンスターが溢れ、人々が逃げ惑っている。建物は次々と破壊され、空には巨大な飛行型モンスターが飛び交っている。
「これが…王が引き起こしたことか。」
葵が絶望的な表情で呟く。だが、立ち止まっている暇はない。今すぐ行動しなければ。
俺たちはまず日本に向かった。到着した東京は、モンスターの襲撃で壊滅状態だった。
「助けて!誰か!」
市民たちが必死に逃げ惑う中、冒険者たちが必死に応戦していたが、明らかに力不足だ。
「おい、あの二人…!」
俺たちに気づいた冒険者の一人が叫ぶ。
「こっちは任せろ!」
俺は力を解放し、一瞬でモンスターの群れに突っ込む。
ドゴォン!
拳を振るうたび、モンスターは跡形もなく吹き飛んでいく。葵も魔法を駆使し、遠距離から正確に敵を狙い撃つ。
「な、なんだあの力は…!」
冒険者たちは唖然とした表情で俺たちを見つめる。
一方、その頃、首相官邸では緊急会議が行われていた。
「このままでは日本は壊滅するぞ!」
官僚たちが口々に危機感を訴える中、防衛大臣が映像を指差した。
「ですが、見てください。彼らが現れたことで、被害が一部抑えられています。」
映像には俺たちがモンスターを次々と倒していく姿が映し出されていた。
「彼らは一体何者だ?政府が把握している冒険者名簿には載っていない。」
「だが、明らかに彼らがいなければ被害はもっと拡大していたはずだ。」
首相は静かに言葉を発した。
「彼らと接触し、協力を仰ぐべきだろう。今は国家の存亡がかかっている。」
戦いの最中、ある少女が瓦礫の下で泣いているのを見つけた。
「大丈夫か?」
俺は少女を抱きかかえ、安全な場所まで運んだ。
「お兄ちゃん、ありがとう…」
その言葉に、俺は強い責任感を感じた。この世界を守るために、俺たちがやらなければならない。
「葵、行くぞ。まだ終わってない!」
「うん、次の場所へ行こう!」
さらに増援として現れた大型モンスターも、今の俺には敵ではない。力の実を食べ続けた結果、拳一発で巨大なモンスターをも粉砕できるようになっていた。
「これで終わりだ!」
全力の一撃を放つと、周囲のモンスターをまとめて消し飛ばすほどの衝撃波が広がった。
「すごい…」
周囲の冒険者たちや市民が歓声を上げる。
だが、心の中に油断はない。これらは侵略者の王がもたらした災厄の一部にすぎない。
戦いが一段落した後、俺たちは冒険者たちと情報を交換し、今後の動きについて話し合った。
「侵略者の王を倒さなければ、この地獄は終わらない。」
葵が静かに言った言葉に、全員が頷いた。
政府とも連携しつつ、俺たちは次の行動に移る。全てを終わらせるために、そして地球を救うために――。




