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53話 無限増殖バグ

新たな力を得た俺たちは、迷宮の奥深くへ進む決意をした。だが、その実を見つけた木を通り過ぎてから、再び同じような実を見つけることはなかった。


「この実、本当に希少なのね…。」

葵が疲れた声で呟く。迷宮の異様な空気に加えて、無限に続くかのような暗闇が俺たちを精神的にも追い詰めてくる。


「たった一つでこんなに力が湧いたんだ。他に見つけられれば、もっと可能性が広がるはずだ。」

俺は前を見据え、希望を胸に歩を進めた。しかし、迷宮はそう簡単にはいかせてくれない。


数日間の探索と限界


迷宮の中で数日が経過した。俺たちは小さな休憩を取りながら、わずかに蓄えた力で進んだが、またしても希少な実を見つけることができたのは3日目のことだった。


「ここだ!」

俺が見つけたのは、初めての木とは違い、壊れかけた石像の陰に隠れるように生えていた木だった。


「やっと見つけた…でも、一つだけ?」


「この実、どうやって使うべきかしら。」

葵が手に取った実を眺めながら呟く。迷宮の深層で見つけた超希少なこの実を、ただ食べてしまうのはあまりにも惜しい。


「食べれば力が手に入るのは確かだけど、もっと有効な使い道があるかもしれない。」

俺も同じ考えだった。この状況で実を浪費するのはリスクが高い。


「とりあえず進もう。今はこの場所を離れるのが先決だ。」

俺たちは慎重に迷宮の通路を進む。しかし、モンスターの気配が再び近づいてくるのを感じ、逃げ道を探さざるを得なかった。


「すり抜けバグを使って壁の向こうに逃げるしかない!」

俺は実を持ったまま壁に突進し、特有の異質な感覚とともに壁をすり抜けた。その瞬間、手元の実をうっかり落としてしまう。


「しまった、実が…!」

慌てて手を伸ばして拾おうとしたが、次の瞬間、壁の向こう側からポン、と音を立てて、同じ実が2つ現れた。


「なんだこれ…実が増えた?」

俺は驚きながらも、2つの実を拾い上げた。確かに1つしか持っていなかったはずなのに、今では手に2つの実がある。


「もしかして…?」

実験のため、再び壁の中に実を持ち込んで離してみる。すると、また2つに増えた。


「このバグ、すごいわ…!」

葵も目を輝かせながら驚きの声を上げる。


壁をすり抜け、増殖バグで実を2つ、4つと増やしていくたびに、俺たちは目の前の可能性に興奮していた。


「これ、無限に増やせるぞ!」

俺は実を手にしてさらに壁をすり抜ける。ポン、ポン、と音を立てて実が倍々に増えていく。


「本当にすごいわ…でも、こんなことができるなんて信じられない。」

葵も驚きながらも手伝い始めた。あっという間に、増殖した実で袋をいっぱいにする。


「さっそく食べよう。これで少しでも体力を回復して、この迷宮を切り抜けるんだ!」

俺は増やした実を1つ口に含む。最初に食べたときのような、全身を包む熱い力が流れ込んできた。


「これを続ければ…!」

俺たちは躊躇なく次々と実を食べる。僅かに強くなる効果が積み重なり、体中が熱に包まれていく。


10個、20個、30個…。限界がどこにあるのかわからないが、食べるたびに身体能力が向上していくのを実感する。


「これで…どんなモンスターが来ても倒せる!」

俺は握りしめた拳に力がみなぎるのを感じた。葵もまた同じで、今までの弱々しい表情が消え、自信に満ちた目をしている。


迷宮の最深部、そこにはこれまで見たどのモンスターよりも巨大で、圧倒的な威圧感を放つ存在が待ち構えていた。


「これが最深部の守護者か…!」

その巨体が地響きを立てながら動き出し、俺たちを睨みつける。


「でも今の私たちなら…やれる!」

葵が叫ぶと同時に俺も駆け出した。


守護者の巨腕が振り下ろされるが、俺はその攻撃を軽々とかわし、すり抜けバグでモンスターの背後に移動する。そして、手にした剣を全力で叩きつける。


「これでもくらえ!」

剣が巨大なモンスターの鎧のような外殻を貫通し、深々と突き刺さる。守護者は苦悶の声を上げるが、俺たちは止まらない。


葵もまた、魔法の矢を連続で放ち、その一撃一撃が正確にモンスターの弱点を貫いていく。


守護者は最後の力を振り絞ってエネルギー波を放つ。しかし、増殖した実を食べ続けて得た力はそれすらも無効化するほどに強大だった。


「無駄だ!」

俺は腕伸ばしバグを発動し、異常に伸びた腕でモンスターの首をつかみ、そのまま引き倒す。


「終わりだ!」

最後の一撃を叩き込み、守護者の巨体が崩れ落ちる。


静寂が訪れ、俺たちは改めて自分たちが手にした力の大きさを実感した。


「こんなことが…本当にできるなんて。」

葵が息を整えながら呟く。


「無限に強くなれる。この迷宮も、そして外の世界も…俺たちの敵じゃない。」

俺は拳を握り、さらなる可能性に胸を躍らせた。


こうして、俺たちは迷宮最深部を制覇し、圧倒的な力を手に入れることとなった。しかし、この力がどんな未来を呼ぶのか、まだ誰も知る由はなかった――。


最深部のモンスターを倒したにもかかわらず、俺たちの手は増殖した実から離れることはなかった。


「もっと…もっと強くなれるはずだ。」

俺は手にした実を再びすり抜けバグで増殖させ、山のように積み上げていく。葵も無言で手伝ってくれる。


「ここまで来たんだ。もう限界なんて気にする必要はない。」

俺たちは増やした実を次々と口に運び、体の奥底から湧き上がる力を実感するたびに笑みを浮かべていた。


「これで何個目だろう…100個以上は食べたかな?」

葵が呆れたように言うが、俺は気にせずに次の実を口に含む。


増え続ける力は、もはやただの成長ではなく、完全な異常だ。筋力、反射神経、魔力――あらゆる能力が常軌を逸したレベルに達しているのがわかる。


迷宮のさらに奥から、不気味な音が響いてきた。そこには、先ほど倒した守護者とは比べ物にならないほどの巨大なモンスターが姿を現す。その存在感だけで空気が震え、葵が思わず後ずさるほどだ。


「なに…こいつ…!?」

その巨体は迷宮の天井にまで届き、目は炎のように輝いている。


「でも関係ない。もう俺たちは…無敵なんだ。」

俺はモンスターの巨体に向かって駆け出す。相手が振り下ろした巨大な腕も、俺の目にはゆっくりとした動きにしか見えなかった。


「これで終わりだ。」

俺は拳を握りしめ、全力で殴りつける。


ドォンッ!


拳が触れた瞬間、モンスターの巨体がまるで砂の山のように崩れ去る。わずか一撃、それだけで最強と思われた存在は跡形もなく消え去った。


「ワンパンで…倒せた。」

葵が呆然と呟く。俺も信じられない気持ちだったが、これが増殖バグと実の力の結果だ。


「もう、この迷宮に俺たちを止められるものはない。」

俺たちは互いに頷き合い、さらなる冒険へ向けて歩き出す。


しかし、この無限に強くなった力が本当に正しいのか――そんな疑問が頭をよぎることもなく、俺たちは次の目標へと突き進むのだった。


やっっっっっとタイトルにあった無限増殖バグができました!流石に最初に無限増殖はダメかなと思ってずっと先延ばしにしてたらこんな話数になりました。まあ、タイトルのことができてよかったです。

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