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52話 深淵への追放

「目覚めよ。」

冷たい声が響き渡り、重い瞼を開くと、そこには見覚えのない暗い洞窟が広がっていた。薄暗い光が壁を照らし、どこまでも続く闇がその奥に待ち受けている。


「ここは…どこだ…?」

俺は体を起こし、周囲を見渡す。足元には倒れている葵の姿があった。


「葵、大丈夫か?」

俺が彼女の肩を揺さぶると、彼女もゆっくりと目を開けた。


「ここは…どうして私たちがこんな場所に?」

葵は困惑した表情を浮かべながら周囲を見回す。


その時、重厚な足音が響き、闇の中から侵略者の王が現れた。冷酷な瞳が俺たちを見下ろしている。


「貴様らのような愚かな抵抗者には相応しい罰がある。」

王は静かに語る。その声には威圧感があり、抗おうとする気力すら奪われそうになる。


「ここは、世界最難関とされるダンジョン、『深淵の迷宮』の最深部だ。ここに送り込まれた者が生きて帰った例は一つもない。」

王の言葉に冷たい汗が流れる。最難関のダンジョンの最深部に捨てられるなど、死を宣告されたも同然だ。


「なぜ…こんなことをするんだ!」

俺は震える声で問いかけるが、王は冷笑を浮かべただけだった。


「貴様らに選択肢はない。ただ死を待つか、必死に抗いながらその運命を迎えるかだ。」

王は背を向け、手を振り上げた。その瞬間、光が一閃し、彼の姿は消え去った。


「どうする…?」

葵が不安げに尋ねる。だが、俺にも答えは出せなかった。ただ、この場で立ち止まっていれば、確実に命を落とすだけだ。


「進むしかない。ここから出る方法を探すんだ。」

俺は決意を込めて答えるが、内心では恐怖で足が震えていた。


ダンジョンの空気は異常だった。重い圧迫感があり、空気を吸うだけで胸が痛くなるような感覚がある。壁に浮かぶ模様は生きているかのように動き、足元では謎の液体が滴り落ちている。


歩みを進めるたびに、背後から何かに見られているような不気味な気配がする。だが、振り返っても何もない。


「何か…ここ、おかしい。」

葵が震える声で呟く。俺も同感だった。このダンジョンは普通ではない。侵略者の王がここを選んだ理由が何となく理解できる。


突然、遠くから重低音のような唸り声が響いた。その音は徐々に近づいてきている。


「何だ…あれ?」

暗闇の奥から巨大な影が現れた。それはダンジョンに棲むモンスターで、見るからに尋常ではない大きさだ。四本の腕を持つ巨体で、目は赤く輝いている。


「くっ、来るぞ!」

俺は剣を構えたが、モンスターの動きは驚くほど速かった。巨体にも関わらず、まるで風のように俺たちの前に迫る。


「葵、後ろへ!」

俺はすり抜けバグを使ってモンスターの攻撃をかわし、背後に回り込む。だが、その一撃を与える間もなく、モンスターは振り返り、再び攻撃してきた。


「何て速さだ…!」

攻撃を避けるたびに、モンスターはさらに凶暴化していく。俺たちは追い詰められ、立ち回るのがやっとだった。


何とかモンスターを撒いて先へ進むと、目の前に巨大な扉が現れた。その扉には不気味な紋章が刻まれており、近づくだけで嫌な気配を感じる。


「これが…出口か?」

俺は扉を押そうとするが、ビクともしない。その時、扉の上部に文字が浮かび上がった。


「『試練を越えし者のみ、ここを通る資格を得る』…だと?」

俺は読み上げながら歯を食いしばった。このダンジョンを抜けるには、さらなる試練が待っているようだった。


「葵、一緒にやるしかない。」

俺は葵の目を見て言った。彼女も頷き、杖を握りしめた。


「絶対に生き延びてやる。」

二人で力を合わせ、この地獄のような迷宮を突破することを誓った。


深淵の迷宮の暗闇をさまよい続ける中、俺たちは体力の限界を感じていた。過酷な環境と容赦ないモンスターの襲撃に、何かしらの突破口がなければ脱出は不可能だと悟る。


「このままじゃ…もう持たないかも。」

葵が疲れ切った声で呟く。彼女の杖を握る手は震え、気力も尽きかけているようだった。俺も同じだった。


「何とかしないと…だが、どうすればいいんだ?」

迷宮の冷たく湿った空気の中で、俺たちは答えのない問いを抱えながら歩みを進める。


やがて、崩れかけた通路を抜けた先で、不思議な木が目に飛び込んできた。その木は迷宮の中とは思えないほど鮮やかで、赤黒く輝く実がいくつもなっている。


「何だ、この木?」

俺たちは警戒しながら近づいた。周囲にはモンスターの気配はなく、不気味な静寂だけが広がっていた。


葵が一つの実を摘み取ると、実が微かに輝き、何らかのエネルギーを感じ取ることができた。


「この実、ただの食べ物じゃなさそう…」

彼女の言葉を聞き、俺は木をじっくり観察する。そして、試しに実を一つ摘み取り、口に含んだ。


実を噛むと、強烈な酸味とわずかな苦味が口いっぱいに広がる。同時に、全身がじんわりと熱くなるような感覚がした。


「なんだ…この感じ。」

俺は手を握りしめてみる。筋力が急激に増すような劇的な変化ではないが、明らかに体の内側から力が湧き出している。


「どう?大丈夫?」

葵が心配そうに問いかけてきた。


「大丈夫だ。ただ…少しだけ強くなった気がする。」

その効果は僅かだが、確実に実感できた。


「もしかして、この木の実を食べれば、少しずつでも生き延びる力が手に入るかも。」

葵も恐る恐る実を口に運ぶ。そして、彼女もまた体の変化を感じ取ったようだった。


「これなら…少しずつでも、力を蓄えていける。」

俺たちは目の前の木を頼りにする決意をした。すぐに強大な力を得られるわけではないが、この迷宮を生き延びるための重要な糸口になるかもしれない。


「行こう、少しでも前に進むために。」

俺は新たな力を信じ、再び足を踏み出した。この世界で生き抜くための手がかりを掴むために――。

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