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38話 Sランクダンジョン 3

試験場の破壊された大地の中、煙が薄く立ち込める中で、俺たちは静かに息を整えていた。モンスターの姿は消え、戦いの余韻だけが残る。だが、それと同時に感じるものがあった。それは、試験の終焉を告げるものではなく、むしろ新たな始まりを意味するような感覚だった。


「この場所、試験場だってことは確かだよな?」


葵が呟いたその言葉に、俺は答えを出せなかった。試験を突破したことは確かだが、今、目の前に広がる光景がそれを証明していた。


目の前に現れたのは、まるで異次元のような空間だった。霧の中に光が差し込み、その先に開かれた扉が見える。扉の向こうには、どこか見知らぬ場所が広がっており、空気が不思議なほど清々しく、まるで異世界への入り口のように感じられた。


「これが、Sランクダンジョンの試験の最後…?」


葵の声が震える中、俺はその扉に歩み寄った。恐れと期待が入り混じる中で、自然と足が進んでいく。


「待って…!」


突然、葵が俺を止めた。その顔は真剣で、少し驚いたような表情を浮かべている。


「この扉、ただの扉じゃないかもしれない。」


「どういうことだ?」


「試験が終わったとしても、ここから先にはもっと強力な存在が待っているかもしれない。私たちの力だけじゃ、きっと足りない。」


葵の言葉に、俺は少しだけ息を呑む。しかし、その言葉もまた真実だと感じた。俺たちの戦いはあくまで試験であり、この先に待ち受けるものが何であれ、それに立ち向かう準備をしなくてはならない。


「でも、何もしないわけにはいかない。」


俺は剣を改めて握りしめ、葵に向き直った。


「俺たちがここまで来たのは、運だけじゃない。自分の力を信じるべきだろう?」


葵は一瞬考え込んだ後、頷いた。


「確かに。でも、あなたの力はもう普通じゃない。あの爆発的な力…あれは一体…?」


俺はその質問に答えることができなかった。確かに、あの瞬間の力は普通の範疇を超えていた。しかし、それがどうして発生したのか、そしてその力がどこまで通用するのか、全く見当もつかない。


「もう、後戻りはできない。」


葵が静かに呟くと、俺はその言葉に覚悟を決めて、扉を開けた。


扉を開けた瞬間、視界が一気に変わり、俺たちは異世界のような場所に足を踏み入れていた。空は金色に輝き、どこまでも広がる草原と不思議な建物が見える。さらに、遠くには巨大な城のようなものも見え、そこから強い魔力のような気配が漂っていた。


「ここは…どこだ?」


葵が呟いたその言葉に、俺は答えを持っていなかった。だが、感じるのは圧倒的な力だ。目の前に広がるこの異世界が、俺たちにどんな試練をもたらすのか、それはわからない。


「これが…本当のSランクダンジョン…?」


その時、遠くから不気味な声が響いた。


「来たか…挑戦者よ。」


その声は、まるでこの世界自体が語りかけてきているかのようだった。そして、すぐに目の前に一人の人物が現れた。その姿は人間のようでもあり、またどこか異形のようにも見える。


「俺たちは、試練を与えし者。この地で戦い抜く者に真の力を与える。だが、その代償もまた大きい。」


その人物の言葉に、俺たちは一歩も引かずに立ち尽くすしかなかった。試練はまだ続く。そして、俺たちはその先に待つ新たな戦いに挑むため、進むべき道を選んだ。


「どうする、葵?」


「進みましょう。この先に待っているものが、私たちを強くするはずよ。」


葵の言葉に勇気をもらい、俺たちは共にその先へと進む決意を固めた。


異世界の広場に足を踏み入れた瞬間、すぐに気づいた。空気が変わり、時間が歪むような感覚が俺たちを包み込んだ。空が金色から暗雲に覆われ、大地が振動し始める。すべてが狂い始めていた。


「どうしてこんな…?」


葵が足を止め、杖を構えて周囲を警戒する。その時、巨大な影が現れた。圧倒的な存在感で、広場の中心に立つその怪物は、まるで世界そのものが具現化したかのような、異形の姿をしていた。黒い霧のような体に、鋭い目が光を放ち、俺たちを睨んでいた。


「お前たちが、試練の者か?」


その声は、まるで地鳴りのように響いた。まるで世界全体が、この怪物の意志に支配されているかのようだった。


「来るぞ、準備しろ!」


俺は叫んで、すぐに剣を抜いた。葵も魔法の準備を始めるが、その瞬間、怪物が手を一振りしただけで、周囲の空間が歪み始めた。まるで時間そのものが歪んでいくように感じた。


「お前たちの力を見せてもらおう。」


怪物が一歩踏み出した瞬間、その巨大な手から放たれた衝撃波が、俺たちを吹き飛ばした。地面に叩きつけられたが、すぐに立ち上がると、葵も魔法の盾を展開しながら俺を支えてくれた。


「くっ…こんな力を放ってくるなんて…!」


俺は剣を振りかざし、突進していく。しかし、怪物の巨大な腕が一度振るわれるだけで、周囲の風圧が俺たちを吹き飛ばす。足を踏み外しそうになるが、何とか踏みとどまった。


戦いは激化し、怪物はその力を惜しみなく解放してきた。地面が割れ、空気が震える。俺たちが攻撃を仕掛けるたびに、怪物はそれを凌ぎ、さらに大規模な攻撃を返してくる。


「まだ…足りない!」


俺の剣が怪物の体に届くが、それも微々たる傷に過ぎなかった。怪物は無情にもその巨大な手を振り下ろし、俺たちの前に立ちふさがった。


「避けろ!」


葵の声に反応して、俺は必死に横に飛び、怪物の手をかわす。だが、その攻撃の余波で、地面が裂け、周囲が崩れ始めた。


「こいつ…どうしてこんなに強い!」


「まだ始まったばかりよ!」


葵は杖を高く掲げ、魔法の力を溜める。その一瞬の隙をついて、怪物が前足を振り上げ、再び全力で攻撃を放ってきた。


「危ない!」


俺はその攻撃を受け止めようとしたが、怪物の力に圧倒され、思わず膝をついた。だがその瞬間、葵の魔法が炸裂し、巨大な光の壁が立ち上がる。怪物の攻撃がそれに衝突し、大爆発が広場を揺るがした。


「これで少しは隙ができたはず…!」


葵が息を切らしながら、魔法の準備を整える。しかし、怪物はそれを見越していたかのように、再び空間を歪ませて、周囲に巨大な黒い雷を放ってきた。


「くっ…!」


俺は再び立ち上がり、剣を構え直す。今度こそ、倒してやる。


怪物の攻撃は止むことなく続き、戦場はもはやどこがどこか分からないほど荒れ果てていた。周囲の大地がひび割れ、空が黒く染まり、まるでこの戦い自体がこの世界の命運をかけたもののように感じられた。


「もう…限界か…?」


葵の声に不安が混じり始めた。だが、俺は決して諦めるわけにはいかなかった。


「こんなところで終わってたまるか!」


俺の心の中で何かが燃え上がり、全身に力がみなぎった。怪物の目が俺を見据え、再び攻撃の準備を始めるが、今度はそれをかわす余裕もなくなった。


「来るなら来い…!」


俺は剣を振り上げ、全力で突進していった。その刃が怪物の体を捉えた瞬間、巨大な爆発が起き、周囲の空間が歪んだ。怪物が一瞬よろめき、隙を見せた。その隙をついて、俺は全力で剣を振り下ろし、怪物の体に深く突き刺さった。


「これで…!」


その瞬間、怪物の体が爆発的に崩れ、黒い霧が広がる中、俺たちは立ち尽くしていた。


「やったか…?」


葵が息を呑みながら言ったが、その時、残された力で怪物が最後の一撃を放ってきた。だが、俺はもうそれを受け止める準備ができていた。


「まだ終わらない!」


俺は剣を力強く握りしめ、最後の力を込めて、再び一撃を加えた。爆発が起き、広場が完全に崩壊する中、ついに怪物の姿は消え去った。


静寂が広場に戻り、残されたのは崩れた大地と煙だけだった。俺たちは息を切らしながら、互いに確認した。


「やっと、終わったか…。」


葵が肩で息をしながら言う。その言葉に、ようやく解放感を感じた。


「でも、これで終わりじゃない。次がある。」


俺たちは、崩れた広場の先に立つ扉を見つめた。まだ、試練は終わっていないのだ。


「行こう。」


葵が言うと、俺も頷き、二人でその扉に向かって歩み出した。

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