35話 試験の終わり
荒川河口に立つ、霧深い試験場。このSランクダンジョンに挑むための試験は、想像以上に過酷だった。
「試験の最後まで、もう少しだな。」
俺は汗を拭いながら剣を握り直す。隣には葵が疲れた表情をしつつも、杖をしっかりと握り、前を見据えていた。
「この霧…ただの自然現象じゃないわね。おそらく、次の試練のための布石だと思う。」
彼女の言葉を受け、俺たちはさらに奥へと進んでいく。
霧の中に潜む影
先へ進むたび、霧はどんどん濃くなり、周囲の景色がまったく見えなくなった。視界が閉ざされ、わずかな物音ですら不気味に響く。
「気をつけろ、何かが近づいてる。」
剣を構え、足音を忍ばせながら周囲を警戒する。すると、霧の中から影が揺らめき、次第にそれが形を成していくのがわかった。
「また霊火のモンスターか?」
だが、現れたのはこれまでの敵とは異なる異形の存在だった。長い触手のような腕を持ち、目のない顔から不気味な叫び声を上げる。それが複数体、霧の中から現れる。
「…一筋縄ではいかないみたいね。」
葵が呟くと同時に杖を振り上げ、霊火拡張の準備を始めた。
触手との死闘
「来るぞ!」
俺は剣を振り、霊火を纏った一撃で敵を迎え撃つ。しかし、触手のような腕が鋭い勢いで迫り、まとわりつくように動き回るため、簡単には当たらない。
「動きが早すぎる…!」
敵の触手が飛び出し、俺の防御を掻い潜って肩を掠める。鋭い痛みが走り、一瞬ひるみかけたが、すぐに態勢を立て直す。
葵も魔法を放ちながら援護してくれるが、敵の動きは予測困難だ。触手はまるで生き物のように絡みつき、魔法を避けるかのように動き続ける。
新たなバグ技「霧散」
「くそ…普通の攻撃じゃキリがない。」
俺は敵の動きを見極めながら、バグ技の可能性に意識を集中した。すると、霧の中に異様な感覚を覚えた。空間そのものが不安定に歪み、その中に何かが潜んでいるようだった。
「この霧…もしかして利用できるのか?」
剣を構え直し、霧の流れに意識を合わせると、剣の先端が淡く光り始めた。その光は霧と融合し、剣の一振りで霧の一部が渦を巻くように動き出す。
「霧散…!」
無意識のうちに呟いたその言葉どおり、剣を振るたびに霧が敵を包み込み、触手の動きを封じていく。
「すごい…霧そのものを操作してるのね!」
葵が驚きの声を上げながら、魔法で霧散の効果を補強する。
敵の触手は霧の中で絡まり、動きを鈍らせた。これを好機と捉え、俺は剣を振り下ろして一撃で仕留める。
試験の終息
「これで…なんとか突破できたか。」
全ての敵を倒し、俺たちは深い霧の先にある扉を見上げた。
「この扉の先が、試験の最終地点だと思う。」
息を整えながら、俺は剣を握り直し、葵と視線を交わす。
「いよいよ…Sランクダンジョンの入口に立てるってわけね。」
葵が微笑みを浮かべる。
「ここまで来たら、後は踏み込むだけだ。」
扉を押し開けると、その向こうには光が満ちており、さらなる試練と可能性が待ち構えていることを感じさせた。
試験終了の告知
扉を越えた先、明るい光が満ちた空間に出ると、目の前に試験の監督官が立っていた。すでに試験が終わったことを告げる声が響く。
「試験はこれで終了です。君たちは見事、Sランクダンジョンに挑む資格を得た。」
その言葉に、俺はほっと胸をなで下ろした。全ての試練を突破し、ついにSランクダンジョンへの道が開かれたのだ。




