27話 武闘大会
異次元の迷宮を攻略した後、僕と葵はようやくその最深部に足を踏み入れた。ダンジョン内の光が静かに消え、今度はその場所で手に入るべき報酬が現れる時が来た。
「これが…」
葵が目を見開く。空間の中に、光を放つ箱が現れた。その箱はまるでこの異次元空間の一部であるかのように、周囲の異様なエネルギーを吸収しているかのようだった。
「開けてみようか。」
僕は慎重に箱を開け、その中から一つのアイテムを取り出した。それは、金色に輝く小さなクリスタルのような物体だったが、触れるとじわりと力を感じる。葵もそれを手に取り、感触を確かめる。
「これ…すごい。」
葵が驚きの声を上げた。クリスタルは、どうやら「異次元のエッセンス」と呼ばれるものらしい。異次元の力を凝縮したこのアイテムは、使い方によっては強力な武器や防具、あるいは新しいバグ技を得るための材料になる可能性がある。
「これで、また力を強化できるかもしれない。」
僕はそのエッセンスをしばらく眺めながら呟いた。今まで得た力に加えて、この異次元の力を手にすれば、次に待ち受ける試練にも対抗できるはずだ。
その後、僕たちは無事にダンジョンを脱出し、地上に戻った。目の前に広がるのは、いつもの景色。だが、僕はもう以前とは違う。新しい力を手に入れ、次なる目標に向かう準備が整っている。
「これで一段落かな?」
葵が少し疲れた様子で微笑んだが、その表情にはどこか満足げなものがあった。
「うん、でも次はもうすぐだろうな。」
僕は答えると、周囲を見渡した。すると、数人の冒険者が僕たちに近づいてきた。
「おい、お前ら…」
そのリーダー格の冒険者が、挑戦的な目を向けてきた。明らかに、何か言いたげだ。
「なんだ?」
葵が警戒の視線を送る。
「聞いたぞ、お前たちが異次元のダンジョンを攻略したって?そんな簡単なダンジョン、俺たちでもすぐにクリアできる。」
リーダーの言葉に、少しムッとした。あまりにも挑戦的な態度だ。
「それがどうした?」
僕は少し挑発するように返した。
「それじゃあ、模擬戦でもしてみるか?お前たちの実力を確かめさせてもらおう。」
リーダーがそのまま腕を組んで挑発してきた。周りの仲間たちも頷き、僕にプレッシャーをかけてきた。
「模擬戦?」
葵が眉をひそめるが、僕は少し考えた後、口を開いた。
「いいだろう。模擬戦をして、実力を見せてやる。」
僕の答えに、リーダーは満足げに笑みを浮かべた。
戦場は近くの広場に決まった。周囲に集まった冒険者たちが見守る中、僕と葵はそのリーダーと彼の仲間たちと対峙した。
「準備はいいか?」
リーダーが言う。僕は一度深呼吸をして、戦闘に臨む心構えを整えた。
「行くぞ。」
リーダーの合図とともに、戦闘が始まった。
まず、リーダーの仲間が一斉に突進してきた。一人は近距離の戦闘を得意とする剣士、もう一人は弓を持つ射手。僕はまず、瞬間移動のバグ技を使い、剣士の攻撃を回避しながら一気に間合いを詰めた。
「早い!」
剣士が驚きの声を上げ、振り向いた瞬間、僕はその間隙を突いて彼を軽く攻撃する。だが、剣士もさすがに経験豊富で、すぐに反応して防御を固めた。
その間に、弓の射手が僕に矢を放ってきた。僕はその矢を避けながら、反撃を準備する。
「葵、頼んだ!」
僕は叫ぶと、葵が素早く動き、弓の射手をターゲットにし、矢を放った。射手が弓を放つ瞬間、葵の矢がそれをかわしながら命中する。射手はその一撃を受け、ひるんだ隙に僕が距離を詰め、連続攻撃を繰り出した。
「くっ…!」
リーダーがその様子を見守りながら、静かに言った。
「さすがに、簡単にはいかないな。」
僕と葵は連携を取りながら、リーダーたちの攻撃を次々とかわし、逆に隙を突いて反撃する。時間が経つにつれて、リーダーの仲間たちは疲れが見え始めていた。
「これで終わりだ。」
僕は最後の一撃を決めるため、全力でバグ技「空間解放」を使った。再び空間の隙間を見つけ、それを操り、リーダーの仲間たちを一気に遠くへ飛ばす。
その瞬間、リーダーは戦意を失ったように動きを止め、戦闘は終了した。
「お前たち、なかなかやるじゃないか。」
リーダーが息を切らしながら、軽く笑った。僕と葵は息を整え、彼の言葉に頷いた。
「これで満足か?」
葵が冷静に言うと、リーダーは少し悔しそうにしてから、最後に言った。
「いや、こっちの負けだ。だが、またいつか挑戦させてもらうよ。」
その後、リーダーたちは去っていき、僕たちはその場を後にした。
地上での模擬戦を終え、少し肩の力が抜けた僕と葵は、次に何をするかを考えていた。冒険者としての活動を続けるには、もっと経験を積む必要がある。それと同時に、今の自分の力をどこで試すべきかを考えるべき時が来た。
その時、街の広場で賑やかな声が耳に入った。何人かの冒険者たちが集まり、話し合っているのが見えた。気になった僕は、葵と共にその集まりに近づいた。
「何の話をしているんだ?」
僕が声をかけると、冒険者の一人が振り返り、ニヤリと笑った。
「お前たちも知らないのか?来月、武闘大会が開かれるんだ。」
その言葉に、僕と葵は互いに顔を見合わせた。
「武闘大会?」
葵が興味津々に聞く。
「そうだ。この街をはじめ、各地から強者たちが集まる大会だ。優勝すれば、大きな名誉と賞金が手に入るし、何より腕試しにも最適だぞ。」
冒険者の男がそう言うと、周囲の仲間たちも口々にその大会の素晴らしさを語り始めた。
僕はその話を聞いて、しばらく考えた。確かに、これまでの冒険で少しずつ力をつけてきたとはいえ、まだ自分の実力に自信が持てていない部分もある。それに、この大会は強者が集まるだけあって、自分の力を試す絶好の機会になるだろう。
「大会に参加する価値はありそうだな。」
葵が言った。彼女もその戦闘の激しさや、腕試しに興味があるのだろう。
「うん、俺もそう思う。」
僕は少し意気込んで答えた。これまでの冒険の中で、何度も命を懸けた戦いをしてきた。しかし、武闘大会はそれとはまた違う、純粋な戦闘の場だ。それに、今の自分がどこまで通用するのかを試すには最適な場所だと思った。
「でも、どうやって参加するんだ?」
葵が尋ねると、冒険者の男はすぐに答えた。
「参加方法は簡単だ。街の中央にある闘技場で受付をしている。誰でも参加できるが、参加費用が必要だ。それと、出場するには最低でもBランク以上の実力が求められるが、今のお前らなら十分だろう。」
男は軽く笑いながら言った。
「Bランクか…」
僕はその言葉を反芻し、少し考えた後、深く頷いた。そうだ、今の自分ならこの大会に出場するだけの実力はある。むしろ、これからさらに強くなるためには、この武闘大会を通じて自分を試さなければならない。
「よし、決めた。俺たち、参加するよ。」
僕は宣言した。葵も頷き、やる気を見せる。
「やっぱり、君と一緒に戦うのは楽しそうだね。」
葵がにっこりと笑う。僕は少し照れくさい気持ちになりつつも、心の中では確信していた。これからの戦いは、単なる試練ではなく、自分の成長を確かめるための大切な機会だ。
その日のうちに、僕たちは闘技場に向かい、武闘大会の参加手続きを済ませた。大会のルールやスケジュールを確認し、参加費を支払うと、僕たちの名前が正式にリストに追加され、出場決定となった。
「これからだ。」
僕は闘技場の外で葵と話しながら、自分を鼓舞した。大会までは少し時間がある。その間に、さらに力をつけて、しっかり準備を整えなければならない。
「うん。全力で頑張ろうね。」
葵が力強く答える。
武闘大会の開幕まで、残された時間を無駄にはしない。これからの戦いに備え、僕たちは一層強くなる決意を固めた。




