15話 瞬間移動
Cランク昇格試験を無事にクリアした後、次に目指すのは嵐の塔だ。試験を受けたことで俺の戦闘スキルや経験がさらに磨かれた感覚があったが、まだまだ足りないことを感じていた。この先、Bランク昇格を目指すためには、もっと力をつけなければならない。
葵も俺と一緒にここに来ることに決めていた。「Cランク試験、合格したけど、まだ道は長いな。」と、少しだけ肩をすくめる葵の顔に、迷いはない。
「うん、これからが本番だよな。」
俺が答えると、葵はニコッと笑う。試験を終えても、目の前に立ちふさがる強敵に立ち向かう覚悟は変わらなかった。
嵐の塔は、その名の通り、激しい風と雷の精霊が支配するダンジョンだ。風を操るモンスターたちが群れをなしているだけでなく、雷の精霊まで現れるため、一歩間違えると大きな危険に晒される。
「試験とは違って、こっちの塔はかなり厄介だな。」
葵の言う通りだ。風と雷の影響で、直接的な戦闘がかなり難しい。普通のモンスター戦なら俺のバグ技が役立つが、嵐の塔ではその精度が試される。
塔の内部に入ると、さっそく風の精霊たちが現れた。モンスターたちは風を使って攻撃してくるが、こちらも一筋縄ではいかない。風を操る精霊たちの速度に対応するのは簡単ではない。
「どうする?」葵が言うと、俺はすぐに考えを巡らせた。
「ちょっと待ってろ。」
俺はまず、腕が伸びるバグを使って遠距離から精霊に攻撃を試みる。風の精霊は攻撃してきても、腕が届く範囲であれば簡単に攻撃を避けることができる。伸ばした腕で一体を倒すことができた。
その後、葵が風の精霊を一掃するために風を利用した魔法を発動するが、風の精霊たちは驚異的に速く、すぐに動きが読めなくなる。だが、葵の魔法は精霊たちを鈍らせることに成功した。
「ナイス!」
俺はその隙に、すり抜けバグを活用してさらに進んだ。足元の岩をすり抜けて、壁の奥にあった宝箱にアクセスした。中身は装備品だが、何よりもそのスピードが肝心だった。
嵐の塔の中盤に差し掛かると、風精霊たちだけでなく、雷の精霊も加わってきた。雷を発生させるモンスターが雷弾を投げ、部屋全体を攻撃してくる。俺たちもその衝撃を避けながら、慎重に立ち回らなければならない。
「ちょっと厄介だな…」
俺が呟くと、葵が目を鋭くして言った。
「これなら、空中ジャンプを使って高いところに逃げた方がいい。」
確かに、雷の精霊の攻撃を避けるには、空中を使うのが一番だ。俺はすぐに空中ジャンプバグを発動させ、何度も宙に浮かびながら雷を避け、雷精霊たちをかわして進んでいった。
「腕が伸びるバグも使って、遠くの精霊を狙う!」
葵が手を伸ばし、精霊を倒しながら進んでいく。俺はすり抜けバグで壁を抜け、またすぐに腕を伸ばして精霊を討つ。次第に俺たちは勢いを増し、塔の最深部へと足を進める。
とうとう、ボス部屋の前に到達した。扉は頑丈に閉ざされていて、中からは雷の轟音が響いている。俺は葵と目を合わせ、深く息を吸い込んだ。
「ここまで来たけど…少し休んでいこうか?」
葵が提案する。確かに、緊張もあるし、ボス戦前に少しでも体力を回復したい。
「うん、それがいい。」
休憩を取りながら、俺は次に何が起きても対応できるように準備を整える。いよいよボス戦だ。だが、俺にはもう一つ、心の中で決めたことがあった。それは――
「やるべきことがある。」
俺は決意を固め、葵に頷いた。
「ボス、倒すぞ。」
休憩を終え、俺と葵はボス部屋の扉の前に立っていた。雷の音が時折響き渡り、扉の向こうからは不気味な振動が伝わってくる。緊張感が高まり、俺の心臓も早鐘のように打ち鳴らされる。
「準備はいいか?」
葵が小さな声で言う。僕も同じように深呼吸してから答える。
「うん、行こう。」
扉を開けると、そこには巨大な雷の精霊が待ち構えていた。体全体から雷が放たれ、周囲を暗闇のように包み込む。巨大な姿は圧倒的で、動くたびに雷がバチバチと音を立てて暴れ回っている。
「これがボスか…」
俺が呟くと、葵はしっかりと前に出て言った。
「準備して、私がサポートする。」
俺はすぐに腕を伸ばすバグ技を使い、ボスの足元に伸びた腕で攻撃を仕掛ける。だが、ボスは軽々とその攻撃をかわし、雷を飛ばしてきた。俺はすぐに空中ジャンプバグを使って、空中で回避する。
「くっ!」
ボスの雷弾が僕の足元を掠め、少し焦げた臭いが立ち昇る。だが、それでも僕は動じず、すぐに反応する。
「腕を伸ばして、雷精霊に近づける!」
俺が叫ぶと、葵もすぐに魔法で支援する。雷精霊の周りを巻き込むように風を操り、精霊たちの動きを封じ込める。
「よし、今だ!」
俺は腕を伸ばし、ボスの頭部を狙って一気に引き寄せる。だが、ボスの雷が炸裂して、腕が焼けるように痛む。だが、やり直すことはできない。これが最後のチャンスだ。
ボスが次の雷を放とうとした瞬間、僕はすり抜けバグを使ってボスの足元を突き抜け、地下に向かって落下した。足元にある岩壁をすり抜けながら、地面に近づくと、すかさず腕を伸ばしてボスの背後に回り込む。
「今だ!」
葵が叫び、僕は再度ボスの頭に向かって腕を伸ばし、直接攻撃を仕掛ける。今度こそ、ボスの雷精霊を一気に制圧するために、強力な一撃を加える。
しかし、ボスはそれを避けることなく、再び雷を放ち、激しい反撃に出てきた。
「うわぁ…!」
僕は激しい雷の攻撃を受けて、空中で一度浮かび上がる。が、その瞬間、再び雷の弾が直撃して、体が弾け飛ぶような感覚が広がった。
葵が叫んで駆け寄る中、俺の意識がぼやける。
「だめだ、もう無理か…」
そのとき、葵が強く手を握りしめ、俺を支えてくれた。
「大丈夫、まだ終わってないよ。」
葵の声は力強く、確かなものだった。
「それでも…」
俺は顔を上げ、ボスに目を向ける。
そこに現れたのは、ボスの雷精霊に勝てる力が見えてきた瞬間だった。
ボスの雷精霊に再び挑戦するも、何度も反撃を受け、体力が限界に近づいていた。雷の閃光が切れ間なく襲いかかり、空気はひどく熱く、肌を焼くような感覚が広がる。葵も必死にサポートしてくれているが、それでもボスの攻撃は予想を超えて強力だ。
「くそっ、何度やっても倒せない…!」
雷精霊の一撃がまた俺に直撃し、体が吹き飛ばされる。その瞬間、ふとあることが頭に浮かんだ。
「このままだと…終わっちまう…」
俺は、必死に何か方法はないかと考えながら空中で体勢を立て直す。その時、突然、脳内でひらめきが走った。あの瞬間移動のような感覚――それを何度か経験しているような気がした。
「もしかして、また…あれか?」
次の瞬間、何も考えずに本能的にその感覚を使ってみた。空中で体が一瞬静止し、そこから急激に移動が始まる。
「うわっ!?」
体が一気に異次元に引き込まれるような感覚に襲われる。それがほんの一瞬のことで、すぐに元の場所に戻ってきた。視界が一瞬歪み、目の前にボスの姿が突然現れる。
「これが…瞬間移動…?」
予想以上に速かった。意識が追い付く前に、俺はすでにボスの背後に立っていた。そして、気が付けば腕が伸びて、ボスの硬い外殻に一撃を加えていた。
「よし、今だ!」
その瞬間、俺の腕が伸び、雷精霊の弱点である首の後ろに命中する。雷精霊が激しくうめき声を上げ、その動きが止まる。ボスは一瞬の隙を見せ、次の攻撃が遅れた。
「行けっ!」
俺は再び腕を引き寄せ、今度は全力で雷精霊に向かって攻撃を加える。しかし、すぐに反撃が返ってきた。雷精霊が体を震わせ、怒り狂ったように雷を放ち出す。だが、その隙を突いて、俺は瞬間移動を再び使ってボスの懐に入り込み、圧倒的な速さで攻撃を加えた。
「これは…使える…!」
瞬間移動は思った以上に強力で、まるで瞬時にボスの周囲を飛び回るかのようだった。その結果、雷精霊が反応する間もなく、俺の腕がボスの硬い体にダメージを与え続ける。
「葵、いけるぞ!」
俺は叫び、葵に合図を送る。葵が魔法を放ち、ボスの動きを完全に止めた。その隙をついて、俺は再び腕を伸ばして、雷精霊の背中を貫く。
その瞬間、雷精霊が一度大きくうねり、爆発的な光を放った。光が消えた後、静寂が広がる。ボスの体は消え去り、倒した証となるアイテムが落ちてきた。
「やった…倒した!」
俺と葵は息を呑みながら、倒したボスの前に立つ。疲れ切っていたが、勝利の喜びがその体に力を与えてくれるようだった。
「やっと、倒せたね。」
葵は安堵の表情を浮かべ、俺に微笑んだ。その笑顔に、どれだけ救われたか分からない。
「ありがとう…葵。」
俺は思わず彼女に感謝の気持ちを込めて言った。葵は少し照れくさそうに笑い返し、「私も助けられたよ。」と答えた。
その後、俺はボスから手に入れたアイテムを確認した。それは雷精霊にちなんだ防具と、雷の力を使う魔法書だった。どちらも強力なアイテムで、今後の冒険に役立つことだろう。
だが、今の俺にはもっと大きな挑戦が待っている。それは、瞬間移動という新たなバグ技を使いこなすこと。そして、この先のダンジョンで何が待ち受けているのかを知ることだ。
「次はもっと強い敵が待ってるだろうけど…」
俺は葵と共に、次の冒険に向けて準備を整えた。




